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科学技術振興機構報 第951号

平成25年5月7日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL http://www.jst.go.jp

熱電変換素子と燃料電池を組み合わせた
「排ガス発電システム」の開発に成功

ポイント

JST(理事長 中村 道治)は、独創的シーズ展開事業「委託開発」の開発課題「熱電シナジー排ガス発電システム」の開発結果をこのほど成功と認定しました。

この開発課題は、独立行政法人 産業技術総合研究所(理事長 中鉢 良治) 先進製造プロセス研究部門 機能集積モジュール化研究グループ 藤代 芳伸 研究グループ長の研究成果をもとに、平成18年3月から平成24年3月にかけて株式会社アツミテック(代表取締役社長 中島 和美、本社住所 静岡県浜松市中区高丘西四丁目6番1号、資本金 3.1億円)に委託して、企業化開発(開発費1.8億円)を進めていたものです。

CO削減や高騰する燃料費対策として、自動車やオートバイなどの燃費を向上させる研究開発が活発に進められています。例えば、ライトなどの電気系統はエンジンの動力により供給されているため、エンジン以外の手段により電力をまかなうことができれば、消費する燃料を減少させることができます。そこで、エンジンの排熱から、電気エネルギーを取り出す熱電変換素子注1)を用いた技術などが開発されていますが、発電効率が低く、実用化されていませんでした。

今回、排ガスに含まれる微量な未利用燃料注2)で発電できる新しい燃料電池を開発し、熱電変換素子と組み合わせることで、排ガスから電気エネルギーを効率的に取り出すことに成功しました。具体的には、排ガス中の未燃焼成分である水素などから、開発した固体酸化物形燃料電池(SOFC)注3)で電気を取り出し、さらに排ガスやSOFCの発熱を利用して熱電変換素子から電気を取り出します。

実際に、オートバイのエンジン排気口に設置しその機能と発電性能を実証した結果、400ccのエンジンが出す排ガスエネルギーの2.5%を回収することが確認できました。これは、オートバイなどに搭載され、ライトなどの電気をまかなっている400W級の発電ユニットの性能に相当します。

今後は、SOFCと熱電変換素子の発電バランスを含めて商品仕様を検討し、実用性を高めつつ、量産化、低コスト化を図り、2015年を目途に商品化を目指す予定です。さらに、発電効率を上げることにより、自動車やオートバイのみならず、工場などの排ガスの有効利用など、幅広い利用展開が期待できます。

独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「産学共同実用化開発」に発展的に再編しています。詳細情報 http://www.jst.go.jp/jitsuyoka/index.html

新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)温室効果ガス削減など環境意識への高まりを受け、車やオートバイの燃料消費の改善が望まれています。

世界的に地球温暖化の温室効果ガス削減など、環境問題が取りざたされています。また、化石燃料の枯渇問題、燃料費の高騰など燃料消費改善に関する開発が活発に進められています。

従来の自動車、オートバイなどは、エンジンの動力を利用した機械式発電機によって発電し、ライトなどの電気系統に電力を供給しています。エンジン以外の手段により電力をまかなうことができれば、消費する燃料を減少させ地球環境への負荷軽減に貢献できます。

そこで、燃費改善の課題を解決するため、これまでは車やオートバイから不要物として排出していた熱と未利用燃料を電気エネルギーとして回収する新規発電装置として、燃料電池と熱電変換材料を組み合わせた「熱電シナジー排ガス発電システム」を開発しました。

(内容)排ガスの未利用燃料と排熱から電気エネルギーの回収に成功しました。

この発電システムでは、排ガス中のガソリンなどの未利用燃料を利用して燃料電池の発電を行うとともに、排熱エネルギーから熱電変換素子による発電を行い、発電量を向上させます。

開発では最初に、燃料電池にも熱電素子にも使える混合伝導体注4)を用いてSOFCの電極と熱電変換素子を一体化し、SOFCと熱電変換素子の複合体(シナジーセル)を試作しました。シナジーセルを円筒型の構造とし、焼成条件や接合方法を検討し、量産化に向けた製造方法を確立しました。

円筒型SOFCの電極(空気極)に混合伝導体である、バリウム、ストロンチウム、コバルト、鉄、からなる酸化物(BSCF)を使用しました。熱電変換素子は、p型素子にBSCFを、n型素子にイットリウム、カルシウム、マンガンからなる酸化物で構成しました。

電極材料および熱電変換素子の組成の最適化や固溶元素配合、電解質の薄膜化、熱電変換素子の形状などを検討し、発電性能を向上させました。

複数のシナジーセルを用いて、排ガス発電システムを試作しオートバイに搭載しました。実際の排ガスで発電性能を測定した結果、排ガス温度500から600℃において、このシステムの出力密度は1立方センチメートル当たり1W(1W/cm)以上を達成しました。これは、400ccのエンジンが出す排ガスエネルギーの2.5%を回収できたことを意味し、ライトなどの電気をまかなっている400W級の発電ユニットの性能に相当します。

(効果)排ガスを利用した発電システムとして多種分野への応用が期待されます。

今回開発した発電システムは、熱と希薄な未利用燃料が存在すれば発電が可能となります。エンジンの燃費向上機能(アイドルストップ、フューエルカットなど)が作動している状態では、排ガスが供給されず、SOFCの出力が低下します。しかし、その間でも残存する排熱を利用して熱電変換素子が発電を続けるので、連続的な電力供給が可能となります。

今後、発電効率などを上げることにより、自動車やオートバイなどの移動体ばかりでなく、ポータルブル発電機や工場の排ガスを利用した発電装置など広範囲に応用できる可能性があり、幅広い利用展開が期待できます。

<参考図>

図1

図1 熱電シナジー発電システムの概念

熱電変換素子を円筒型SOFC上に配置した。円筒型SOFCは、内部から燃料極、固体電解質、空気極の構成とし、内部には内燃機関からの排ガスを供給する。熱電変換素子はSOFCの外表面に形成し、そのp型素子はSOFCの空気極を兼ねる。

図2

図2 SOFCと熱電変換素子の複合体(シナジーセル)と熱電シナジー排ガス発電システムの構造

シナジーセル320本を直列、並列に接続して熱電シナジー排ガス発電システムを形成した。

図3

図3 オートバイに搭載した熱電シナジー排ガス発電システム

図4

図4(左) SOFCの電流―電圧特性(1シナジーセル)
図5(右) 熱電変換素子の特性

図4よりSOFCの発電出力:0.431W、図5より熱電変換素子の発電出力:0.0003Wが得られた。

出力密度【システムの1立方センチメートル当たりのワット数、W/cm
=発電出力【ワット、W】÷シナジーセル(SOFC+熱電変換素子)の体積【1立方センチメートル、cm
=(0.431W+0.0003W)/0.316cm=1.364W/cm
注)出力密度算出についてはSOFC、熱電変換素子を個別に計測し、出力を合算させシナジーセルとしての体積当たりの出力密度とした。

今回の検証においては単位体積当たりの出力を目標としたので、SOFCに対し熱電変換素子での発電出力の比率が小さい結果となった。商品化の視点では、SOFCの停止時(フューエルカット、アイドルストップ)に熱電変換素子からの電力供給を行うことにより、連続的な電力供給が可能となる。

今後、熱電変換素子のさらなる性能向上を図り、排ガス利用ができないモードでの発電量を増やすことにより商品価値を高めていく。

<用語解説>

注1) 熱電変換素子
熱を電気に変換する素子。2種類の異なる素子(p型素子−n型素子)を接合し、温度差により起電力が生じる。
n型素子は電子が高温から低温側に拡散し、p型素子では正孔(半導体や絶縁体において、価電子帯の電子が不足した状態)が高温から低温側に拡散する。
注2) 未利用燃料
内燃機関の排ガス中に含まれる未燃焼成分(水素、オクタンなどの炭化水素、一酸化炭素など)。
注3) 固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)
固体酸化物を電解質に用いた燃料電池。一般的には700〜1000℃の高温で作動し、電解質内を酸化物イオン(O2−)が伝導する。水素だけでなくメタン(CH)やブタン(C10)などの炭化水素を燃料として発電が可能。
注4) 混合伝導体
燃料電池機能に必要なイオン伝導性と熱電機能に必要な電子伝導性を兼ね備えた材料。

<添付資料>

別紙:開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

株式会社アツミテック
開発本部 パワートレイン開発部 基礎研究ブロック
内山 直樹(ウチヤマ ナオキ)、内山 靖之(ウチヤマ ヤスユキ)
〒433-8118 静岡県浜松市中区高丘西四丁目6番1号
Tel:053-438-6711 Fax:053-438-6731

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 産学共同開発部
平尾 孝憲(ヒラオ タカノリ)、株本 浩揮(カブモト ヒロキ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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