JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「多様な疾病の新治療・予防法開発、食品安全性向上、環境改善等の産業利用に資する次世代構造生命科学による生命反応・相互作用分子機構の解明と予測をする技術の創出」
研究領域:「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」
研究総括:若槻 壮市(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 副所長・教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
久保 稔 兵庫県立大学 大学院生命理学研究科 准教授 新規赤外分光法とXFEL結晶構造解析の融合によるタンパク質の動的精密構造解析 通常型 3年 タンパク質の機能発現機構を解明するためには、機能部位の化学反応を原子・電子レベルで追跡する必要があります。本研究では、フェムト秒赤外レーザーを用いた新規の時間分解赤外分光法とXFEL(X線自由電子レーザー)を用いた時間分解X線結晶構造解析を組み合わせて、機能部位の構造および化学反応性を実時間で追跡できる基盤技術を開発します。この技術をチトクロム酸化酵素(酸素還元/プロトンポンプ反応)に応用し、この酵素の反応機構の全容を解明することにより、光合成系と並んで重要な呼吸系のエネルギー変換システムの解明と応用につなげます。
昆 隆英 大阪大学 蛋白質研究所 准教授 構造から迫る細胞内輸送マシナリー 通常型 3年 私たちの体を構成する細胞は、効率的な物質輸送システムを内包していて、その機能は生命活動に必須です。本研究では、多くの未解決問題が残されている細胞中心方向への輸送システムについて、その原子メカニズム解明を目指します。まず、心臓部である分子モーター『ダイニン』の力発生機構を原子レベルで決定します。さらに、輸送マシナリー全体の高次複合体構造を明らかにすることにより、輸送メカニズムの構造基盤とダイニン関連疾病の発症機構の解明を目指します。
塚崎 智也 東京大学 大学院理学系研究科 助教 Secタンパク質膜透過装置の次世代構造生物学 通常型 3年 合成されたばかりのタンパク質を輸送するSecタンパク質膜透過装置は生命必須のマシナリーであり、ダイナミックな相互作用変化や構造変化を伴うとされていますが、その分子メカニズムの詳細は不明です。本研究では、このタンパク質膜透過機構を解明すべく、新たな研究手法を取り入れた構造生物学的解析を行います。本研究成果は、生体膜を越えたタンパク質の輸送のみならず薬剤など様々な物質輸送の理解の基盤となります。
成田 哲博 名古屋大学 大学院理学研究科附属構造生物学研究センター 助教 アクチンフィラメント網動態の電子顕微鏡法による階層的理解 通常型 3年 アクチンフィラメントは、細胞を動かし、細胞の形を決め、細胞の分裂や接着を促すなど、さまざまな機能を持っています。電子顕微鏡法を用いて、アクチンフィラメントの形成開始機構、分解機構の解明、細胞内におけるアクチンフィラメントとその結合タンパク質の空間分布の決定を行い、原子座標レベルから細胞レベルに至る広い階層における、アクチンフィラメントのダイナミクスとその制御機構の解明を目指します。
服部 素之 オレゴン健康科学大学 ヴォーラム研究所 ポストドクトラルフェロー ATP作動性陽イオンチャネルP2X受容体の時空間ダイナミクスの解明と制御 通常型 3年 ATPは生体内のエネルギー通貨として広く用いられています。その一方で、細胞外シグナル分子としてのATPの重要性が近年明らかになりつつあります。ATP作動性陽イオンチャネルP2X受容体は細胞外ATPシグナル伝達における主要なATP受容体であり、創薬ターゲットとして注目を集めています。本研究では、P2X受容体を対象とし、構造・機能解析とそのための技術開発を行い、そのダイナミクスの理解と受容体を標的とした創薬の実現を目指します。
藤井 高志 (独)理化学研究所 生命システム研究センター 基礎科学特別研究員 革新的低温電顕単粒子像解析法による筋収縮制御機構の解明 通常型 3年 革新的低温電子顕微鏡法を駆使することにより筋肉の収縮制御を担う“細いフィラメント”の構造を高分解能で解明します。これにより、カルシウムイオンが細いフィラメントに結合することによりどのような構造変化が起きるかを原子レベルで可視化します。本研究成果により、遺伝性心筋症の原因が原子レベルで明らかになると考えられ、創薬などの開発戦略に役立つことが期待されます。
堀 雄一郎 大阪大学 大学院工学研究科 助教 立体構造に基づく化学プローブ設計とタンパク質の機能制御・局在イメージング 通常型 3年 細胞内のタンパク質は、外部刺激に応じてさまざまなシグナルを他の異なるタンパク質に伝えることが知られており、その伝達様式は、複雑なネットワークを形成しています。本研究では、タンパク質標識法と化学プローブを利用して、このネットワーク状のシグナル伝達様式を一つ一つに分解して解明する技術を開発します。また、タンパク質の細胞内における機能と動態を同時に蛍光可視化する方法を開発し、疾病時におけるシグナル伝達異常の把握と創薬ターゲットの探索に貢献します。
政池 知子 学習院大学 理学部 助教 顕微鏡による膜タンパク質1分子の3次元構造変化・機能マッピング 通常型 3年 膜に組み込まれたタンパク質複合体の「写真を動画に」することが本研究の目標です。膜タンパク質とその基質に目印の蛍光分子を結合し、タンパク質が働いている最中の蛍光分子の向きを光学顕微鏡を用いて1分子でかつ3次元でリアルタイムに観察します。まず、複数の状態の結晶構造が明らかにされているCa2+-ATPaseを研究対象として、ダイナミックに変わる各部位の構造変化と機能の関係を解明することにより、既存の構造機能解析では得られない中間状態の解明を通して1分子蛍光観察手法の優位性を示します。
真柳 浩太 九州大学 生体防御医学研究所 助教 DNA複製フォーク複合体の構築原理及び遷移・制御機構の解明 通常型 3年 遺伝情報の継承の根幹をなすDNAの複製には、多数のタンパク質因子が関わり、巨大な超分子複合体を形成して、綿密な制御を通じてその機能を発揮します。本研究では、このような複雑な系に対して、単粒子解析、電顕トモグラフィー技術、結晶解析、変異体解析、計算機によるモデリング技術等の、多角的なアプローチと要素技術の開発により、いまだ解明されていない複製フォーク複合体の構築様式や反応機構についての統合的知見の獲得を目指します。
村田 武士 千葉大学 大学院理学研究科 特任准教授 膜超分子モーターの相関構造解析による分子メカニズムの解明 大挑戦型 3年 V−ATPaseはATP依存のプロトンポンプとして機能する膜超分子モーターで、骨粗鬆症やがん等の疾病にも関与しています。本研究では、これまでに得たV−ATPaseの研究結果とノウハウを土台にして、X線結晶構造解析、計算機シミュレーション、単一分子回転計測、質量分析等の複数の手法をつなげる相関構造解析を行い、V−ATPaseの詳細な分子メカニズムを解明することにより、関連する疾病原因の理解と治療法開発に貢献します。
山田 和弘 スイス連邦工科大学チューリッヒ校 分子生物学・生物物理学研究所 オーバー・アシスタント クロマチン構築に連携した転写dynamicsの構造解明 通常型 3年 DNAにヒストンが結合したヌクレオソーム構造は、RNAポリメラーゼの転写に物理的障壁となり、この排除にクロマチンリモデル因子やヒストンシャペロン因子との協調が必要とされます。最新の研究で、PAF1c複合体がこれら因子とポリメラーゼを束ねるハブの役目を持つことが示されました。本研究では、このPAF1cの結晶解析を基に、ヌクレオソームを排除する巨大マシナリーの構造と機構の解明を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:若槻 壮市(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 副所長・教授)

本研究領域は、先端的ライフサイエンス領域と構造生物学との融合によりライフサイエンスの革新につながる「構造生命科学」と先端基盤技術の創出を目指します。すなわち最先端の構造解析手法をシームレスにつなげ、原子レベルから細胞・組織レベルまでの階層構造ダイナミクスの解明と予測をするための普遍的原理を導出し、それらを駆使しながら生命科学上重要な課題に取り組みます。

具体的には、様々な生命現象で重要な役割を果たしているタンパク質を分子認識のコアとして、1)タンパク質同士または核酸や脂質等の生体高分子との相互作用や、翻訳後修飾および生体内外の化合物による時間的空間的な高次構造の変化等を捉えることにより機能発現・制御機構を解明する研究、2)ケミカルバイオロジー等の手法による分子制御、分子設計に資する研究、3)結晶構造解析、電子顕微鏡、分子イメージング、計算科学、バイオインフォマティクス、各種相互作用解析法等、様々な位置分解能、時間分解能(ダイナミクス)、天然度(in situからin vivo)で構造機能解析を行う新規要素技術開発、4)これらの要素技術を組み合わせて重要な生命現象の階層構造ダイナミクスの解明を目指す相関構造解析法の創出、などの研究を対象とします。

こうした目標達成に向け、最先端の構造生物学的アプローチとの融合により生命科学上の挑戦的なテーマを独自の視点で取り組む研究、または、独自に開発した革新的構造機能解析手法で細胞分子生物学、医学、薬学分野の重要な課題解決に取り組む研究を奨励します。

平成24年度の第1回公募には幅広い分野から269件の応募があり、若手ながら世界第一線の研究を目指し、異分野連携も視野に入れたユニークなアイデア、意欲的な研究計画、また、生命科学研究の飛躍的な展開に貢献しうる新技術の開発なども数多く見受けられました。これらの研究提案について生命科学、構造生物学の広い分野にわたる13人の領域アドバイザー、6人の外部評価者による一件あたり3人による書面選考に加え、分光学、加速器関係の提案について9人の外部専門家からの意見を求めました。その結果に基づいて書類選考会で検討を行い、特に優れた研究提案33件を選び出し、これらの提案者に対して面接選考を行いました。その中には5人の女性研究者、2人の海外からの提案がありました。発表と質疑応答の内容に関する領域アドバイザーのコメントも参考にして、大挑戦型課題の1件を含めて、最終的に11件(女性研究者1名)を採択しました。

選考にあたっては応募者と利害関係にある評価者の関与を避け、他制度による助成とその対象課題にも留意し、公平な判断を期しました。書類・面接選考では、研究構想の意義、研究計画の妥当性、準備状況と提案課題の実現性を考慮し、また生命科学研究と構造生物学の有機的な連携による新展開という本さきがけ研究領域の趣旨に照らして、研究課題とその実施体制の独立性、将来のキャリアパスについての考え方、ならびに新課題への挑戦性を重視しました。

採択課題の研究対象は膜超分子モーターやポンプ、GPCRタンパク質複合体、タンパク質膜透過装置複合体、アクチンフィラメント網、細胞内輸送系などで、技術的にはX線結晶構造解析、電子顕微鏡構造解析、NMR、X線小角散乱、一分子計測、分子イメージング、分子動力学シミュレーション、ケミカルバイオロジーなどの最先端の研究手法を組み合わせて生命科学の重要課題に挑戦する研究が多く含まれています。

今年度採択できなかった提案にも、もう少し準備をすれば将来大きく発展しうる優れたものが数多くあり、11件という採択数に絞り込むという選考はたいへん困難でした。今回採択できなかった優れた提案については、なるべく改善点についてのフィードバックをし、次回、次々回の公募や他の機会を得て発展されるよう期待します。

次年度は、解析された立体構造情報に基づいたライフサイエンスの応用研究(多様な疾病の新治療法や診断法、食品添加物・ウイルス・細菌などの検査法や予防法、環境配慮型植物育成・バイオ燃料等の開発につながる研究)を重視したいと考えています。

さきがけは基本的に個人型研究ではありますが、本戦略目標の基本的な考え方である異分野連携、特に、ライフサイエンスと先端的構造生命科学の融合につながるような研究へと展開できるよう、領域の運営に当たっては、ライフサイエンスと先端的構造生物学の融合を目指し、本さきがけ研究領域内だけでなく、創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業、CREST「ライフサイエンスの革新を目指した構造生命科学と先端的基盤技術」研究領域、CREST「生命動態の理解と制御のための基盤技術の創出」研究領域、さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」研究領域等との連携を重視し、合同意見交換会等を通じて新しいアイデアや共同研究が生まれるような場を多く設けることにします。