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別紙

「平成24年度中学校理科教育実態調査」の目的・概要と学校・教員・生徒の集計結果(抜粋)

【調査の背景・目的など】

JSTと国立教育政策研究所が平成20年度に共同で実施した「中学校理科教師実態調査」の結果から、観察・実験を行う上での障害として準備・片付けの時間の不足、設備備品の不足が障害となっていることなどが示唆された。未来の優れた科学者や技術者を育てる支援策として、SSHなどの高校段階と比較して、中学校段階の施策は十分とはいえない状況である。我が国の科学技術を担う可能性を秘めた中学生が、その意欲や能力を十分に伸長させられるような学習機会を充実する必要がある。

そこで、中学生が理科学習にどの程度の意欲や目的意識を持ってその能力を伸長させているのか、学校や学校外でどのような学習環境や学習機会を提供されているのか、加えて学校の実験設備を含めた教育環境、理科教員の意識や観察・実験の指導の状況などを把握するための調査を実施することとした。

【調査の対象者・回答者】

1.調査対象者 

(1)全生徒数30名以上の全国の公立中学校および中等教育学校前期課程から無作為に抽出された計500校*1)の以下の教員

①理科主任もしくはそれに相当する教員1名
(学校調査項目および教員調査項目に回答)

②中学校第1~3学年までの理科の授業を担当する教員最大3名(非常勤を除く)(教員調査項目に回答)

*1)本調査は、平成23年度学校基本調査データから全生徒数30名以上の全国の公立中学校および中等教育学校9,259校について、都道府県別の生徒数の割合に比例するように500校を割り当て、各都道府県内で学校の生徒数に比例した確率で学校を無作為に抽出し依頼した。

(2)上記対象校における第2学年の第1組*2)の生徒全員(生徒質問項目に回答)

*2)第1組としたのは無作為性を確保するため。

2.回答者

学校数   ((1)①による)   417校

理科教員数((1)②)    1,229名*3)

*3)学校質問項目に回答した学校の理科教員を有効回答とし、学校質問項目の回答が無かった6校14名を除外した。

生徒数   ((2)による)  13,430名*4)

*4)学校質問項目に回答した学校の生徒を有効回答とし、学校質問項目の回答が無かった6校190名を除外した。

【調査方法】

平成25年2月に調査対象校と所管の教育委員会に調査を依頼するとともに質問票(末尾に掲載)を送付し、調査対象校からの直接郵送方式により、3月末日までに質問票を回収した。回答は学校、回答者名とも無記名とした。

【調査報告書】

今回は、調査項目別の集計結果と教員質問項目で経年比較の結果に違いが見られた項目についての教職経験年数の違いなどによるクロス分析結果の報告であり、生徒の特徴と学力およびそのほかの項目との関係性や影響度など、より詳細な分析は、今後作成する調査報告書に掲載する予定である(平成26年3月頃を予定)。

【分析方法】

・ 学校および理科教員の状況の経年比較(「平成20年度中学校理科教師実態調査」(JST、国立教育政策研究所)*5)との比較)、生徒の状況の経年比較(「平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査」(国立教育政策研究所)、平成16年度文部科学省 科学研究費補助金 特定領域研究「科学への学習意欲に関する実態調査」調査結果報告書(国立教育政策研究所))を行った。また、教員質問項目の回答については、経年比較の結果で違いが見られた項目について教職経験年数の違いなどによるクロス集計を行った。さらに、生徒質問項目の回答については、学校の学習環境と生徒の意識との相関を分析した。

*5)「H20中理調査」の値は、今回の調査の設計に合わせて、第1学年から第3学年の生徒数が30人未満の学校53校を除外して算出した補正値である。

・ なお、本調査に回答した学校の特性として、地域を「政令指定都市・東京23区」「中核市」「上記以外の市」「町村」に区分した場合の学校の割合が、全国の割合と比較して「政令指定都市・東京23区」の割合が高く、「町村」の割合が低いことから、学校の全国の平均値を算出する際に、上記区分によって係数化し、以下に説明する重み付けを行った加重平均値(もしくは割合)を全国の推定値とした。

①学校データの重み付け

全国の公立中学校および中等教育学校9,259校の内、地域区分別の学校数の割合は、「政令指定都市・東京23区」19%、「中核市」11%、「上記以外の市」54%、「町村」16%で、回答校は、「政令指定都市・東京23区」24%、「中核市」12%、「上記以外の市」53%、「町村」11%である。今回の回答データの地域区分ごとの割合が全国の割合と等しくなるように、学校対象の質問項目について重み付けを行い、その加重平均値(もしくは割合)を全国の推定値とするとともに、これを用いて「平成20年度中学校理科教師実態調査」の結果と比較することとした。

表1 母集団と回答(学校)の地域区分別割合

件数 割合(%)
係数
母集団
(学校)
回答
(学校)
母集団
(学校)
回答
(学校)
政令指定都市 東京23区 1,717 101 18.54 24.22 0.77
中核市 1,015 51 10.96 12.23 0.90
上記以外の市 5,037 219 54.40 52.52 1.04
町村 1,490 46 16.09 11.03 1.46

②生徒・教員データの重み付け

全国の公立中学校および中等教育学校の全生徒数3,295,791名の内、地域区分別の生徒数の割合は、「政令指定都市・東京23区」23%、「中核市」14%、「上記以外の市」53%、「町村」10%で、回答校の第2学年の生徒13,430名の内、「政令指定都市・東京23区」25%、「中核市」13%、「上記以外の市」52%、「町村」10%である。今回の調査データの地域区分ごとの割合と全国の値の差が小さいことから、生徒対象の質問項目については重み付けを行わず、回答データの集計値をそのまま用いて分析することとした。また、教員が生徒数に応じて配置されることから、理科教員の地域区分別割合も、全国の生徒数の地域区分別割合と比較した。

回答校の理科教員1,229名の地域区分別割合は、「政令指定都市・東京23区」26%、「中核市」13%、「上記以外の市」53%、「町村」8%で、全国の生徒の地域区分別割合と全国の値の差が小さいことから、理科教員対象の質問項目についても、重み付けを行わず、回答データの集計値をそのまま用いて分析することとした。

表2 母集団と回答(生徒・理科教員)の地域区分別割合

件数 割合(%)
母集団
(生徒)
回答
(生徒)
回答
(教員)
母集団
(生徒)
回答
(生徒)
回答
(教員)
政令指定都市 東京23区 763,188 3,375 314 23.16 25.13 25.55
中核市 448,479 1,683 163 13.61 12.53 13.26
上記以外の市 1,757,047 7,029 651 53.31 52.34 52.97
町村 327,077 1,343 101 9.92 10.00 8.22

【分析結果】(抜粋)

1.学校質問項目

(1)学校予算や備品の整備状況に関する経年比較

○学校当たりの設備備品費は平成20年度の16万円から19万円に増加しているが、設備備品費の予算額が0円の学校は約2割で平成20年度と同程度であり、さらに、生徒当たりの設備備品費は430円で、平成20年度の437円から増加*6)していない。

*6)学校当たりの生徒数が平成20年度よりも増加しているため、学校当たりの設備備品費の増加が、生徒当たりの設備備品費の増加に反映していない。

表3 設備備品費の学校予算額の経年比較

年 度 平均値 最小値 最大値 有効回答数
H24 19.3万円 0万円 160万円 359
H20 15.7万円 0万円 100万円 225

表4 設備備品費の学校予算額の合計を生徒数の合計(1~3学年)で割った値の経年比較

年 度 平均値 予算額 生徒数 有効回答数
H24 430円 65百万円 152千人 338
H20 437円 35百万円 81千人 225
図1

図1 当該年度の学校予算(公費)における理科全体の設備備品費の金額の経年比較

○学校当たりの消耗品費は平成20年度の12万円から14万円に増加しているが、生徒当たりの消耗品費は319円で、平成20年度の332円から13円減少*7)している。

*7)学校当たりの生徒数が平成20年度よりも増加しているため、学校当たりの消耗品費の増加が、生徒当たりの消耗品費の増加に反映していない。

表5 消耗品費の学校予算額の経年比較

年 度 平均値 最小値 最大値 有効回答数
H24 14.3万円 0万円 94万円 360
H20 11.7万円 0万円 122万円 233

表6 消耗品費の学校予算額の合計を生徒数の合計(1~3学年)で割った値の経年比較

年 度 平均値 予算額 生徒数 有効回答数
H24 319円 49百万円 153千人 339
H20 332円 27百万円 82千人 233
図2

図2 当該年度の学校予算(公費)における理科全体の消耗品費の金額の経年比較

○新学習指導要領における実験機器などについて、調査した25品目の内、「ない」と回答した学校の割合が5割以上あった品目は11品目である。また、平成20年度と比較して、「ない」という割合が20ポイント以上減少した品目は、6品目あり、改善も見られる。

図3

図3 新学習指導要領で整備が期待される実験機器などの整備状況

表7 新学習指導要領で整備が期待される実験機器などの整備状況の経年比較

表7
図4

図4 新学習指導要領で整備が期待される実験機器などの整備状況の経年比較

(2)科学部活動についての経年比較

○「学校に科学部がない」と回答した学校の割合は73%であり、平成20年度の66%よりも高くなっている。また、学校に科学部を設置する場合に、「顧問となる教員の不足が障害となる」と回答した学校の割合は69%である。

図5

図5 学校に科学部がある割合

図6

図6 学校に科学部を設置する場合に障害となる事項

2.教員質問項目

(1)科学部顧問の経験

○「今年度、科学部の顧問である」と回答した理科教員の割合は7%で、平成20年度と同程度である。

図7

図7 「今年度、科学部の顧問である」と回答した教員の割合の経年比較

○「昨年までに(過去に)科学部の顧問の経験がある」と回答した割合は、教職経験年数が30年以上の理科教員で最も高く49%であり、教職経験年数が多い理科教員ほど高い。

図8

図8 「昨年までに(過去に)科学部の顧問の経験がある」と回答した教員の教職経験年数別割合

(2)各領域の指導の得意・苦手

○理科の各領域の指導が「得意」か「やや得意」と感じている理科教員の割合は、「化学」が86%と最も高く、「生物」72%、「物理」68%、「地学」57%、「情報通信技術の活用(ICT)」50%で、平成20年度とほぼ同様の傾向である。

図9

図9 各領域の指導の得意・苦手の経年比較

○「物理」「化学」「生物」「地学」の内容の指導を「苦手」か「やや苦手」と感じている理科教員の割合は、教職経験の長さとともにおおむね減少しているが、「情報通信技術の活用(ICT)」の内容の指導については、教職経験年数の長い理科教員でその割合が高くなっている。

図10

図10 各領域の「苦手」「やや苦手」と回答した教員の教職経験年数別割合

(3)理科の授業について

○「学習内容と職業との関連についてよく説明している」に対して、肯定的に回答した割合は46%で、H20中理調査の34%と比較して12ポイント高く、「学習内容が日常の問題に応用できることをよく教えている」に対して、肯定的に回答した割合は74%で、H20中理調査の66%と比較して8ポイント高くなっている。

図11

図11 理科授業に関する意識や取り組みについての経年比較

「学習内容が日常の問題に応用できることをよく教えている」
「学習内容と職業との関連についてよく説明している」

(4)実験や観察の知識・技能について

○「理科の実験や観察についての知識が十分ある」「理科の実験や観察についての技能が十分ある」に対して、「ややそう思わない」「そう思わない」と否定的に回答した理科教員の割合は、教職経験年数5年未満の理科教員で高い傾向が見られる。

図12

図12 「実験や観察の知識が十分ある」についての教員の教職経験年数別回答割合

図13

図13 「実験や観察の技能が十分ある」についての教員の教職経験年数別割合

(5)観察・実験の頻度について

○「生徒による観察や実験」の頻度が、「週1回以上」と回答した理科教員の割合は、55%であり、H20中理調査の63%よりも低くなっており、教職経験年数が5年未満の理科教員で最も低く、49%である。

図14

図14 観察・実験頻度の経年比較

図15

図15 観察・実験頻度の教員の教職経験年数別割合

(6)観察・実験の障害

○観察や実験を行うにあたって、障害となっている事項について、「準備や片付けの時間が不足」と回答した理科教員の割合が66%と高く、「設備備品の不足」54%、「実験室の不足」「授業時間の不足」34%となっている。

図16

図16 観察・実験を行うにあたって障害となっている事項

○「生徒による観察・実験の頻度」が高い理科教員は、「準備や片付けの時間の不足」「設備備品の不足」「消耗品の不足」「実験室の不足」が観察や実験を行うにあたっての障害と回答する割合が高い傾向が見られる。一方、「生徒による観察や実験」の頻度が低い理科教員は、「準備や片付けの時間の不足」「授業時間の不足」「生徒の授業態度の問題」を障害と回答する割合が高い傾向が見られる。

図17

図17 観察・実験頻度と観察・実験を行うにあたって障害となる項目

○「実験室の不足」が観察や実験を行うにあたっての障害と回答した学校の割合は、小規模校(学級数3~11)の15%に対して、大規模校(学級数19~30)で59%、特大規模校(学級数31以上)で75%と、高い傾向が見られる。

図18

図18 観察・実験を行うにあたって「実験室の不足」をあげた教員が所属する学校規模別回答割合

(7)研修への意欲

○参加してみたい研修に対して、「とてもそう思う」「そう思う」と肯定的な回答をした理科教員の割合が7割を超えて高い項目は、「最先端科学技術について」(81%)、「学習内容と日常生活との関連について」(75%)、「新奇性のある観察や実験について」(75%)である。どの項目も、教職経験年数が短い理科教員ほど、「とてもそう思う」と回答した割合が高い。

図19

図19 参加してみたい研修の内容

図20

図20 参加してみたい研修として「自由研究の指導法」と回答した教員の教職経験年数別割合

3.生徒質問項目

(1)生徒の意識

○「科学に関する研究機関の施設を見学したり、研究の体験をしたりしてみたい」という質問に対して「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と、肯定的に回答した生徒の割合は56%である。一方、「将来、理科や科学技術に関係する職業につきたい」という質問に対して肯定的に回答した生徒の割合は20%である。

図21

図21 科学技術への生徒の興味・関心

○「理科を勉強すれば、私の好きな仕事につくことに役立つ」について、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と肯定的に回答した生徒の割合は28%で、H15実施調査の結果では、肯定的に回答した生徒の割合は34%であり、今回の調査の方が低くなっている。

図22

図22 「勉強すれば、私の好きな仕事につくことに役立つ」
についての生徒の回答割合の経年比較

(2)学校の学習環境について

○生徒に対する学校の理科に関する質問で、「理科の勉強は楽しい」「理科で面白いことをたくさん勉強している」について、生徒の回答を数値化して所属する学校の平均値を求めたところ、両者の相関係数は、0.928と高く、11%の学校はいずれの平均値も「そう思う」かそれ以上に肯定的な値である。一方、2%の学校はいずれの平均値も「そう思わない」かそれ以上に否定的な値である。

図23

図23 「理科の勉強は楽しい」・「理科で面白いことをたくさん勉強している」の学校平均値の相関

○生徒に対する学校の理科の授業に関する質問で、「生徒は、自分たちが予想したことを実験で確かめるよう求められる」、生徒の意識に関する質問で「理科の勉強は好きだ」に対する生徒の回答を数値化して所属する学校の平均値を求めたところ、両者の相関係数は0.492と中程度の相関が見られる。

図24

図24 「理科の勉強は好きだ」・「生徒は、自分たちが予想したことを実験で確かめるよう求められる」の学校平均値の相関

○生徒に対する学校の理科に関する質問で、「先生は、科学の考えが実生活に密接に関わっていることを解説してくれる」と生徒の意識に関する質問で、「理科の勉強は好きだ」について、生徒の回答を数値化して所属する学校の平均値を求めたところ、両者の相関係数は、0.576と中程度の相関が見られる。

図25

図25「理科の勉強は好きだ」・「先生は、科学の考えが実生活に密接に関わっていることを 解説してくれる」の学校平均値の相関

(3)理科の自由研究について

○「理科の自由研究をしたことがある」と回答した生徒の割合は77%で、H16学習調査の結果と比較して高くなっており、小学校4学年以上では約4から5割の生徒が自由研究を行っている。

図26

図26 自由研究の経験についての生徒の回答割合の経年比較

図27

図27 自由研究の経験があると回答した生徒の学年別回答割合の経年比較

(4)科学部について

○中学校で所属している部活動について、「科学部」と回答した生徒の割合は1%であり、科学部に入部をしなかった理由について、「科学部がないから」と回答した生徒の割合は59%である。

図28

図28 所属している部活動についての生徒の回答割合

図29

図29 科学部に所属しなかった理由についての生徒の回答割合

(5)普段の生活について

○普段の生活が忙しいと感じているかについて、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した生徒の割合は73%であり、学校の部活動が週に6日以上あると回答した生徒の割合は63%、学習塾(家庭教師や英会話塾を含む)が週に2日以上あると回答した生徒の割合は48%、携帯電話やスマートフォンを平日に1時間以上使用すると回答した生徒の割合は41%である。

図30

図30 普段の生活が忙しいと感じているかについての生徒の回答割合

図31

図31 学校の部活動の日数についての生徒の回答割合

図32

図32 学習塾の日数についての生徒の回答割合

図33

図33 携帯電話やスマートフォンの平日の使用時間についての生徒の回答割合