卵黄由来シアル酸及びシアリルオリゴ糖の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれていたシアル酸およびシアリルオリゴ糖の製造技術

 シアル酸は、動物の細胞に含まれている物質で、細胞間の情報の伝達や認識に関与していると考えられており、実用的には医薬品などの原料として用いられている。一方、シアリルオリゴ糖は、シアル酸と同様、細胞に含まれている物質で、ウィルスや毒素の中和作用があるため離乳食などに用いる機能性の食品素材としての用途が期待されている。
 シアル酸を得るには、従来、ミルクに含まれるものを分離する方法や大腸菌の細胞膜に存在するものをとり出す方法が知られているが、含有量が低いなどの問題があり大量製造には必ずしも適していなかった。また、シアリルオリゴ糖は、細胞に含まれるが、分子構造は一定ではない。このため、化学合成により純粋なものを得る試みがなされているが、合成反応が複雑なため現在のところ実用規模での製造法は確立されていない。このようなことから、これらの物質を工業的に製造する方法の開発が望まれていた。

(内容)
脱脂した鶏卵卵黄を原料とし、順次、加水分解、膜分離、電気透析、クロマト分離を行いシアル酸を製造するとともに、同様の脱脂した鶏卵卵黄を原料とし、順次、酵素分解、膜分離、電気透析を行いシアリルオリゴ糖を製造

 本新技術は、安価で大量に得られる鶏卵卵黄にシアル酸及びシアリルオリゴ糖が含有されていることに着目し、これを加水分解あるいは酵素分解することでシアル酸及びシアリルオリゴ糖を分離して製造するものである。
 鶏卵卵黄を原料とするシアル酸の製造工程は、まず、脱脂した卵黄に酸を加え加水分解し、その後に濾過する。この濾液を膜分離し、シアル酸と塩類などの混合液を得る。次に電気透析により塩類を除く。さらにイオン交換クロマトグラフィーにより精製し、高純度のシアル酸を得ることができる。
 一方、シアリルオリゴ糖の製造は、まず、脱脂した卵黄を、ペプチド−N−グリコシダーゼあるいはエンド−β−アセチルグルコサミニダーゼ(いずれも、マメ科の植物の一種であるタチナタマメ由来の酵素)により酵素分解して水に溶けるようにする。シアリルオリゴ糖はタンパク質と結合して存在するが、酵素分解によりタンパク質とシアリルオリゴ糖の間を切断しシアリルオリゴ糖を遊離させる。以下は、順次、膜分離、電気透析を行い、シアリルオリゴ糖を得ることができる。シアル酸及びシアリルオリゴ糖の製造においては製造工程が類似しているため、両方を製造する場合には設備を共用することが可能である。

(効果)
期待される医薬品中間体や食品素材などへの利用

本新技術には、次のような特徴がある。

(1) シアル酸及びシアリルオリゴ糖を含有し、安定して安価に入手が可能な鶏卵卵黄を原料 とするため、大量の製品を低コストで製造することが可能。
(2) シアル酸及びシアリルオリゴ糖の製造において、製造工程が類似しているため 両方を製造する場合には設備を共用できる。

従って、以下の用途に利用が期待される。

(1) 本方法により製造されるシアル酸及びシアリルオリゴ糖は、鶏卵卵黄を原料とするため 安全面に優れ、医薬品中間体(シアル酸)及び食品素材(シアリルオリゴ糖)などへの利用が期待されれる。
(2) 本方法により製造されるシアル酸は、各種のシアル酸化合物を合成するための出発物質 となる。また、シアリルオリゴ糖は、従来、一般に入手が困難であった。このため、これらの物質を必要とする糖鎖関連の研究などにおいて利用が期待される。


This page updated on May 14, 1999

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