導電材用高強度銅合金の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
 望まれていた高強度で導電性の良好な材料

 一般に、合金化や加工歪みの導入によって金属の強度を高めようとすると、導電率は低下する。従来、電線や電気部品などに使われる導電材として、銅を主成分とする合金が多数、開発されており、銅本来の良好な導電性を損なわずに必要な強度を得る努力がなされてきた。近年では、(1)エレクトロニクス部品の小型軽量化、信頼性向上、あるいは、(2)電気鉄道の高速化に必要な架線張力増大、(3)科学研究用の強磁場発生装置に用いられる大電流導電コイルに要求される発熱低減および磁場がコイルに及ぼす力への耐性向上のために、さらなる強度の増強と導電率の向上が望まれている。
 従来、導電材用合金の開発で高強度を得るためには、素地の金属の純度を上げることで導電率を回復させる効果を重視する立場から、いったん銅に一様に固溶(注1)させた添加物を熱処理により析出させて、その析出物が塑性変形を阻害する効果を利用して材料強度を得る方法(析出強化法)が比較的有利とされてきた。従って、原料の面からも、導電率の高い銅に対する添加元素として、ベリリウム、クロム、コバルト、ジルコニウムなどの析出強化の効果の大きいものが選ばれてきた。

(内容)
銀を添加し、伸ばすなどの加工と熱処理の複合効果により、導電率を回復させつつ強度を向上。

 本新技術は、銅への添加元素として、析出強化の効果は大きくないが最も導電率の高い金属である銀を用い、製法においては、熱処理と伸ばすなどの加工を組み合わせて、加工による強化と同時に析出の効果を高めることにより、高強度と同時に良好な導電性を実現させたものである。このような複合的な処理が銅銀系に対し適用可能なのは、(1)銀が銅に(あるいは銅が銀に)安定に固溶できる量(固溶限)の温度依存性が十分大きく、析出物の分布を比較的容易に制御できることに加え、(2)析出処理により加工性が著しく低下する従来の析出強化型合金と異なり、銅銀合金では析出物が生じても続けて大きな加工を施すことができるためである。
 本新技術による製法は、加工前にいったん添加物を銅に固溶させる溶体化処理は行わず、また、添加物を析出させる熱処理ののちにも加工を加える点で、従来の析出型合金の製法と大きく異なる(図1,図2)。まず、銅に6重量%以上の銀を配合し、溶解・急冷することにより、初晶銅固溶体(注2)と共晶相(注3)からなる鋳造合金を得る。このような鋳造合金に熱処理と冷間加工(熱処理は結晶の歪が緩和しない程度の温度で行い、また伸線などの加工も室温付近で行う)とを交互に施し、鋳造合金(過飽和の銅固溶体および銀固溶体からなる)から溶質(銅固溶体における銀、銀固溶体における銅)を析出させながら組織を引き延ばす。この工程において、冷間加工により導入される歪み(転位)は合金の強度を高めるとともに析出の起きやすい場所を形成し、熱処理の際の析出を促進する。
 本新技術により、導電率を国際基準軟銅の80%程度以上に保ちながらも、引っ張り強度800MPa以上まで強化した合金を得ることができる。得られた銅合金は銅固溶体と銅銀共晶とが各々ファイバー状となる複合構造をもち、さらに、銅固溶体部分にも析出した微細な銀のファイバーが、また銅銀共晶相部分にも微細な銅のファイバーが形成される。導電性が良いのは、このように合金を構成している2相の固溶体の溶質が十分析出し、実質的に純銅と純銀の複合材料となっているためと考えられる。また高い強度が得られることについては、(1)加工によって導入された転位の効果(加工強化)、(2)鋳造時の微細晶出物およびその後の過飽和固溶体からの微細な析出物が転位の集積を促進する効果のほか、(3)銅固溶体と細く引き延ばされた微細析出物および共晶相のファイバーによる微細な複合構造、が理由と考えられている。

(効果)
強磁場発生,エレクトロニクス,鉄道の分野での導電材として利用が期待される。

 本新技術による銅合金は次のような特徴を持つ。

(1) 高強度と良好な導電性の両性質を合わせ持つ。
(2) リサイクルが容易。

従って、

(1) 強磁場発生用の導体
(2) エレクトロニクス用部品
(3) 鉄道列車への電力供給用の架空線(トロリー線)

への利用が期待される。

 
(注1) 異なる物質が混合して均一な固相をなすこと。
(注2) 冷却された時に最初に現れる固相で、銅を溶媒とし銀を溶質とする固溶体。
(注3) 初晶銅固溶体と同じく銅を主成分とする固相(α相)と銀を主成分とする固相(β相)が競合して晶出することによってできたα相とβ相が混合した固相。


This page updated on May 14, 1999

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