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参考1

平成25年度 募集の概要

1.事業の目的

戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)は、社会の具体的な問題の解決を通して、社会的・公共的価値の創出を目指す事業です。社会問題の解決に取り組む関与者と研究者が協働するためのネットワークを構築し、競争的環境下で自然科学と人文・社会科学の知識を活用した研究開発を推進して、現実社会の具体的な問題解決に資する成果を得るとともに、得られた成果の社会への活用・展開を図ります。

2.研究開発領域・プログラムの概要

①「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造 研究開発領域」の概要

20世紀が科学技術の発展によって経済活動の拡大と人口爆発を招いた結果、21世紀は「リスク社会」であるという指摘があります。リスク社会において安全・安心な生活基盤を守り、持続的な発展を続けていくためには、さまざまな種類のリスクに対して強くしなやかに対応できる社会を構築していくことが求められます。

災害や危機のない社会を作ることは理想ですが、投入できる資源には限界があります。限られた資源を使って少しでも「強くしなやかな社会」の実現を図るためには、社会にとって脅威となるリスクを同定し、社会が何に対してどう備えるべきかを明確化していかなくてはなりません。

強くしなやかな社会の実現に向け、確実に被害の軽減につながる研究開発を進めるためには、さまざまな分野の科学技術を集めて総合化することが不可欠であるとの考え方は、多くの分野の人が賛成しているところです。いま必要なのは、社会実装を目指して、こうした考え方を実践に移すことです。

研究開発領域「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」では、「コミュニティ」と「つなぐ」という2つの言葉を大切なキーワードとしています。特に広域かつ複合的な災害に対しては、既存のコミュニティの枠にとらわれることなく、産・学・公・市民などの多様な社会主体をどのようにつなぎ、それらがより一層大きな力を出せる場をいかにして作り出すか、といった視点からの検討が必要になります。 平常時のリスクコミュニケーション、そして緊急時のクライシスコミュニケーションを有効に機能させるためにも、その前提となる人間や社会の本質、さらには現実の課題が持つ本質に着目し、これまで蓄積された個別の知見や技術を出発点として、それらをつなぎ、「強くしなやかな社会」の実現を目指した社会実装を行おうとする試みを数多く世に送り出していきたいと考えています。

②「科学技術イノベーション政策のための科学研究開発プログラム」の概要

近年、地球温暖化やエネルギー、感染症、少子高齢化等、広範かつ複雑な社会的問題が顕在化しています。それらの問題解決に向けた取り組みにおいては、先端的な研究や技術開発の貢献が期待される一方、あわせて、研究開発成果等の活用等を通じた新しい経済的、社会的・公共的な価値の創造により社会のシステムの変化を促すイノベーションの重要性が指摘されています。このため、問題解決に向けて効果的に研究開発を推進していくためには、科学技術政策に加えて、関連するイノベーション政策も幅広く含めた「科学技術イノベーション政策」を、産業政策や経済政策、教育政策、外交政策等の重要政策と密接に連携させつつ、戦略的に展開していくことが急務となっています。

限られた資源をより効率的に活用しつつ、戦略的に科学技術イノベーション政策を展開するためには、経済・社会等の状況、社会における課題とその解決に必要な科学技術の現状と可能性等を多面的な視点から把握、分析し、それらの客観的根拠(エビデンス)に基づき、合理的なプロセスにより政策を形成するとともに、政策形成過程の透明性を高め、国民への説明責任を果たしていくことが必要です。

一方で、科学技術イノベーション政策においては、所期の目標の達成に不確実性が伴うことや目標の達成までに長期的な取り組みが必要なことなどから、政府研究開発投資をはじめとした政策の経済や社会への影響を客観的・定量的に把握し、政策の効果を評価することには、かなりの困難が伴います。また、科学技術の進歩とイノベーションの進展の因果関係やそのプロセスにおける政策の効果や影響についても十分な理解が進んでいるとはいえません。

このような背景や問題意識のもと、文部科学省では「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」を立ち上げ、「政策課題対応型調査研究」、「公募型研究開発プログラム」、「基盤的研究・人材育成拠点の形成」、「データ・情報基盤の構築」を推進しています。

社会技術研究開発センターでは、上記の「公募型研究開発プログラム」として「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」を設置し、社会的問題の解決に資する科学技術イノベーション政策の形成に向け、客観的根拠に基づく合理的な政策形成プロセスを構築するための研究開発を推進しています。

③「問題解決型サービス科学 研究開発プログラム」

サービスは社会的・経済的価値を生み出す機能を有し、金融業や小売業、情報サービスなどから、環境・エネルギー、行政、福祉・医療などの公的サービスまで幅広い分野に至りますが、我が国では、従来、商品に付加的なもの、あるいは製造業と区分されたサービス産業における商品として捉えられてきた側面があります。一方、サービスにより生まれる価値には、サービスと貨幣の交換による価値に留まらず、モノやサービスを利用することによる利用価値までも含まれ、サービスとモノとは不可分であるという考え方が近年、世界的に拡がりつつあります。

「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」では、社会の具体的あるいは潜在的なニーズを把握し、実データや事例を利用し、単なる既存サービスの科学的アプローチによる効率化だけでない、分野融合型でサービスの提供者と被提供者を含むアプローチによる問題解決のための科学的な概念・技術・方法論などの開発を行うとともに、「サービス科学」の研究基盤構築を目指した研究を推進します。また、研究成果のさまざまなサービスへの活用により問題解決をすることでの社会貢献、「サービス科学」の研究者・実践者のコミュニティ形成に貢献します。

④「研究開発成果実装支援プログラム」

研究開発成果実装支援プログラムは社会技術研究開発センターに固有のプログラムです。研究の成果が実用化され定着するまでには研究・開発・実証・普及の4段階があります。産業のための研究開発では成果による便益があると考えられれば、個別の企業がリスクを負担して研究から普及までのすべての段階を一貫して実行します。

一方、社会のための研究開発は実現すれば極めて効果的であると思われるものであっても、研究開発の段階に留まっています。その理由は研究開発の成果が社会に便益をもたらすかを実証するリスクを誰が負担するかが不明確だからです。そのため研究開発の成果は実用化されることなく知の倉庫で眠り続け、いつしか忘れ去られてしまうものが少なくないのです。

実証・普及は受益者の負担であるという考えから一歩踏み出し、実証段階を支援することによって研究開発から実用化までをシームレスにつなぎ、研究開発の成果をできるだけ早く社会に届ける装置として考え出されたものが研究開発成果実装支援プログラムです。