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別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等のナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出」
研究領域:「新物質科学と元素戦略」
研究総括:細野 秀雄(東京工業大学 フロンティア研究機構/応用セラミックス研究所 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
梅津 理恵 東北大学 金属材料研究所 助教 新規高スピン偏極材料の探索と原子配列制御に伴う電子状態と物性変化 通常型 3年 高度情報化社会に向けて高速・大容量・低消費電力デバイスの開発が強く望まれており、スピントロニクスという分野では実用温度で安定な高スピン偏極材料の発見が待たれています。本研究では、今までにない合金系でその新規高スピン偏極材料の探索を行うと同時に、物質の原子配列を制御し、理想的な電子状態を有限温度においていかに実現させるかに着目し、材料の性能を最大限に引き出す革新的なデバイスの創製を目指します。
岡田 純平 (独)宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 助教 超過冷却液体を用いたナノスケール複合材料の創製 通常型 3年 本研究は、液体を保持するための容器が不要な無容器プロセシングを用いて人為的に大きな過冷却状態を実現し、通常では得られないような新しい相や、新しい機能を持つ材料の創製を目指します。特に、Siの超過冷却液体を急冷凍結することによって、半導体領域と金属領域がナノスケールで共存する準安定相Siを作り、高い熱電性能をもつ材料を実現します。
亀川 厚則 東北大学 大学院工学研究科 准教授 革新的磁石材料の為の超高圧合成法による新規磁性化合物の探索 通常型 3年 現用のネオジム磁石を凌駕する高飽和磁化と高保磁力を持つ革新的な永久磁石材料の創製に挑戦します。EVやHEVなど環境対応車の駆動用モータに使用されるなど、永久磁石は今後の環境共生社会に不可欠なグリーンマテリアルです。本研究は鉄が10数万気圧の超高圧によりレアアース金属と同じ結晶構造に変化することに注目し、資源的な制約の少ない鉄をベースにレアアース使用量を大幅に削減した新しい磁石合金の開発を行います。
紅林 秀和 ケンブリッジ大学 物理学部 研究員 界面電子軌道混成を利用した新物質創生と超省電力磁化反転技術の開発 通常型 3年 本研究では、クラーク数第四位である鉄を用い、その超薄膜化と界面効果に着目することでバルクの鉄には本来存在しない機能性を引き出し、新しい界面磁性材料の創製に挑戦します。特に今回注目する機能性は電荷/スピンシグナル変換です。電荷/スピンシグナル変換の高効率化が進めば、磁性体の不揮発性を利用した安価な低消費エネルギーデバイス構築の可能性が生まれます。
小林 玄器 神奈川大学 工学部 助手 ヒドリド酸化物の直接合成による新規機能性材料の探索 通常型 3年 ヒドリド(H)酸化物は新規物性を発現しうる材料として注目されていますが、現状でヒドリド酸化物を直接合成するための有効な方法は無く、ヒドリドを含有できる物質系は限られています。このため、物質探索の領域は狭く、ヒドリド含有と物性との関連性も解明されていません。本研究では、ヒドリド酸化物を直接合成する手法を確立し、ヒドリドイオン導電性や新たな電子物性を有する新規機能性材料の開発を目指しています。
近藤 剛弘 筑波大学 大学院数理物質科学研究科 講師 グラファイトの電子状態制御による新規触媒の創成 通常型 3年 グラファイトは異種元素と相互作用をした場合やジグザグエッジと呼ばれる端の部分や欠陥部周辺で、エッジ状態と呼ばれる局在化した電子準位を出現させます。本研究では、グラファイトのエッジ状態の出現位置、密度、エネルギー準位を化学的および物理的手法を駆使して緻密に制御し、高価で希少なレアメタルである白金族金属の触媒機能を凌駕する高い選択性と触媒活性、および耐久性を持つ新たな触媒材料を創成します。
関 真一郎 東京大学 大学院工学系研究科 助教 磁気バブルメモリの刷新に向けた、スキルミオンの結晶学と電磁気学の構築 通常型 3年 磁性体中で現れる「スキルミオン」と呼ばれるナノサイズの渦状スピン粒子を、メモリ素子における新たな情報担体として活用することを目指します。スキルミオンは、かつて商用化された磁気メモリの一種である「バブルメモリ」の大容量化・省電力化・レアアースフリー化に貢献することが期待されており、本研究では特に、スキルミオンを伴う新物質の開拓と形成条件の解明、電場・光によるスキルミオンの制御を目標とします。
塚崎 敦 東京大学 大学院工学系研究科 特任講師 自発分極変調を機軸とする物質探索と機能開発 通常型 3年 本研究では、薄膜結晶の組成を連続的に制御することで、自発分極量の変調された物質の開拓を目指します。そうして作られる薄膜構造内では、組成傾斜に対応した電界を生じており、元来不活性なドーパントの活性化率を高めたり、バンド構造の変化を及ぼしたり、と従来の単調組成の薄膜とは異なる物性の発現が期待できます。様々な元素を使ってこの分極変調効果を活用することで、薄膜物質科学の新機軸開発に取り組みます。
中辻 知 東京大学 物性研究所 准教授 スピンのナノ立体構造制御による革新的電子機能物質の創製 通常型 3年 強磁性体を用いるこれまでのメモリ材料開発においては、動作原理の制約上、レアアースや貴金属に頼った研究開発が主流となっています。本研究では反強磁性体に着目し、スピンのナノ立体構造を制御することで現れる新しいホール効果のメモリ特性を利用して、クラーク数上位の元素による不揮発性メモリの開発を目指します。特にホール素子として動作する電子機能物質を開拓するだけでなく、その制御に必要な新しいホール効果の機構解明を行います。
宮内 雅浩 東京工業大学 大学院理工学研究科 准教授 ユビキタス量子ドットの創製と光エネルギー変換材料への展開 通常型 3年 本研究では、無毒、安価な量子ドットを基にした太陽光発電や人工光合成システムを開発します。大量製造が可能な化学溶液法を駆使し、特異な量子効果が発現するように粒子のサイズや形状を制御し、エネルギー変換効率と耐久性を高めるため粒子界面のナノ構造を高度に設計して薄膜電極システムへ展開します。従来の化合物半導体太陽電池や植物の光合成の効率と同等の性能を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:細野 秀雄(東京工業大学 フロンティア研究機構/応用セラミックス研究所 教授)

本研究領域として最後の公募となる今回は91件の提案が寄せられました。第1期、2期と比べると応募数は減少しましたが、内容的にレベルが高く、本研究領域の趣旨に合致する提案の件数はこれまでと遜色がなく厳しい選考となりました。1件の提案に際し、領域アドバイザー3名による書面評価の結果をベースに面接対象者22名を選び、さらに面接により10名を最終的に選考しました。選考基準は以下のとおりです。

(1)提案内容と本研究領域の趣旨の整合性
(2)提案内容のオリジナリティとこれまでの実績に照らしての実現性
(3)本研究領域に採択されることでの伸びしろの大きさ

なお、本研究領域では、アドバイザーの研究室の関係者(総括の関係者は応募ができない)や、過去のさきがけ研究者に関しては、採用枠に対してトップ60%以内の高評価であることを今回も適用しました。

その結果として10名の研究者が採択に至りました。専門は固体物理、金属、セラミックス、触媒に分布していますが、結果としてスピンに関係したテーマの提案がやや多くなりました。有機物質に関するテーマは、応募件数自体が例年と比べ減少した中で結果として採択された提案はありませんでした。この応募件数の減少は、分子技術に関するさきがけの領域が今年から立ち上がったことの影響もあったと思われますが、この分野からは既に本研究領域1期2期にて採択された課題が多く、今後研究領域内の討議に期待しています。女性研究者からの提案は2件が面接選考まで進みましたが、採択されたのは1件にとどまりました。

今回を含め3回の選考を経験した印象を以下に記します。本研究領域は「新物質科学と元素戦略」が課題で、その概要は明確に募集要項に記してあります。よって、これまで自分がやってきたテーマをそのまま書いただけでは、明らかに不十分であり、この領域の目指すものに、どう切り込むかという具体的な視点が見えることが不可欠です。科学研究費の申請書をほぼそのまま使うような提案書では応募しても無駄です。こういう手を抜いた提案は、優れた研究者である領域アドバイザーには直ぐに見破られてしまいます。やはり、真剣に領域の趣旨をしっかり汲み取り、独自のアプローチを明示し、隣の分野のエキスパートにも理解してもらえるように書かれた提案でないと議論の俎上に上がってきません。採択に至らなかった応募者は、送付される選考の意見を今後の糧にしていただきたい。

今回の採択で、本研究領域には総計34名の研究者が勢ぞろいしたことになります。リストを眺めるとメンバーは多士済々であり、これからの展開が楽しみです。狙いをシャープにして果敢に挑戦していただきたい。挑戦が見えない研究はさきがけではない!