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別紙

研究開発テーマ概要、新規課題一覧および
プログラムオフィサー(PO)総評

研究開発テーマ:革新的医療を実現するためのバイオ機能材料の創製

PO:岩田 博夫(京都大学 再生医科学研究所 所長/教授)

研究開発テーマ概要

日本は急速に高齢化が進み2025年には65歳以上の高齢者が人口の30%を超え、寝たきり人口が450万人になると予想されています。あらゆる分野でこの問題に対する対策を立てておく必要があります。医療の面に与える影響は極めて大きく、2025年には医療費が59兆円、さらに介護費を加えると94兆円にも上ると言われています。社会がこれを支えることができるのかと心配されています。また、東アジア圏でも急速に高齢化が進み、例えば中国で2025年には65歳以上の高齢者人口が2億8,000万人にもなります。高齢者の増加は、社会の負担の激増ですが、一方では、輸出産業の環境が新たにできつつあるともとらえることができるでしょう。

近年の医療技術の革新には目を見張るものがありますが、その中身は大きな問題を抱えています。その1つが先端医療技術の多くが米国をはじめとする欧米から導入されたものであること、もう1つは、多くの先端治療法は延命には絶大な効果があるものの病気が治癒したわけではない状態が持続するため、医療費の増大につながっていることです。患者が満足し、さらに、医療費の増大につながらない医療技術の開発が望まれています。

先端医療技術を支えるバイオ機能材料研究に目を向けますと、日本の研究レベルは毎年世界の一流のジャーナルに多数の研究論文が発表されていることからわかるように世界のバイオ機能材料研究をリードしていると言っても過言ではありません。しかし、残念ながらその多くは先端医療技術の創製に結実してはいません。これは大学などで行われる研究と医療の現場で必要とされるものとの乖離、また、許認可の審査に多大な労力と長時間を要したという問題がありました。最近では大学などの医療工学研究者の意識も変わり、また、許認可の審査にも多くの改善が見られるようになりました。

本プログラムでは、医師および医療技術研究者をはじめとする医療が抱えている課題を熟知した人達とともに、「先端医療技術の開発に役立つか」という視点で、開発されてきたバイオ機能材料をふるい分け、先端医療技術の開発に必要であるバイオ機能材料を新たに開発します。すなわち、10年後に迎える医療の現場を見つめ、そこで真に必要とされる先端医療・在宅医療を想定し、それを実現するために必要なバイオ機能材料およびそれらを用いた革新的医療デバイスの開発を目的として実施されるものです。

採択課題一覧

課題名 研究概要 PM 開発リーダー
研究リーダー
免疫制御を目的とした体外循環治療の基盤技術の創製と応用

制御性T細胞(Treg)による免疫制御、およびT細胞非依存性抗原によるB細胞の活性化にかかわる基礎研究の成果に基づく基盤技術を、普遍的技術として確立されている体外循環システムと組合せ、免疫制御できる体外循環モジュールを開発します。開発する3種類のモジュールは、Treg選択除去、B細胞直接賦活化、Treg分離回収をそれぞれ可能とします。これらにより、免疫療法によるがんや自己免疫疾患への新しい治療技術を創出します。

  安武 幹智 旭化成株式会社
木村 俊作 京都大学
金属系バイオマテリアルの生体機能化−運動骨格系健康長寿の要−

金属材料を基盤とした、あたかも生体組織として振る舞う革新的運動骨格系医療デバイスを開発します。これまでに蓄積された豊富なシーズを活用し、新合金開発、機能表面創製、新製造プロセスを三位一体として、参加各機関の有機的連携により、シーズの高度化、機能評価・製品化技術の検討、最終製品化の順に、マテリアル開発から製造プロセスまでの一貫した研究開発を実施し、10年後の運動骨格系医療に基づく健康長寿を可能にします。

  中島 義雄 ナカシマメディカル株式会社
塙 隆夫 東京医科歯科大学
mRNA内包バイオ機能構造材料による運動・感覚器機能再建

高齢化社会において、生活の質に重要な運動・感覚器機能を維持・再生することが、健康寿命の延伸に重要です。本研究では、周囲細胞の分化・増殖を制御し、in vivoで運動・感覚器機能再建を誘導する画期的なインプラント材料を創製することを目指します。具体的には、三次元構造を精密に制御したバイオマテリアルと機能再建に最適化したシグナル因子を発現するmRNAを融合し、位置・量・時間を制御して局所標的細胞に作用させるmRNA内包バイオ機能構造材料を開発します。

  近藤 史郎 帝人株式会社
鄭 雄一 東京大学
マテリアル光科学の創成を基盤とする超バイオ機能表面構築技術の開拓

加齢とともに健康障害が頻発する循環器系あるいは運動器系疾患に適用する医療デバイスの表面構築を実践し、医療デバイスの安全性を向上させ機能寿命を延長します。表面特性として血液適合性、組織親和性および高潤滑性に着目し、これを実現する基盤として高効率光反応性ポリマーの合成と光反応プロセスの確立を柱とする新しいマテリアル光科学を創成します。最終的にはマテリアル光科学を実装した医療デバイスを開発し、健康寿命の延伸に貢献します。

  福井 洋樹 日油株式会社
石原 一彦 東京大学
原子配列・ナノ構造制御による高次機能性TiNi合金製ステントの開発

下肢動脈疾患のステント治療において、デバイスの細径化やフラクチャーの抑制など、さらなる低侵襲化が望まれており、本研究ではそれを実現する次世代TiNi超弾性合金ステントを開発します。具体的には、粉末冶金法を用いた原子・ナノ構造化による高プラトー応力と高回復率の発現と、有限要素法解析によるステント・デザインの最適化を行い、耐久性試験、生体適合性試験、動物実験などの安全性・信頼性に関する検証を行い、早期商品化を目指します。

  志村 賢一 テルモ株式会社
近藤 勝義 大阪大学
革新的硬組織再生・再建システム創製

骨や歯などの硬組織欠損の再生再建を総合的に治療する革新的硬組織再生・再建システムを創製します。骨や歯の機能を代替するインプラント材に関しては、インプラント材が早く、強く骨と結合するようにCa表面修飾インプラント材を開発します。また、骨欠損が大きい場合には骨の再生を行う必要がありますが、骨リモデリングプロセスを活性化させ、迅速に骨に置換される炭酸アパタイト骨置換材を開発します。

  佐久間 徹郎 株式会社ジーシー
石川 邦夫 九州大学
空間特異的な細胞の配置と分化誘導技術に基づいた臓器再生スキャホールド材料の創成

機能臓器の再生には、異種細胞・異種組織からなる3次元構造の再構築が必須です。人工レセプター・リガンド技術により3Dマトリックス中で機能細胞を適切に配置し、幹細胞の分化を誘導することで、生体の治癒力を最大限に引き出した臓器再生用の次世代スキャホールド基材を構築します。血管内・中・外膜を完全に再構築した小口径再生型血管の前臨床研究の完了に加えて、さらに複雑な構造を持つ組織再生のための基盤技術を構築します。

  名本 真二 株式会社ジェイ・エム・エス
山岡 哲二 独立行政法人 国立循環器病研究センター
LAP陽性制御性T細胞およびTGF−βに対する選択除去材の創製およびがんの革新的治療法への応用

がん患者では血液中に免疫を低下させる制御性T細胞やTGF−βが増加しており腫瘍の増殖や再発・転移を助長するので、この制御性細胞、とりわけ、LAP陽性T細胞およびTGF−βを選択的に除去できる吸着材およびこれを満たす体外循環カラムを開発しました。そこで、カニクイザルを用いてこのカラムの効果と安全性を確認するとともに、このカラムと他のがん治療技術とを組み合わせて、悪性腫瘍の縮小ができるがん治療技術を開発します。

  板垣 一郎 東レ株式会社
小笠原 一誠 滋賀医科大学

PM(プロジェクトマネージャー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー(PO)総評>

今回44課題の応募をいただきました。バイオ機能材料の研究は医療デバイスの作製に用いる機能材料の開発を行う応用研究です。しかし、各診療科で求められるデバイスが異なること、また、分子レベルから細胞さらに個体と異なるスケールの問題を解決しなければならないため、研究者の数に比して研究しなければならないことが多く、大学などで行われる研究の多くが残念ながら臨床の現場にまで届いていないのが現状でした。

今回、研究を医療の現場に届けることを目標に、①提案の背景となる研究のレベルはどうか、②開発する医療デバイスの明確なイメージが描けているか、③研究からデバイスの販売までのそれぞれの主体者のアライアンスがしっかり組めているか、④10年後の医療を変革する提案になっているか、などの視点から採否を決定しました。

採択に至らなかった課題の中には、研究レベルが高く魅力的な提案ではあるが、研究から臨床応用さらに販売までのアライアンスに弱点があるために採用に至らなかったものが多くありました。

さて、当初5件の採択予定でしたが、8件採択いたしました。採択課題もステージが進むにつれて、課題数が絞られていきます。その時、実用化へ向けた開発が着実に進められているか否かが大きな評価基準になります。熾烈な競争になるかと思いますが、10年後に革新的医療を実現できるよう研究開発に注力いただけることを期待しています。