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科学技術振興機構報 第961号

※現在は、本製品の開発を中止し、株式会社クリアフィックスは営業を終了しております。

平成25年6月13日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

聴覚障害者を支援するスマートフォン用アプリケーションを
開発および提供するベンチャー企業設立

(JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)の研究開発成果を事業展開)

ポイント

JST(理事長 中村 道治)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成23年度より岩手県立大学に委託していた研究開発課題「Android端末を用いた事前登録型生活音識別システム」(JST 起業研究員:猿舘 朝(さるだて あした) 岩手県立大学 地域連携本部 プロジェクト研究員)において、聴覚障害者支援するスマートフォン用のAndroid注1)アプリケーションを開発しました。また、この成果をもとに平成25年5月23日(木)に、メンバーらが出資して「株式会社クリアフィックス」を設立しました。

聴覚障害者を支援する製品(屋内信号装置)は玄関のチャイム、FAX着信音、火災警報器などの生活音を光や振動に変えて、聴覚障害者に知らせる装置です。従来の装置は価格が高く、利用者に知らせる生活音の数にも限りがありました。今回、独自の音響処理技術によりうるさい場所でも、知りたい音をスマートフォンでリアルタイムに識別できるようにしました。また、知らせて欲しい生活音を追加登録することで、より多くの音を識別できます。さらに、一般家庭での雑音環境にも強く、新たな専用機器を必要としません。Wi-Fi注2)によりスマートフォン端末間で情報共有することも可能で、見守りシステムとしての活用も期待できます。

今後、この技術をスマートフォン用のアプリケーションとして一部の機能を制限した無償版や全ての機能を持った有償版を、平成25年12月頃までに提供し聴覚障害支援製品の普及を図ります。また、スマートフォンおよびタブレットの貸し出しや訪問サービスも展開する予定です。5年以内に基本技術である音響情報処理技術、無線通信技術を応用した文字-音響情報変換アプリケーション「音響コード」や店舗向けレジスターアプリケーション「ポケレジ」などにも展開して、1億円の売り上げを目指します。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP) 本格研究開発ステージ 若手起業家タイプ

研究開発課題 「Android端末を用いた事前登録型生活音識別システム」
起業研究員 猿舘 朝(岩手県立大学 地域連携本部 プロジェクト研究員)
研究開発期間 平成23~25年

A-STEPは大学・公的研究機関などで生まれた研究成果をもとに、実用化を目指すための幅広い研究開発フェーズを対象とした技術移転支援制度です。今回の「株式会社クリアフィックス」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」、「大学発ベンチャー創出推進」、「若手研究者ベンチャー創出推進事業」およびA-STEPによって設立したベンチャー企業数は、126社となりました。

詳細情報:https://www.jst.go.jp/a-step/

<開発の背景>

現代は高齢化社会であり、生活においてさらなる安全性や保障が求められます。これまで、研究者らは、耳が不自由な聴覚障害者を支援するための生活音識別システムについて検討してきました。このシステムでは特に10種類の生活音を精度よく識別できます。従来より、生活音識別システムとして専用の機器が商品化されていますが、コストが高くなり利用者のニーズを十分に満たしているとはいえません。一方で、スマートフォンをはじめとする携帯端末、高速通信システム、デジタル無線技術の発達によりさまざまな可能性が広がりました。これにより、生活音識別システムをスマートフォンなど既存製品のアプリケーションとして構築することで、より安価に実現することができます。さらに、この技術を屋外や職場、工場などでの異常検知へ応用することも考えられ、将来的には広い分野での活用が期待できます。

まずは、生活音識別システムについて、現在携帯情報端末の主流となりつつあるスマートフォンのアプリケーションとして実現し、より安心、安全な生活を目指して提供します。

<研究開発の内容>

今回、屋内の生活音を自動識別できるスマートフォン用のAndroidアプリケーションを開発し、音のセンサー「おんせん」と命名しました(図1図2)。従来の聴覚障害者を支援する製品は専用機器のみで、導入コストがかかるだけでなく、識別できる生活音に限りがあるといった課題がありました。「おんせん」はスマートフォンのような小型の汎用機器でも高速処理できるようにフレーム処理と呼ばれる実時間処理を行っています(図3)。識別部では、スマートフォンがデータを処理しきれなくなることを避けるために、比較的簡単な周波数分析(FFT)注3)パワー分析注4)を行い、識別します。また、蓄積データから環境雑音を推定し、現環境に合わせて特徴分析を行っているため、人と同じようにうるさい場所でも知りたい音をある程度検出できるようになっています。そのほかの特徴として、「おんせん」は事前に知らせて欲しい生活音を数多く登録でき、より多くの音を識別することができます。さらには、①利用者が生活する上で重要性、緊急性、危険性のある生活音を優先的に識別できる、②Wi-Fiを利用した端末間の情報共有を行うことができる、という機能も備えています(図4)。

<今後の事業展開>

耳が不自由である聴覚障害者がおんせんを利用することで、生活における不便さや危険な場面を解消し、QOLの向上が期待されます。また、端末間の情報共有機能も備えているため、高齢者の見守りシステムとしても応用できます。この技術をスマートフォン用のアプリケーションとして、一部の機能を制限していますが使用感を確認できる無償版と、全ての機能を持った有償版を提供し、聴覚障害支援製品の普及を図ります。また、スマートフォンおよびタブレットの貸し出しや訪問サービスも展開する予定です。

おんせんで用いられている技術は、携帯電話端末用の音響処理システムの基本技術となるため、この技術を応用、派生した事業を展開する予定です。具体的には、おんせんを構成する技術は音響情報処理技術とP2P注5)を応用した無線通信技術の大きく2つに分けられます。音響情報処理技術の応用・発展として、文字情報をあらかじめ定められている音の高さや長さと組み合わせてパターン化して利用する「音響コード」などが挙げられます。例えばラジオ放送の場面で、URLの読み上げの際にURLの「文字情報」を「音響コード」に変換して放送します。聞き手はそのコードを自動変換し、文字情報として受け取ることができ、URLの入力の手間を省くことができます。無線通信技術としてはスマートフォンやタブレットなどを利用した、店舗の「レジスターアプリケーション」や、「書籍管理アプリケーション」などの開発、販売を予定しています(図5)。

<参考図>

図1

図1 おんせんの利用概要図

図2

図2 生活音識別システムの基本構成図

図3

図3 リアルタイム処理の一例(ガス警報器およびドアが閉まる音)

音は突発的に発生するため、ある一定の間隔(フレーム)ごとに分析し、統計データを基に識別結果を求める。

図4

図4 端末間通信を利用した情報共有

スマートフォンを通じて、異常を別室や屋外にいる家族に知らせることができる。

図5

図5 レジスターアプリケーション「ポケレジ」

店舗で利用できるレジスターアプリケーション。無線通信技術の応用の1つ。メニュー機能、注文機能、レジ機能、店舗管理機能を備えている。サーバーを介する必要がなく、ある端末で更新した内容(注文やメニュー変更など)を即座に他の端末へ反映することができる特徴をもっている。

<用語解説>

注1) Android
Googleが開発したスマートフォンのオペレーティングシステム(OS)の1つ。スマートフォン用のOSとしては、日本では最も多く使われている。
注2) Wi-Fi(wireless fidelity)
無線LAN機器間の相互接続性を認証されたことを示す名称。室内屋外問わずネット環境に接続でき、高速通信が可能になる。
注3) 周波数分析(FFT)
音は空気が振動して伝わる。周波数分析では、その振動の周波数に着目して音を分析する。FFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)は短時間で周波数分析を行う手法の1つである。
注4) パワー分析
音は空気が振動して伝わる。パワー分析では、その振動のエネルギーに着目して音を分析する。
注5) P2P(peer to peer)
ネットワーク上で対等な関係にある端末間を相互に直接接続し、データを送受信する通信方式。

<添付資料>

参考:企業概要

<お問い合わせ先>

株式会社クリアフィックス
〒020-0021 岩手県盛岡市中央通三丁目14-4-304号
猿舘 朝(サルダテ アシタ)
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 産学連携展開部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
加藤 豪(カトウ ゴウ)
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