小型軽量大動脈内バルーンポンピング装置


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
抗血栓性に優れたバルーンと小型・軽量の駆動装置が望まれていた

 急性心筋梗塞や心臓手術後などで心機能の低下した患者を治療するため、胸部大動脈内にバルーン(風船)を挿入し、心臓の拍動に合わせてバルーンを膨張・収縮させる大動脈内バルーンポンピング(IABP : Intra-Aortic Balloon Pumping) が行われている。これは、バルーンカテーテルを大腿部などから経皮的に血管内に挿入するだけの簡単な操作で治療を始められ、患者に与える侵襲も少ないため普及が進んでいる。
 従来入手可能な製品は欧米からの輸入品であったが、研究者らはこれらを使った多くの治療経験に基づき、日本人の身長とそれに適応したバルーンサイズ(長さ・直径)との関係を体系的に導き出した。また、バルーンを駆動するポンプ本体は大型で重いため使用場所が限定されていたので、救急患者を発症現場あるいは地域病院から基幹病院などへ移送する際にも使用できることの必要性が指摘されていた。このため、従来品と同等以上の抗血栓性、機械強度を備え、患者の体格に適合した大きさのバルーンと、救急車への搭載、ベッドサイドへの接近が可能な小型・軽量のバルーンポンピング装置の開発が望まれていた。

(内容)
新ポリマーによるバルーン部と小型・軽量の駆動部

 本新技術の大動脈内バルーンポンピング装置は、これらの要請を満足するものであり、従来品と同等以上に抗血栓性と機械的強度に優れた、含フッ素セグメント化ポリウレタンとポリウレタンの積層構造からなるバルーンカテーテル部と、ステッピングモータとベロースによるピストン駆動方式などで小型・軽量化を図ったバルーン駆動部より構成されている。装置の詳細は以下のとおりである。

バルーンカテーテル部:
 バルーンの材料としては、新規ポリマーである含フッ素セグメント化ポリウレタンをポリウレタン基材 の上に積層させて用いる。このポリマーは、現在抗血栓材料として一般に使われているカルジオサン (ウレタンとシリコンの共重合体)、バイオマー(セグメント化ポリウレタン)などの材料に比べ同等以上の 抗血栓性を有し、破断強度も800kg/cm2とこれらの1.5倍〜2倍に達し、柔軟性にも富んでいる。
 バルーンサイズは日本人の身長と胸部大動脈長の相関などを考慮し、患者に適合した大きさとなるように3種類 を設計した。
バルーン駆動部:
 バルーン駆動装置は、従来、陽圧と陰圧の2つの圧力タンクを備え、電磁弁により流路を切り換えてバルーンを膨張・収縮させる構造となっていた。本駆動装置では、ステッピングモータとベローズによるピストン駆動方式とすることで小型・軽量化を図っている。また、バルーン駆動の制御についても、本装置では患者の心電図、動脈圧及びバルーンの内圧をモニターしながら、心拍に同期させてバルーンを駆動するソフトウェアを確立することで、不整脈発生時などに対応できるなど治療の信頼性を向上させた。
(効果)
急性心筋梗塞、心臓手術後などの患者に対する治療

 本新技術による大動脈内バルーンポンピング装置は次のような特徴がある。

(1) 本バルーンカテーテルは、優れた抗血栓性と機械的強度、柔軟性を持つためバルーンポンピング治療の信頼性が向上する。
(2) 心電図及び血圧の入力信号を波形解析しモニターしながら駆動するので、不整脈発生時にも最適な駆動が可能となる。
(3) 装置が小型・軽量であるため、患者移送時の救急車内での使用やベッドへの取りつけが可能となる。
(4) バルーンサイズを小柄な日本人の体格に適合させている。

 従って、本新技術による大動脈内バルーンポンピング装置は、

(1) 病院における急性心筋梗塞、心臓手術後などの患者に対する安全なバルーンポンピング治療、
(2) 救急車内など、患者の移送時におけるバルーンポンピング治療、

などにおいて広く利用が期待される。


This page updated on May 14, 1999

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