JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「水生・海洋藻類等による石油代替等のバイオエネルギー創成及びエネルギー生産効率向上のためのゲノム解析技術・機能改変技術等を用いた成長速度制御や代謝経路構築等の基盤技術の創出」
研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
研究総括:松永 是(東京農工大学 学長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
粟井 光一郎 静岡大学 若手グローバル研究リーダー育成拠点 特任助教 ラン藻ポリケチド合成酵素を用いた脂質生産 通常型 3年 本研究では、窒素固定能を持つ糸状性ラン藻Anabaena sp. PCC 7120株で、ポリケチド合成酵素を用いた脂質生産を行います。この株は、窒素欠乏条件でポリケチド合成酵素によって脂質の一種、超長鎖脂肪酸アルコールを合成・蓄積することが知られています。この仕組みを利用し、光合成能・窒素固定能を維持したまま、遺伝子改変によって高効率で脂質を合成し、さらに蓄積または細胞外に放出する株を作出します。
岩堀 健治 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科 研究員 藻類由来フェリチンの機能強化によるナノマテリアル生産システムの創成 通常型 3年 本研究では、低濃度金属イオン環境で機能することができる特殊な藻類由来フェリチンタンパク質のバイオミネラリゼーション能力を強化し、コントロールすることで種々の極限環境でも生育可能な藻類細胞の開発と有用金属回収を目指します。本研究によって、海洋や鉱山、工場などの廃水や廃棄物から極低濃度の有用金属を回収し、直接ナノ電子デバイス作製を行うバイオナノマテリアル生産システムの構築が可能となります。
遠藤 博寿 東京大学 大学院農学生命科学研究科 特任助教 高脂質含有円石藻の形質転換技術の確立と有用脂質高生産に向けた応用 通常型 3年 円石藻は世界中の海に広く分布し、二酸化炭素を大量に固定することで海洋の炭素循環に大きな役割を担っている微細藻類です。中でもPleurochrysis carteraeは、脂質の含有量が高く、大量培養が可能なことから次世代のバイオエネルギーの原材料として期待されています。本研究では、同種の形質転換技術の確立を軸とし、脂質代謝系の解析および燃料として有用な脂質を効率よく生産する株の作出を目指します。
柏山 祐一郎 立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構 ポストドクトラルフェロー クロロフィルの光毒性を利用した植食性原生動物の繁殖抑制農薬の開発 通常型 3年 藻類培養の現場では、培養地に侵入する原生動物による食害が大きな問題です。本研究では、原生動物が持つ「クロロフィルの光毒性(活性酸素を発生させる能力)を回避する代謝系」において解毒機構を解明し、その機能を阻害する酵素阻害剤を開発することで、原生動物を駆除する技術を確立します。将来的には、食害を抑制し、屋外開放系における高効率・低コストな有用藻類生産の実現を目指します。
木村 浩之 静岡大学 理学部 講師 付加帯エネルギー生産システム創成に向けた基盤技術の開発 通常型 3年 南西日本の太平洋側に分布する、厚い堆積層「付加帯」の深部地下水に含まれる微生物群集を利用したエネルギー生産システムの創成に向けた基盤技術を開発します。特に、微生物群集の網羅的遺伝子応答解析を試み、水素ガス・メタン生成を担う微生物共生メカニズムについての理解を深めます。さらに、広範囲の付加帯地域にて深部地下水、遊離ガス、微生物群集の解析を試み、高効率のエネルギー生産が期待できる付加帯エリアの特定を目指します。
斉藤 圭亮 京都大学 生命科学系キャリアパス形成ユニット 特定研究員 藻類の光吸収制御のための理論的基盤の確立 通常型 3年 単一の波長の光しか吸収できない藻類を別の波長も吸収できるように改変できれば、今まで利用できなかった光を活用できます。本研究では、光吸収波長域を自在に変えるだけでなく、アンテナタンパク質間のエネルギーの流れも最適化する変異体の創成を目指し、タンパク質構造に基づく理論解析を行います。これにより藻類の光吸収チューニング技術の基盤を確立し、あらゆる藻類によるバイオエネルギー生産効率の飛躍的な向上を狙います。
塚谷 祐介 立命館大学 総合科学技術研究機構 研究員 巨大光捕集器官クロロソームを利活用した生理活性物質・脂質の大量蓄積系の構築 通常型 3年 弱光環境で生育する光合成微生物は糖脂質膜で覆われた光捕集体「クロロソーム」を持ち、その内部には多量の色素分子が存在します。本研究では、色素合成系を制御してβ-カロチン色素等の生理活性物質をクロロソーム小胞内に大量に蓄積するための基盤技術を構築します。さらにクロロソームの生合成過程を明らかにして、その内部および小胞膜へ移行する物質の選択を自在に操り、応用性の高い物質生産系の開発を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:松永 是(東京農工大学 学長)

本研究領域では、藻類・水圏微生物の中に高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを活かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指し、平成22年度から募集を開始しました。募集にあたっては、近年急速に発展したゲノミクス・プロテオミクス・メタボロミクス・細胞解析技術等を含む先端科学も活用し、藻類・水圏微生物の持つバイオエネルギーの生産等に有効な生理機能や代謝機構の解明を進めるとともに、それらを制御することによりエネルギー生産効率を向上させるための研究、さらには、バイオエネルギー生産に付随する有用物質生産や水質浄化等に資する多様な技術の創出に関する研究も対象としました。

最終年度は、将来のバイオエネルギー創成につながる革新的技術の実現に向けて、生物学的、化学的、工学的アプローチによる、基礎的段階でのボトルネックの解決に資する提案はもちろん、今後この分野に大きな進展をもたらすことが期待される要素のうち、特に光の有効利用、バイオセンサー、リサイクルプロセスなど、革新的バイオリアクターやその確立につながる提案、また、バイオエネルギー生産の工学的プロセスにおける工程設計や処理技術など実用化につなげるための提案、さらには、ブレークスルーが生まれれば藻類等にとどまらず、その他関連研究にも波及効果が期待できるような挑戦的な提案などを対象とした募集を行ったところ、多岐にわたる分野から計56件の応募がありました。選考は研究総括が11名の領域アドバイザーの協力のもとに行いました。まず、書類選考では各提案課題についてその課題内容に近い研究領域を専攻する領域アドバイザー3名ずつが査読を行い、それらの書面評価に基づき討議し、22件の課題について面接選考を行いました。選考にあたっては、応募者と利害関係にある評価者の関与を避け、他制度による助成とその対象課題にも留意し、公平な判断を心がけました。書類・面接選考では、研究構想の意義、研究計画の妥当性、準備状況と提案課題の実現性を考慮し、またさきがけの趣旨に照らして、研究課題とその実施体制の独立性、ならびに新課題への挑戦性を重視しました。選考の結果、通常型として研究期間3年型7件を採択しました。

今年度は、これまで以上にバラエティーに富む研究提案が採択されたように思います。今回採択できなかった提案にも、重要な提案や独自性に優れたものが多数ありました。しかし、本研究領域の趣旨に合わないものや研究計画とその内容などに予備的な実験等を軸とした具体的な記述が不足しているものは不採択としました。

今回の採択で公募は終了いたしますが、将来のバイオエネルギー創成につながる革新的技術の実現に向けて、生物系、化学系、工学系などの幅広い分野から次への可能性にチャレンジする研究が推進されることを期待します。

本研究領域は、CRESTと一体的、統合的に研究を推進する体制で行います。研究の進捗に応じて、相互の研究成果の情報交換を密にし、両推進体制間におけるコラボレーション(研究協力)等も積極的に推進したいと考えています。さらに、本研究領域が目指す“基盤技術の創出”とその“社会への実装”に向けて、今後は、研究成果の発信に力を入れていきたいと考えています。