本新技術の背景、内容、効果は次の通りです。

(背景) 新薬開発において、薬物の体内動態を把握できるスクリーニング系が求められていました。

 新薬の開発においては、投与した薬物が動物・ヒトの体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるのかを知るための薬物動態試験は必須です。非常に多くの候補薬物の中から目的に合った動態を示す薬物を絞り込むために、効率の良いスクリーニング系が望まれています。 薬物動態を把握するための一要素である代謝については、個人ごとに異なる薬物代謝酵素(シトクロームP450※2の分子種を同定するという方法が検査法として利用されていますが、薬物動態のもう一つの基盤となる排泄に関して、分子レベルのスクリーニング系の実用化が望まれていました。

(内容) 動物やヒトに投薬する前に、薬物の体内動態を解析できます。

 本新技術は、腎臓・肝臓・脳等の細胞膜に存在するヒト薬物輸送蛋白質(トランスポーター)を発現させた培養細胞を用い、薬物等の体内動態を予測するシステムに関するものです。
 腎臓、肝臓、消化管、脳等は、細胞を介した薬物の輸送を行っていますが、これら臓器の細胞膜上には、薬物を輸送するための入り口・出口にあたるトランスポーターが存在します。本新技術では、薬物の排泄に重要な役割を持つ腎臓に存在するトランスポーター(有機陰イオントランスポーター群:OATファミリー、及び、有機陽イオントランスポーター群:OCTファミリー)を培養細胞表面に発現させることで、生体が持つ薬物輸送機能をシャーレ上で代替する系を構築しました。この系に放射性同位元素で標識した被験薬物あるいは放射性標識薬物と被験薬物の混合液を与えて、その動態を解析することにより、ヒトの体内における薬物の吸収、分布と排泄、薬物の併用による副作用などをインビトロで簡便に予測することができます。
 検査手順は次のとおりです。
トランスポーター発現細胞をシャーレに播種し、2日間培養する。
放射性標識被験薬物、または、被験薬物と放射性リガンドの混合液を細胞に添加し、一定時間培養する。
培養した細胞をNaOHで溶解し、細胞内に取り込まれた放射性物質を、シンチレーションカウンターで測定する。
測定結果を酵素反応の理論式(ミカエリス-メンテンの式)に代入し、算出した反応速度等の薬物動態解析結果を報告書に表す。


(効果) 迅速・安価なスクリーニング系であり、新薬開発への利用が期待されます。

 本新技術による薬物の体内動態予測システムを利用すると、治療薬を動物やヒトに投与する前に、薬物の組織への移行性や体外排出性、併用薬との相互作用を予測できます。従って、被験者のリスク軽減、開発期間短縮等の経済的効果が見込まれるために、新薬開発のツールとしての利用が期待されます。

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This page updated on July 26, 2004

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