研究開発領域「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」≪平成24年度発足≫
(カテゴリーⅡ)2000~3000万円程度/年
【カテゴリ-】※1 題 名 |
研究代表者名 所属・役職 |
概 要 | 研究開発に協力する関与者 |
---|---|---|---|
【Ⅰ】 レジリエントな都市圏創造を実現するプランニング手法の確立 |
廣井 悠 名古屋大学 減災連携研究センター准教授 |
東日本大震災では、従来に比べて圧倒的に広域かつ甚大な被害がもたらされている。しかしながら、現在の広域地方計画は各広域圏のビジョンを集めたものになっている。レジリエントな社会の形成には、長期的視野の確保、マルチハザードリスクの想定、都市圏スケールを考慮した計画論が重要な課題となっている。 本プロジェクトは、科学的根拠に基づいた技法としてワークショップを通じた計画立案を手法として確立し、ステークホルダーの役割を検証することも通じて、レジリエントなコミュニティが備えるべき要件と必要な社会制度を明確にすることを目的とする。 具体的には、中京圏で主要なステークホルダーを集め、地域・産業の将来像と広域エリア全体の将来像をそれぞれ提案し、地域の実情に即した広域的調整を可能とするプランニングガイドを策定することを目指す。 |
|
【Ⅰ】 持続可能な津波防災・地域継承のための土地利用モデル策定プロセスの検討 |
山中 英生 徳島大学 大学院ソシオテクノサイエンス研究部教授 |
南海トラフ巨大地震への備えとして、津波災害が想定される沿岸地域では土地利用規制や事前防御型移転などの土地利用対応の必要性が指摘されている。その一方で限界集落化が加速しており、持続可能なまちづくりが必要とされている。 本プロジェクトは、災害防御を目指した新たな規制や開発と、今後の人口減少の進展に対する地域継承をも目指したまちづくりの観点から、土地利用モデルを考える上での課題や障害、その解決法の選択肢を提示することを目的とする。 具体的には、徳島県を対象とした市街化シミュレーションやリスクコミュニケーションを通じて、都市計画マスタープランおよび協働的土地利用モデルの策定過程を記述・体系化することで、今後の津波災害対応に向けた様々な選択肢や時機などを検討し、理論化することを目指す。さらに、徳島県を越えて展開可能なモデルとなるよう、汎用性についても検証する。 |
|
【Ⅱ】 災害医療救護訓練の科学的解析に基づく都市減災コミュニティの創造に関する研究開発 |
太田 祥一 東京医科大学 救急医学講座教授 |
都市部での災害発生に備え、その地域の住民だけでなく、勤務者・学生なども巻き込んだ各種訓練が近年実施され始めている。訓練実施には過大な労力を要するが、訓練の効果を科学的に解析して有用性を証明したり、指針作成、標準化につなげたりするような仕組みはできていない。同時に、訓練自体を興味深い内容にして、本来参加が期待される人々が積極的に参加するような仕掛けづくりも必要とされている。 本プロジェクトは、災害後急性期に発生する膨大な医療ニーズをいかに処理するかという観点から災害医療訓練を捉え、その効果を科学的に検証し、「減災につながる地域における自立した災害医療救護」を社会実装するためのマネジメント・ガイドラインを策定することを目的とする。 具体的には、人流解析や会話分析を通じて訓練プログラムの洗練化、標準化を図り、いつでも、どこでも、だれでも、楽しく訓練参加ができるようなエデュテインメント(楽しみながら学習する手法)性の高い訓練パッケージの構築を目指す。 |
|
【Ⅱ】 借り上げ仮設住宅被災者の生活再建支援方策の体系化 |
立木 茂雄 同志社大学 社会学部教授 |
東日本大震災で初めて制度化された民間賃貸住宅の借り上げによる仮設住宅の大量供与により、多くの被災者が分散して住むという状況が現出した。しかしながら、このような状況における被災者の生活再建過程に関する知見はほとんど蓄積がなく、効果的な生活再建支援施策の立案と実装を図ることは喫緊の課題である。 本プロジェクトは、借り上げ仮設世帯の生活再建過程の特徴や課題を明らかにし、一人ひとりの被災者へのきめ細かい対応を支援するための方法論の開発および社会実装を目的とする。 具体的には、仙台湾沿岸被災地域を対象エリアとしてエスノグラフィー(民族誌)調査やワークショップ調査を実施し、分散居住する被災者の生活再建過程について、個人レベル・まちレベルでの再建課題の解明を目指す。そして、多様なコミュニティにつなぐための方法論や災害ケースマネジメント・パッケージの開発・実装も目指す。さらに、直下型地震の場合にも展開可能なモデルとなるよう、汎用性についても検証を行う。 |
|
【Ⅱ】 大規模災害リスク地域における消防団・民生委員・自主防災リーダー等も守る「コミュニティ防災」の創造 |
松尾 一郎 特定非営利活動法人環境防災総合政策研究機構環境・防災研究所 副所長 |
近年の大規模災害では「地域の守り手」が活動中に被災した。彼らの多くは、コミュニティを守るため、避難が出遅れた住民や動けない住民を救護中に被災したものであり、地域の防災力を著しく低下させた。このように消防団・民生委員などが個別に対応する従来型の防災システムの限界が露呈しつつある。 本プロジェクトは、地域を構成する各主体(住民・自治会・消防団・民生委員児童委員・防災機関等)が危機対応力を高め、連携し自律的に行動する新たな「自立型地域コミュニティ」の構築手法とルールの開発を目的とする。 具体的には、アンケート調査やヒアリング調査を通じて、①コミュニティの類型的評価手法の開発、②地域の防災組織の連携手法の開発、③コミュニティFM局と連携し、ローカルメディアを利用した災害対応力の向上とリスクコミュニケーション手法の開発、④ローカルな知を発掘し伝承する災害文化醸成プログラムガイドラインの開発などを目指す。 |
|
※1
カテゴリーⅠ:社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標などの体系化など)。
カテゴリーⅡ:社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの。
○プロジェクト企画調査※2
題 名 | 研究代表者名 所属・役職 |
---|---|
コモンズ空間の再生がリアス式海岸集落における暮らしの再建に果たす役割に関する企画調査 | 窪田 亜矢 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 |
原発災害に伴う被災住民の初動期対応に関する企画調査 | 中井 勝己 福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター 教授 |
安全安心と活力賑わいが両立する地方都市づくりに向けてのコンパクトシティの有効性調査 | 中川 大 京都大学 大学院工学研究科 教授 |
※2 プロジェクト企画調査:
構想は優れているものの研究開発プロジェクトとして実施するためにはさらなる具体化が必要と判断されたものについて、年度内で企画を具体化するための調査を行うこととしたもの。
<総評>領域総括 林 春男(京都大学 防災研究所 巨大災害研究センター 教授)
「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」は、平成24年度に開始されました。本プログラムでは、20世紀の科学技術の発展が生み出したリスク社会において持続的な発展を続けていくために、必要となる様々な分野の科学技術を集めて総合化し、様々な種類のリスクに対して社会を「強くしなやか」にすることで、社会の安全・安心を守るための概念・理論・技術・方法論等を体系的に構築し、社会実装していくことを目指しています。
第2回目の募集となる今年度も、これらの目的や問題意識を提示するとともに、期待されるプロジェクト像として、(1)コミュニティの特性を踏まえた危機対応力向上に関する研究開発、(2)自助・共助・公助の再設計と効果的な連携のための研究開発、(3)安全・安心に関わる課題への対応のために個別技術・知識をつなぐしくみを構築する研究開発、(4)コミュニティをつなぐしくみの社会実装を促進するための研究開発(法規制や制度等の 整理分析、新たな取り組みへの仕掛けづくり)、という観点を強調して提案を募りました。応募の種別は、各課題が目指す位置づけに応じてカテゴリーⅠ、カテゴリーⅡ、企画調査の3つを設けました。カテゴリーⅠとは、社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標の体系化等)、カテゴリーⅡとは、社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法等についてその実証まで行おうとするもの、そして企画調査とは、年度内に研究開発の企画を具体化し、次年度以降の研究開発の優れた提案となることが期待されるものです。また、より幅広い提案者層に呼びかけることを目的に、東京と京都で募集説明会を開催しました。
この結果、大学や研究機関のみならず、独立行政法人、特定非営利活動法人、民間企業などから、50件(カテゴリーⅠ:3件、カテゴリーⅡ:38件、企画調査:9件)の提案が寄せられました。研究開発を実施するコミュニティは北海道から沖縄まで幅広く分布しており、内容についても、地域連携(住民参加、地域の文化・風土)、人を守る(生活再建・守り手の補償)、地域を守る(活性化と防災、生業復興)といった、より一層コミュニティを意識した提案が初年度に比べて増えました。その他、首都直下地震・南海トラフ地震にむけたまちづくりやリスクコミュニケーション、ICTやハード系工学(クラウド・モバイル・センサー)、健康と医療のつながり(高齢化・医療ビッグデータ・生活習慣病)など多様な分野の提案が集まりました。
募集締め切り後、領域総括および領域アドバイザーなどの事前評価者が書類選考と面接選考(事前評価)を実施し、最終的に5件を研究開発プロジェクト(カテゴリーⅠ:2件、カテゴリーⅡ:3件)として、3件を企画調査として採択しました。結果的に、実施者は所属が国立大学・私立大学・NPOなど多岐にわたり、研究代表者・実施者は若手・女性が中心となっている提案を採択することができ、多様性に富むものとなりました。
総合的な判断の結果、採択に至らなかった提案には、取り上げるテーマは重要と評価されるが計画において具体性を欠いている、取り組む必要性は認められるものの新しいアプローチや研究開発要素に乏しい、あるいは、個別領域における研究としての着想が優れており研究計画自体には魅力を感じるものの、必ずしも本プログラムの目的・趣旨と適合しないといった課題が見受けられました。この点については、ご提案いただく皆様に、公募の主旨をしっかりとご理解いただけるよう改善に努めて参ります。
今後も採択した課題が「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」のモデルケースとなるように、研究実施者とマネジメントチームのメンバーが一体となってプロジェクトの推進に取り組んで行く所存です。
○「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」≪平成23年度発足≫
(特別枠) 3000万円未満/年
【通常枠・特別枠】※3 題 名 |
研究代表者名 所属・役職 |
概 要 | 研究開発に協力する関与者 |
---|---|---|---|
【通常枠】 科学技術イノベーション政策と補完的な政策・制度整備の政策提言 |
青木 玲子 一橋大学 経済研究所教授 |
革新的な科学知識や技術を、社会の課題解決と国民生活の向上に導くためには、まず、産業として成り立させる必要がある。しかし、科学技術が革新的であるほど、産業と関連諸制度の創造的破壊(creative destruction)が必要になる一方、複雑なステークホルダー関係を有する既存産業からその経営資源や人材を新産業分野へ機動的に移行させることは容易ではない。 本プロジェクトでは、ミクロ経済学の視点や分析手法を科学技術イノベーションと補完的な政策・制度設計に応用する。具体的には、イノベーションに伴う産業の再編成(農業の第六次産業化)や新産業の構築(再生医療の産業化)に欠かせない規制緩和や新法制度、市場や企業の構造改革の設計に、産業組織論、企業ガバナンスやゲーム理論の知見を応用・導入する。特に、ステークホルダーの経済的のみならず政治的なインセンティブを考慮した制度設計と政策提言を目標とする。 |
|
【通常枠】 イノベーション実現のための情報工学を用いたアクションリサーチ |
梶川 裕矢 東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 准教授 |
研究開発プログラムやプロジェクトの立案・実施は、急速に発展・変化する世界の研究開発動向を踏まえて行う必要がある。また、研究開発の初期段階から、社会導入を促す制度設計やロードマップの構築を視野に入れる必要がある。 本プロジェクトでは、情報工学の手法を用いて論文・特許データの分析、ならびに、ビジネスエコシステムの調査や設計を行う。これらにより、革新的な研究開発テーマの設計、産業応用可能性の評価、ビジネスエコシステムや政策・制度の設計支援を行うことを目標とする。特に、他の研究開発プログラムとの協働により、アクションリサーチとして実施することで、イノベーションの実現への貢献を目指す。 |
|
【特別枠】 環境政策に対する衛星観測の効果の定量的・客観的評価手法の検討 |
笠井 康子 独立行政法人情報通信研究機構 電磁波計測研究所 センシング基盤研究室 主任研究員 |
従来の衛星観測は自然科学側からのシーズ提供型が多く、観測がもたらす効果 の定量的・客観的評価の欠知が指摘されている。 本プロジェクトでは、環境政策の実施において、衛星観測が国際合意の監視や遵守の検証に具体的に貢献した事例や、衛星観測の過程と結果が国際制度を生み 出した事例を具体的に探求し、衛星観測の環境政策への効果を、可能な限り定量的・客観的に計る手法の開発とそれらによる評価を試みる。最終的には、衛星観測計画策定初期から政策担当者やステークホルダーが参加する「政策のための衛星観測」立案を目指す。 |
|
【特別枠】 先端医療を対象とした規制・技術標準整備のための政策シミュレーション |
加納 信吾 東京大学 大学院新領域創成科学研究科准教授 |
科学技術イノベーションの推進には、基礎研究の成果を応用へ橋渡ししていく機能の強化が望まれており、そのための政策研究には規制科学と政策科学の融合による政策立案への貢献が求められている。 本プロジェクトでは、先端医療分野において臨床応用に必要となる技術標準と規制を迅速に確立するための政策研究・政策提案を検討すると同時に、新規政策が追加された場合のルール体系の変化をシミュレーションする手法を提案する。ルール組成の全体プロセスを「政策バリューチェーン」として捉え、早期段階からのルール組成着手を実現するためのルールの研究開発促進と国際標準化に重点を置いた政策オプションを創出するとともに、シナリオプランニングによる政策シミュレーション手法の実装を目指す。 |
|
【特別枠】 市民生活・社会活動の安全確保政策のためのレジリエンス分析 |
古田 一雄 東京大学 大学院工学系研究科レジリエンス工学研究センター センター長・教授 |
東日本大震災・原子力災害という複合リスク問題を経験し、今後、我が国がレジリエンス強化を進めていくためには、重要インフラの相互依存関係を正確に認識したうえで、具体的で包括的な危機管理政策を提示し、実行することが求められる。 本プロジェクトでは、国家としてのレジリエンス向上策の立案を支援するために、最新のモデリング及びシミュレーション技術を活用し、複数の重要インフラの相互依存性、脆弱性・耐性、リスクの評価および評価結果の見える化を行う。また、科学的情報に基づくレジリエンスの包括的評価手法、重要インフラの復旧プランニングに関する判断支援手法を開発し、それらに基づいた提言を行う。 |
|
※3 通常枠:エビデンスを与えるうえで有意義であり、かつ、政策のための科学として新規性や独自性を追求する提案を期待します。
特別枠:特定の社会的課題の解決を対象とし、科学技術の研究成果を社会で生かす仕組みや政策・制度の形成段階の議論までを含む研究開発。取り組みの実現のために、異なる検討フェーズ(研究・実証・政策提案・制度化・社会実装など)を網羅するプロジェクト推進体制を求めます。
○プロジェクト企画調査
題 名 | 研究代表者名 所属・役職 |
---|---|
学際連携・異分野融合の設計・推進・評価手法の事例検証 | 仙石 慎太郎 京都大学 物質-細胞統合システム拠点 特定拠点准教授 |
医療健康情報の一元化と社会実装に向けた基盤研究 | 中山 健夫 京都大学 大学院医学研究科 教授 |
<総評>プログラム総括 森田 朗(学習院大学 法学部 教授)
平成23年度にスタートした「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」は、現代社会におけるさまざまな問題の解決に貢献し得る科学技術イノベーションをもたらす政策の選択肢を、「客観的根拠(エビデンス)」に基づいて、より科学的に策定するための体系的知見を創出することを目的としています。
我が国は少子高齢化や財政危機に加えて、震災・原発事故などがもたらした大きな課題に直面しています。これらに関する数多くの課題を適切に把握し、課題解決に向けて取り組んでいくためには、科学技術の力を活用し、社会にイノベーションを起こすことが必要と考えられています。しかし、これまでは、先端的な科学技術の知見が存在しながらも、それを活用して社会的課題の解決に結びつけ、公的投資に対する充分な効果を示せなかったという反省がなされています。研究成果を活かして、科学技術イノベーションの創出に結びつけるようなインセンティブも不足していましたし、そのインセンティブを顕在化させるような社会的な仕組み、すなわち制度の形成も依然として充分とは言えません。
第3回目の募集となる今年度の公募プロセスでは、過去2回の経験をもとに、(1)特別枠と通常枠という2つの異なる枠組から提案を募り、(2)2段階の公募プロセスを導入する、という新たな試みを行いました。(1)の枠設定では、主として実装への道筋や体制に注目する特別枠と、主として研究の新規性や独自性に注目する通常枠に分けることで、「誰に」「何を」提供しうる研究提案であるかをより明確にすることを求めました。また、(2)の2段階の公募プロセスでは、第1段階で提案コンセプトの明確さによって半数以下の提案に絞りこみ、第2段階の書類選考から面接選考に至る過程で各提案に対してアドバイスを行い、よりプログラム趣旨に合う提案に改善されるように働きかける工夫をしました。結果的に、第1段階では、大学・研究機関・独立行政法人などから計43件の応募が寄せられ、そのうち17件が第2段階に進み、さらにそのうちの14件が面接選考に進み、最終的に5件の研究開発プロジェクト採択と2件の企画調査としての採択が決定しました。選考過程では、「科学技術イノベーション政策」や「政策のための科学」の範疇であるかどうかという本質的な点について評価が分かれる提案もありました。しかしながら、新たな選考プロセスにより、過去2回の公募プロセスと比較して、当プログラムが求める趣旨がより明確化され、社会実装の観点もより強調されたと思われます。採択に至らなかった提案も、取り上げられた課題はいずれも社会において重要な課題であると評価されるものがほとんどでしたが、特別枠においては計画の具体性や体制作りの観点で、通常枠においては新規性や独自性の観点で、検討が不十分あるいは不明瞭である提案が見受けられました。
本プログラムを含む「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」全体では、今後、より実践的な活動が求められていきます。本プログラムにおいては、総括である私も含めたマネジメントチームが、すでに遂行中のこれまでの採択プロジェクトも含めて、具体的研究計画や各成果の示し方など、これまで以上に強力にフォローしていく予定です。
「問題解決型サービス科学研究開発プログラム」≪平成22年度発足≫
(研究アプローチB) 最大2000万円程度/年
【研究アプローチ】※4 題 名 |
研究代表者名 所属・役職 |
概 要 | 研究開発に協力する関与者 |
---|---|---|---|
【A】 経験価値の見える化を用いた共創的技能eラーニングサービスの研究と実証 |
淺間 一 東京大学 大学院工学系研究科 教授 |
近年、製造業をはじめ、技能者が持つ技能をいかに伝承するかが問題となっている。スポーツや楽器などの技能を含め、通常技能教育は学習者と指導者が同じ時間と場所を共有して行われるため、場所、時間、人数の制約を受ける。その解決策として考えられるeラーニングでは、3次元で動きを見せあったり、場を共有し相互の意図や満足感をスムーズにやりとりすることが難しいため、互いの経験価値が高まらないという問題がある。 本プロジェクトでは、ものづくりの技能や介護技術などの職務的技能、スポーツの上達に関する趣味的技能を対象とし、時間と場所を共有しなくとも学習者と指導者が共創的に経験価値を高め合いながら、技能の教授、習得が可能となる新たなeラーニングシステムの構築を目指す。 具体的には、学習者と指導者の身体動作の違いを計測し、技能(コツ)を抽出する手法を構築するとともに、学習者の上達具合や満足感を定量評価する手法を開発する。これらをeラーニングシステムに統合することで、指導者へもフィードバック可能な経験価値共創プラットフォームの実現を目指す。この結果、技能教育の効率化を実現するだけでなく、学習者と指導者の満足感の向上にもつながり、サービスの質を高めることができる。 |
|
【A】 救命救急サービスを核とした地域の安心・安全を創出する知的社会サービス基盤の創生 |
濱上 知樹 横浜国立大学 大学院工学研究院 教授 |
救命救急システムは地域社会の安心・安全にとって重要な公共サービスの1つである。しかし、社会構造の変化に伴って増え続ける要求に対し、サービス提供者(ドナー)の負担増加や住民(レセプタ)へのサービスの質低下が課題になっている。 本プロジェクトは、救命救急サービスを高度化し、社会実装することを目指す。この研究開発の中で、新たなサービスの評価・設計・運用の技術と方法論を確立する。具体的には、ベネフィット(利益)、リスク(危機)、コスト(費用)の視点からサービスを表現し、その体系的記述を用いて地域住民等ステークホルダーの社会的受容を評価する。この結果をサービス設計にフィードバックし、さらに効率的な運用につなげる循環モデルを確立する。これらの試みにより救命救急サービスの質向上、コスト削減、社会的受容の促進に貢献する。 |
|
【B】 高等教育を対象とした提供者のコンピテンシーと受給者のリテラシーの向上による共創的価値の実現方法の開発 |
下村 芳樹 首都大学東京 大学院システムデザイン研究科 教授 |
社会においては、サービスが産み出す付加価値と生産性の双方を高めるために、サービスの提供者と顧客(受給者)による「価値共創」の仕組みを明らかにするとともに、これを実サービスに適用するための具体的な方法を整備することが求められている。 本プロジェクトは、コンピテンシー(実践する力)とリテラシー(理解する力)の2つの概念を用いて「価値共創」の仕組みの解明を目指す。 具体的には、高等教育を対象として、教師(提供者)と学習者(顧客)両者の合意を形成しながら効率的かつ効果的にコンピテンシーおよびリテラシーを獲得するためのツールと、これを用いて高い付加価値を有する高等教育サービスを提供する実践的な方法論を構築し、方法論の一般化を目指す。 |
|
【B】 価値創成クラスモデルによるサービスシステムの類型化とメカニズム設計理論の構築 |
西野 成昭 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 |
サービスに関する研究は、個別の事例を対象とした研究が多く、サービスを一般化した構造として記述、説明できる枠組みが十分に確立されていない。 本プロジェクトは、サービスシステムの構造を類型化するとともに、設計に資する理論を構築することを目指す。 具体的には、多種多様な業種を対象として、様々な経営指標に関するデータからサービスが持つ本質的な構造を抽出し、それを類型化した後、一般化した枠組みとして体系化する。さらにメカニズムデザインの考えを応用し、類型化されたサービス構造について特性とその関係性を明らかにするとともに、その評価を試みる。こうした取り組みを通じて、共通する基盤的性質や設計に資する基本原理を解明していく。 本プロジェクトの成果は、サービス科学の研究基盤となるとともに、サービス設計を効率化し、新たなサービスの創出に貢献する。 |
|
※4 A:「問題解決型研究」:具体的なサービスを対象に、当該サービスに係る問題解決のための技術・方法論などを開発して問題を解決するとともに、得られた技術・方法論が「サービス科学」の研究基盤の構築に貢献することを目的とする研究。
B:「横断型研究」:研究エレメントに焦点を当て、新たな知見を創出し積み上げることで体系化し、「サービス科学」の研究基盤を構築する。それにより将来的に現場のさまざまな問題解決に応用され、サービスの質・効率を高め、新しい価値の創出に貢献することを目的とする研究。
<総評>プログラム総括 土居 範久(慶應義塾大学 名誉教授)
「問題解決型サービス科学研究開発」プログラムは、平成22年度より活動を開始し、今年度が最後の公募となりました。本プログラムでは、サービスに関する様々な問題を解決するための技術や方法論の開発を目指すとともに、サービスを科学の対象ととらえ、サービスに関する概念・理論・技術・方法論などを体系的に構築していくことを目指しています。
過去3回の公募によって14件の研究開発プロジェクトを採択してまいりました。今までに採択されたプロジェクトの研究テーマは、工学的アプローチによって既存サービスに変化を与えるもの、日本独自のサービスのグローバル化を目指すもの、サービス科学の鍵概念である価値共創の構造を明らかにし、その尺度の開発を目指すものなど、多様な範囲に及びます。産業分野については、ヘルスケア、流通、公共サービス、農業、金融など、様々なフィールドを対象として研究開発を進めています。いずれのプロジェクトも精力的な活動を続けており、様々な成果が創出されつつあります。今年度には、初年度である平成22年度に採択した4件のプロジェクトが終了します。
本年度の公募では、①地域社会に活力を与え、新たな経済成長や国際競争力へと結びつく説得力のあるシナリオを描いた提案、②日本発のサービス理論の構築を目指した提案、③非サービス業のサービス化を目指した提案を強調しました。これに対し、全国の大学・研究所・企業などから、51件(A.問題解決型研究36件、B.横断型研究15件)の応募を頂きました。提案51件の内訳として、研究代表者が所属する研究領域をみれば、サービス科学研究の中核をなすと考えられる理工学分野、社会科学系分野の提案が多数を占めました。また、大学関係者を代表とする提案が多い中、研究実施者や研究協力者には企業やNPO法人などの関係者が含まれましたことから、サービス科学の成果を社会へと展開することを目指した提案が多くあったという印象を受けました。産業分野では、募集で強調した①地域社会に活力を与える提案と関連する公共サービスに関する提案が最多となりました。続いて、例年同様、ヘルスケア、教育分野などの提案が多く見られました。また、②日本発のサービス理論の構築を目指す提案も見受けられ、本プログラムのサービス科学の研究基盤構築という目的への理解が浸透してきたとの印象を受けました。しかしながら、一方で、サービス科学研究開発というよりは、新規サービスを立ち上げることに強く主眼が置かれていると思われる提案も多く見られました。これらは、本プログラムの趣旨とは合致しないことから採択の候補とはなりませんでした。
厳正なる審査の結果、今年度は「A.問題解決型研究」2件、「B.横断型研究」2件、計4件を採択しました。今年度はこれまで採択がなかった教育関連分野について、2件を採択しました。ひとつは技能教育を効率化するともに学習者と指導者が共に経験価値を高め合う仕組み作りを目指すプロジェクト、いまひとつは高等教育における学習者の目標達成を教授者とともに共創的に実現する方法論の開発に取り組む中で「価値共創」の仕組みの解明を目指すプロジェクトです。他の2件は、社会的な要請が高いと思われる救命救急サービスを事例として、その効率化とサービスの理論化を目指すプロジェクト、また、価値共創を類型化し、それをサービス設計にまで昇華させることを目指すプロジェクトです。全体として、社会的な問題の解決への貢献やサービス科学としての学術的な貢献を期待できるプロジェクトが揃いました。
今後は、採択プロジェクトが「サービス科学研究開発」のモデルケースとなるように研究実施者とマネジメントチームのメンバーが一体となってプロジェクトの推進に取り組んで行くとともに、研究開発成果を社会へと広く展開して行くための取り組みに励んでいく所存です。また、「サービス科学」コミュニティの一層の拡充のため、本プログラムの情報発信に努めるとともに、関係各位との議論を通じ「サービス科学」の研究基盤を構築するべく尽力してまいります。
「研究開発成果実装支援プログラム」≪平成19年度発足≫
実装活動の 名称 |
実装責任者名 所属・役職 |
概 要 | 主たる協働組織 (活動地域) |
研究開発成果を得た 公的資金 |
---|---|---|---|---|
ドライバーの居眠り事故防止のための睡眠時無呼吸症スクリーニングの社会実装 | 谷川 武 愛媛大学 医学系研究科 教授 |
睡眠時無呼吸症は、日中の眠気や慢性的な疲労蓄積の原因となる。近年、トラック、列車、バスによる交通事故原因となった事例も報告されている。また、トラック運転者では中等度以上の重症度の患者が約10%存在することが判明している。このように有病率の高い睡眠時無呼吸症は、一個人の健康問題にとどまらず、社会全体の安全・安心を目指す上で、早急に解決すべき課題である。 本活動では、多くの乗客の命を預かるバス運転者をはじめ、広く職業運転者を対象に睡眠時無呼吸症の早期発見・早期治療システムを確立する社会実装を目指す。 |
|
経済産業省公募事業・平成17年度「電源地域活性化先導モデル事業」 |
高齢者の生きがい就労システムの社会実装 | 辻 哲夫 東京大学 高齢社会総合研究機構 特任教授 |
高齢化最先進国の日本において、高齢者の生きがいの充実をはかりながら、高齢者の活力を社会に活かす仕組みづくりが求められているが、セカンドライフを支援する社会システムは確立されていない。 本活動では、千葉県柏市で創成した「高齢者の生きがい就労システム」の機能を全国のシルバー人材センターに実装することを目指す。同時に、就労だけに限らないセカンドライフ全体を支援する仕組みづくりを追求する。 |
|
JST 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発) |
高層ビル耐震診断に基づく帰宅困難者行動支援システムの社会実装 | 三田 彰 慶應義塾大学 理工学部システムデザイン工学科 教授 |
南海トラフ地震や首都直下地震が発生した場合、帰宅困難者は500万人超が予想される。これらの人たちをどのように安心安全を確保しながら保護するのかが解決すべき社会問題である。 本活動では、大震災発生直後に耐震診断を行って安全性を確認し、帰宅困難者の行動支援を行うため、大量の帰宅困難者を収容する可能性がある大規模高層ビルに対して、構造ヘルスモニタリングシステムを導入する。 具体的には新宿駅西口に位置する大規模高層ビルを対象とし、自治体、鉄道会社等と協力し、得られた耐震診断情報を駅前ビルの大型ビジョンや携帯へのエリアメールなどでただちに伝達し、帰宅困難者の行動を支援することを目指す。 |
|
科学研究費補助金基盤(B)(一般) |
手指麻痺者の日常生活支援のためのパワーグローブの社会実装 | 頚髄損傷者を始め、手指に麻痺を負う人々は介助を要する生活を余儀なくされ、生活の自立を大きく妨げられている。手指麻痺は生活の質の低下だけでなく、就労など社会参加機会の制限にもつながっている。 本活動では、開発した能動装具、パワーグローブにさらなる改良を加え、実用的モデルを開発するとともに、各種工学的試験評価および臨床的試験評価を経て、その有効性や安全性を示す。さらに、補装具登録の申請や、認知度の向上、流通システムの整備等を含めた多角的な取り組みを通して、早期の社会実装を目指す。 |
|
H19~20年度科学研究費補助金 若手研究(B) |
<総評>:プログラム総括 冨浦 梓(元 東京工業大学 監事)
今年度は実装費を年500万円から1000万円と明示したところ、38件(前年度比:131%)の応募があり、その中から、社会技術の特性を考慮しつつ、ライフイノベーション、安全・安心に関連した課題として、研究開発がほぼ終了しており、目的、方法、効果が明確であるもの4件を採択しました。「ドライバーの居眠り事故防止のための睡眠時無呼吸症スクリーニングの社会実装」、「高齢者の生きがい就労システムの社会実装」、「高層ビル耐震診断に基づく帰宅困難者行動支援システムの社会実装」、また「手指麻痺者の日常生活支援のためのパワーグローブの社会実装」の4件です。いずれのプロジェクトも実装支援の対象となる機関や受益者が明確であり、社会への定着が予想されるものです。
本プログラムは開始後7年を経過しましたが、プログラムの趣旨を理解した提案が増加しております。すなわち、研究者は単に研究開発をするのではなく、研究開発成果の社会的価値を実証し、社会に定着させ、普及の端緒を拓きたいという意志を以て提案する案件が増加しています。実装プログラムは受益者と研究者との共同事業であり、実装にあたっては思わぬ障害に遭遇することがあります。選考にあたっては受益者との組織的連携や障害に対する柔軟な対応体制に十分配慮しているかなども評価することにしています。
本プログラムでは、過去において、東日本大震災で現実に実効を上げたプロジェクトや、社会的に注目を浴びることとなったプロジェクトがあることに見られる通り、先見性のあるプロジェクト選択をしてきたと考えています。今後は、採択された実装活動がより効率的に社会に実装されるよう、実装責任者との連携を深めてまいります。