JST(理事長 中村 道治)の知的財産戦略センター(センター長 阿部 博之)は、過去10数年の大学知財関連施策を振り返り、「知的財産戦略委員会提言~10数年に亘る大学知財関連施策を振り返り今後の展開を探る~」(以下、「本提言」)を取りまとめました。本提言は、外部有識者からなるJST 知的財産戦略委員会での検討を踏まえ、大学知財に今後求められるビジョンとその達成に向けた各セクター(政府、大学・TLO、JST)の役割についてまとめたものです。
大学においては、特許出願件数および保有特許件数は増加し、民間企業からの共同研究費受入額や特許権の実施件数の増加など、その知財活動は活性化しました。一方で、保有特許件数の急増によるコスト増加、大学発ベンチャーの年間設立数の減少、未利用特許の増大などが懸念材料となっています。このような現状を踏まえ、将来の活用を見据えた戦略に基づき大学の研究成果を知的財産として確保・活用し、国民へ還元していくことが必要不可欠であり、提言としてとりまとめました。
提言の主な内容は以下の通りです。
<これからの大学知財ビジョン>
- ○大学は将来の活用を見据えた知財戦略を策定すべき。
- ○大学は我が国の研究成果を強固な知財として内外に確保し、ライセンスなどを通して積極的に広く国民に還元すべき。
<ビジョン達成に向けた各セクターの主な役割>
【政府の役割】
- ○大学知財の評価において、実施料収入に加え共同研究、大学発ベンチャー創出などの効果を考慮すべき。
- ○iPS細胞研究に代表される革新的研究成果が出た場合には、世界に先駆けて基本特許の取得、周辺特許の強化をすべき。そのためには、知財予算の確保と戦略的な海外での権利化が必要。
【大学およびTLOの役割】
- ○強い基本特許の創出のため、目利き人材の確保や十分な先行技術調査を行うべき。
- ○新規物質など、広い展開が見込まれる成果は、大学単独特許としての確保が望まれる
- ○大学成果の早期実用化に向けて、中小・ベンチャー企業との連携を進めるべき。
- ○大学間、TLO間の多様で効果的な協力形態を考慮しつつ、技術移転の機会向上を図るべき。
- ○学生や研究者への知財教育や知財研修が重要。
【JSTの役割】
- ○権利確保のためには、早期の積極的知財発掘や公募によらない迅速かつ機動的資金投入などを検討すべき。
- ○海外技術移転に精通した専門人材の確保・配置、育成を行うべき。
- ○大学特許への権利侵害に対応できる相談窓口を設置すべき。
- ○大学において予算の制約のために非承継となった有望発明の受け皿となる新たなスキームを議論すべき。
- ○多額の資金を投入し複数の大学・企業が参加する特定の大型プロジェクトにおいては、日本版バイ・ドール条項にかかわらず、特定の公的機関などが特許管理を行う制度運用についても議論すべき。
なお本提言は、各省庁や大学などに配布する予定です。また、下記のウェブサイトからダウンロードできます。
ダウンロードURL:
本提言 https://www.jst.go.jp/chizai/docs/teigen3-2.pdf
参考資料集 https://www.jst.go.jp/chizai/docs/teigen3-3.pdf