研究主題 「セラミックス超塑性」の構想


 セラミックスは、イオン結合性あるいは共有結合性の多結晶固体材料であり、原子間結合力が強固であるため、耐熱性、耐摩耗性、強度の面で他の材料にはない優れた特性を有している。反面、硬くてもろく、ほとんど変形しないで破壊してしまうため、セラミックスを金属のように自由自在に変形、加工して複雑な形状の製品を作ることは不可能であった。しかしながら、最近のセラミックスの超塑性現象の発見はこの常識を覆した。
 超塑性とは、ある種の多結晶固体材料を、融点よりもかなり低い温度(表1参照)で力を加えると、基本的特性を損なうことなく大幅に変形し、あたかもチューインガムのように伸びる性質のことである。この現象は金属材料については以前から知られており、超塑性を応用した成形加工により、ニッケル基超耐熱合金や航空機用軽量化部品など、従来の製法では困難な物が製造されている。
 セラミックスの超塑性の研究は、本共同研究の日本側代表研究者若井史博氏が、代表的構造用セラミックスであるジルコニアにおける超塑性を発見したことがきっかけとなって世界的に開始された。これまでに、高硬度材料である窒化ケイ素、生体材料の一種であるハイドロキシアパタイトなどで相次いで超塑性が報告され、超塑性現象は特定のセラミックスにおいてのみ見られる特殊な現象ではなく、微細粒多結晶固体材料における普遍的な現象であることが明確となった。すなわちセラミックスの超塑性現象は、結晶粒径がナノメートル・スケールに近づくと現れ、それは、粒界面での密着を保ちながら結晶粒相互にすべりが生じ、結晶粒の再配置や回転により巨大な変形が生じるためであると考えられている。
 このようにナノ・メートルスケールの組織をもつ多結晶固体の物性は結晶粒界の構造と動的な挙動に強く支配され、通常の多結晶体の常識を越えた特性を示す。
 本研究では最も強固な原子間結合をもつ共有結合性セラミックスの超塑性という物質の変形の極限を探究することを通じて、一見乱雑な結晶粒界の原子配置とそれから生ずる動的粒界現象を取扱う新しい科学的な手法を生み出して、セラミックスの高温物性の理解と制御に新しい光を投げかけることを目指す。

具体的には、次の事項について研究する。
(1)セラミックスの超塑性変形特性が原子レベルでの粒界構造や結晶と粒界との相互作用を敏感に反映することに着目し、様々な粒界構造をもつ共有結合多結晶体の高温での巨視的な力学的物性と超塑性挙動を重点的に調べるとともに、1ナノメートル程度の粒界における動的現象に関する知見を、実験的、理論的に得ることを目指す。
(2)このために、粒界に非晶質相が存在しない多結晶体、粒界非晶質相も完全に共有結合性である多結晶体、粒界非晶質相にイオン結合性原子を導入した多結晶体を創成する。これらは原子配列を制御した2元系及び多元系高分子プリカーサー(注)の熱分解で得られた非晶質体の結晶化プロセス、あるいは超微粒子焼結による構造制御の研究を通じて開発する。
また、構造の形成過程を調べ、理解することによって、セラミックスのナノ・ミクロ構造の設計と制御を目指す。

 これらの研究により、セラミックスの高温での変形と破壊を支配する粒界の性質が解明され、粒界構造や変形特性を制御する新手法が得られる。また、容易に超塑性変形させたり、あるいは逆に、高温でも全く変形しない材料を開発する指針が得られ、セラミックスの超塑性加工の実用化や熱効率に優れたセラミックガスタービン実現の基礎が築かれることが期待される。

(注)  従来、セラミックスは、原料粒子を焼結して製造しているのが一般的である。マックス・プランク金属研究所は、原子配列を制御した高分子を材料とし、この高分子に熱を加えることで、セラミックスを製造する新しい手法を開発した。
 高分子プリカーサーとは、このセラミックス製造法で原料として使用する、原子配列が制御された高分子のことを言う。
 この高分子プリカーサーの骨格が、シリコン、カーボンなど2種類の元素で構成されるものを2元系高分子プリカーサーと言い、3種類以上の元素で構成されるものを多元系高分子プリカーサーと言う。


This page updated on May 14, 1999

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