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別紙1

平成24年度 新規プロジェクトの概要 一覧

研究開発領域「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」≪平成24年度発足≫

実施期間:上限3年、研究開発費:(カテゴリーⅠ)1,000万円未満/年
(カテゴリーⅡ)2,000~3,000万円程度/年
【カテゴリ-】※1
題名
研究代表者名
所属・役職
概要 研究開発に協力する関与者
【Ⅰ】
中山間地水害後の農林地復旧支援モデルに関する研究
朝廣 和夫
九州大学
芸術工学研究院 環境・遺産デザイン部門
准教授

2012年7月の集中豪雨により、八女市など九州北部の中山間地域は多大な被害を被った。今後、豪雨による災害の頻度は増加することも想定され、中山間地の回復可能性を高める新たな仕組みの確立は急務の課題である。

本プロジェクトでは、中山間地における水害に対して、被災前から農林地の保全活動を展開し、平常時からの取り組みを災害時にも継続的に展開可能とする農林地復旧支援モデルの構築を目的とする。具体的には、八女市において被災集落やそこで活動するNPOなどの協力を得て、被災から現状に至る聞き取り調査、景観調査を行う。さらに本成果を一般化し他の中山間地でも活用できるよう、中長期的にわたり農林地、自然環境の復旧支援に資する地域-NPO協働型の農林地復旧支援モデルの立案に寄与することを目指す。

  • 八女市
  • 山村塾
【Ⅱ】
いのちを守る沿岸域の再生と安全・安心の拠点としてのコミュニティの実装
石川 幹子
東京大学
大学院工学系研究科
都市工学専攻
教授

東日本大震災後、日本における防災の考え方は、被害ゼロを目指す取り組みに加えて「被害を最小化するための減災」を合わせて検討していくことに大きく変化したが、実際は防潮堤工事のようなハード面での対応策に偏重しがちである。今後の災害に備えた事前予防型の復興を行うためには、地域コミュニティを主体とする多重の対応策により安全・安心な地域を平時から創出することが重要である。

本プロジェクトは、そのような安全・安心の拠点としてのコミュニティの構築およびその存続を支える「いのちを守る沿岸域」の再生を提示する。そのために、巨大災害からの復興の筋道や、微地形や生物多様性を考慮した都市・地域計画の策定に関わる手法と技術を開発し、実証することを目標とする。具体的には、防災集団移転促進事業に決定している宮城県岩沼市玉浦地区を含む仙南沖積平野を対象に、まちづくり、生態学、G空間情報処理などの観点から流域圏分析や現地調査などを行う。そして、行政・住民・NPO・企業などが協働する場を構築し、レジリエントな(回復力の高い)まちづくりを行う合意形成を図ることで、今後の災害に備えた事前予防型の復興に寄与することを目指す。さらに本成果を一般化し、沿岸地域や類似の風土を持つ他地域への展開を図る。

  • 東京大学 社会科学研究所
  • 東京大学 新領域創成科学研究科
  • 首都大学東京 都市環境科学研究科
  • 日本大学 生物資源科学部
  • 岩沼市市役所
  • 特定非営利活動法人 オープンコンシェルジュ
【Ⅱ】
災害対応支援を目的とする防災情報のデータベース化の支援と利活用システムの構築
乾 健太郎
東北大学
電気通信研究機構
教授

東日本大震災の災害対応においては、防災情報の集約が紙媒体を主体としたものであったために、災害対応従事者間での効率的な情報共有がなされず、被災者ニーズの正確な把握や迅速・公平な支援ができないという大きな問題があった。近い将来発生が予想される首都直下地震、東海・東南海・南海地震などへの備えとして、これらを改善し、災害対応を支援する情報システムを構築することは急務の課題である。

本プロジェクトでは、被害情報や災害対応記録などを効率的にデータベース化することにより、災害対応や事前の訓練における効果的な利活用を実現するとともに、将来に活かすべき教訓を引き出す基礎データとして蓄積することを目的とする。具体的には、多様な媒体・様式を介して集まってくる防災情報に対し、東日本大震災被災地での教訓もふまえ、自然言語処理などの技術を活用してこれを構造化する作業を支援、効率化する仕組みを構築する。これにより、災害対応現場における情報入力のボトルネックを解消し、自治体などにおける状況認識の共有、人的リソースの有効活用に寄与することを目指す。

  • 日本電信電話株式会社NTT セキュアプラットフォーム研究所
  • 富士常葉大学
  • 京都大学 防災研究所
  • 宮城県など東日本大震災 被災自治体
【Ⅱ】
伝統的建造物群保存地区における総合防災事業の開発
横内 基
小山工業高等専門学校
建築学科
助教

伝統的建造物群保存地区は防災面では一般市街地以上の脆弱性を持つ。従来より保存事業とならんで防災事業がなされてきたものの、防火対策に重点が置かれており、東日本大震災で甚大な被害の原因となった構造補強などに取り組む事例は少なく、総合的な防災体制の重要性が再認識されている。

本プロジェクトでは、東日本大震災において地区全体で多大な被害を受けた茨城県桜川市と栃木県栃木市の伝統的建造物群保存地区を対象に、今次の震災経験に基づいた地震対策も含め、それら地区が抱える高齢化や職人不足、空き家対策などの防犯上の問題などを考慮し、地域に根ざした総合的な防災事業体制の開発を目的とする。具体的には、マニュアルが未整備な伝統的建造物群の修理・修景の設計・計画手法や、伝統構法を継承するための施工体制の構築、さらには住民参加による防災ガイドラインの作成や総合防災訓練の実施などを通じて自助・共助による自主防災体制、行政間の連携体制を構築することを目指す。さらに本成果を一般化し、他の伝統的建造物群保存地区や木造密集地域など類似の問題を抱える地域への展開を図る。

  • 東京都市大学 工学部
  • 早稲田大学 理工学術院
  • 栃木市教育委員会 伝建推進室
  • 桜川市教育委員会 文化財課
  • 社団法人 茨城県建築士会 桜川支部
  • 栃木蔵の街職人塾
  • 栃木蔵街暖簾会
  • 真壁町登録文化財を活かす会
  • 特定非営利活動法人 ハイジ
  • ネットワークとちぎ

※1 カテゴリーⅠ:社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標の体系化など)。

カテゴリーⅡ:社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの。

プロジェクト企画調査※2

実施期間:約4ヵ月、企画調査費:数百万円以下
題 名 研究代表者名
所属・役職
借り上げ仮設住宅被災者の生活再建支援方策の体系化 立木 茂雄
同志社大学 社会学部 教授
新たな命を取り巻くコミュニティのレジリエンシー向上のための基盤研究 富田 博秋
東北大学 災害科学国際研究所 教授
大規模災害リスク地域における消防団・民生委員等の地域防災コミュニティの危機対応力向上に関する企画調査 松尾 一郎
特定非営利活動法人 環境防災総合政策研究機構
環境・防災研究所 首席研究員
長期的な視点からのレジリエントな都市圏創造に関する研究 廣井 悠
名古屋大学 減災連携研究センター 准教授

※2 プロジェクト企画調査:
年度内に研究開発の企画を具体化し、次年度以降の研究開発の優れた提案となることが期待されるもの。

<総評>領域総括 林 春男(京都大学 防災研究所 巨大災害研究センター 教授)

「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」は、平成24年度に開始されました。本プログラムでは、20世紀の科学技術の発展が生み出したリスク社会において持続的な発展を続けていくために、必要となるさまざまな分野の科学技術を集めて総合化し、さまざまな種類のリスクに対して社会を「強くしなやか」にすることで、社会の安全・安心を守るための概念・理論・技術・方法論などを体系的に構築し、社会実装していくことを目指しています。

第1回目の募集となる今年度は、これらの目的や問題意識を提示するとともに、期待されるプロジェクト像として、(1)コミュニティの特性を踏まえた危機対応力向上に関する研究開発、(2)自助・共助・公助の再設計と効果的な連携のための研究開発、(3)安全・安心に関わる課題への対応のために個別技術・知識をつなぐ仕組みを構築する研究開発、(4)コミュニティをつなぐ仕組みの社会実装を促進するための研究開発(法規制や制度などの整理分析、新たな取り組みへの仕掛けづくり)、という観点を強調して提案を募りました。応募の種別は、各課題が目指す位置づけに応じてカテゴリーⅠ、カテゴリーⅡ、企画調査の3つを設けました。カテゴリーⅠとは、社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標の体系化など)、カテゴリーⅡとは、社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの、そして企画調査とは、年度内に研究開発の企画を具体化し、次年度以降の研究開発の優れた提案となることが期待されるものです。また、より幅広い提案者層に呼びかけることを目的に、東京と京都で募集説明会を開催しました。

この結果、大学や研究機関のみならず、独立行政法人、特定非営利活動法人、民間企業などから、96件(カテゴリーⅠ:9件、カテゴリーⅡ:67件、企画調査:20件)の応募が寄せられました。研究開発を実施するコミュニティは東北の被災地から九州まで幅広く分布しており、内容についても、ICT(メディア活用・ツール開発・センシングとモニタリング)、まちづくり(ガイドライン・ツール開発)、コミュニティづくり、リスクコミュニケーション(訓練)、土木・建築(伝統建築物、観光地の避難誘導、耐震性能、津波都市計画)、医療系、心理系など多様な分野の提案が集まりました。

募集締切後、領域総括および領域アドバイザーなどの事前評価者が書類選考と面接選考(事前評価)を実施し、最終的に4件を研究開発プロジェクト(カテゴリーⅠ:1件、カテゴリーⅡ:3件)として、4件をプロジェクト企画調査として採択しました。結果的に、実施者は所属が国立大学・私立大学・高専・NPOなど多岐にわたり、研究代表者・実施者は若手・女性が中心となっている提案を採択することができ多様性に富むものとなりました。

総合的な判断の結果、採択に至らなかった提案には、取り上げるテーマは重要と評価されるが計画において具体性を欠いている、取り組む必要性は認められるものの新しいアプローチや研究開発要素に乏しい、あるいは、個別領域における研究としての着想が優れており研究計画自体には魅力を感じるものの、必ずしも本プログラムの目的・趣旨と適合しないといった課題が見受けられました。この点については、ご提案いただく皆様に、公募の主旨をしっかりとご理解いただけるよう改善に努めて参ります。

今後は採択した課題が「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」のモデルケースとなるように、研究実施者とマネジメントチームのメンバーが一体となってプロジェクトの推進に取り組んで行く所存です。