JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第906号別紙2 > 研究領域:「生体における動的恒常性維持・変容機構の解明と制御」
別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「先制医療や個々人にとって最適な診断・治療法の実現に向けた生体における動的恒常性の維持・変容機構の統合的解明と複雑な生体反応を理解・制御するための技術の創出」
研究領域:「生体における動的恒常性維持・変容機構の解明と制御」
研究総括:春日 雅人((独)国立国際医療研究センター 総長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
梶村 真吾 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 糖尿病センター 准教授 褐色脂肪―骨格筋間の新たな臓器間ネットワークの解明 通常型 3年 肥満は、摂取と消費エネルギー調節に関わる恒常性の破綻に起因します。筋肉と褐色脂肪は最大のエネルギー消費器官ですが、最近の研究から、この間に密接な臓器間ネットワークが存在することが分かってきました。本研究では、褐色脂肪と骨格筋の間をつなぐ新たな液性因子を同定し、その生体内におけるエネルギー代謝・糖代謝の恒常性維持に関わる機能の解明を目指します。
片山 義雄 神戸大学 医学部附属病院 講師 骨を要とする多臓器恒常性維持機構の解明 通常型 3年 脳・神経による骨代謝制御を介した骨髄造血システムコントロールという多臓器間ネットワークの存在をこれまでに見出してきました。そして、このような機能的ネットワークが体中ほぼ全ての臓器に存在すると考えられています。しかし、本研究は、これまでの脳の制御機能とは違った角度から体中を俯瞰する末梢臓器「骨」の新たな制御機能の解明を目指します。その知見は臓器間ネットワークを利用し、既存の薬剤による本来の薬効と違った利用法による新たな治療や効果的に予防していく先制医療への応用が期待されます。
久万 亜紀子 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 助教 恒常性維持・変容を支える細胞内分解系オートファジーの生理的意義 通常型 3年 生体は合成と分解を繰り返し、盛んに代謝回転しています。その動的な営みにおいて、分解産物を材料に元と同じものを作れば恒常性が維持され、違うものを作れば変容が生まれます。すなわち、分解系は恒常性の維持・変容の駆動力であると捉えることができます。本研究では、細胞内の主要な分解系であるオートファジーに焦点を当て、オートファジーの生理的役割を理解することで、恒常性維持・変容機構の解明を目指します。
佐伯 久美子 (独)国立国際医療研究センター 研究所 室長 ヒト生体ホメオスタシス維持の安定化および撹乱に寄与する新規生理活性物質の同定 通常型 3年 ヒト生体恒常性維持機構は、適切な解析ツールがなく未解明な点が多く残されています。本研究では、罹患者増加が社会問題となっている虚血性疾患とメタボリックシンドロームを標的に、ヒトES/iPS細胞分化誘導技術を適用し創成した画期的な研究ツールである、ヒトES/iPS細胞由来の高機能性血管内皮細胞と高機能性褐色脂肪細胞を用いて、生体恒常性維持の安定化と撹乱に寄与する新規生理活性物質を同定し、副作用のない治療法の開発を目指します。
新藏 礼子 長浜バイオ大学 バイオサイエンス学部 教授 腸管IgA抗体による腸内細菌制御機構の解明と応用 通常型 3年 腸内細菌叢のバランスの崩れが、多くの病気の原因になることが最近分かってきました。腸内細菌叢をコントロールするにはリンパ球が作るIgA抗体がとても重要ですが、どのように腸内細菌に働きかけているか良く分かっていません。本研究では、IgA抗体が腸内細菌にどう働くかに着目し、より良い腸内環境を作るための有用なIgA抗体を明らかにします。そして、そのIgA抗体を口から飲むことでいろいろな病気の治療や予防への応用を目指します。
成 耆鉉 (独)理化学研究所 基幹研究所 基幹研究所研究員 胎児プログラミング仮説の分子機構の解明と医療への応用 通常型 3年 胎生期、幼児期の栄養状態が、成人になってからの生活習慣病発症に影響するという、胎児プログラミング仮説(DOHaD)は、実験的解析が困難であるため、科学的検証は進んでいません。本研究では、モデル動物ショウジョウバエを用いて、内外の環境ストレスによるエピゲノム変化とその遺伝を解析し、ストレスがどのように生活習慣病などの発症に影響するかを明らかにし、新たな予防・診断・治療法への展開を目指します。
丹羽 隆介 筑波大学 大学院生命環境科学研究科 准教授 個体の発育の恒常性を調節する器官間液性因子ネットワークの解明 通常型 3年 生物の発育過程が、個体の内外の環境に応じて柔軟に調節されるにあたり、個体を構成するさまざまな器官からのシグナルがいかにして発育の進行を協調的に支配するのか、その分子機構については不明な点が多く残されています。本研究は、分子遺伝学的技術の発達したモデル生物ショウジョウバエを用いて、発育段階調節のキープレーヤーであるステロイドホルモンの生合成が、個体のさまざまな器官からの液性因子シグナルによって調節される分子機構の解明を目指します。
三浦 恭子 慶應義塾大学 医学部 日本学術振興会特別研究員SPD 超長寿げっ歯類ハダカデバネズミを用いた「積極的老化予防」機構の解明 通常型 3年 ハダカデバネズミは平均28年という超長寿げっ歯類であり、今までに自然発生腫瘍が確認されたことが無いという特徴を持ちます。本研究では、このハダカデバネズミを新たなモデル動物として起用し、分子生物学的手法を駆使することにより、老化耐性機構に関与する遺伝子群の同定と機能解析を行います。最終的には、マウスやヒトにおいて老化耐性機構を再現することを目指します。
山口 良文 東京大学 大学院薬学系研究科 助教 冬眠を可能とする生体状態の可視化とその誘導メカニズムの解明 通常型 3年 冬眠は、寒冷かつ餌の枯渇といった極限環境を、代謝活動を劇的に減少させ低体温状態で乗り切る驚異的な現象です。しかし、冬眠できる哺乳類と、私たちヒトを含む多くの冬眠できない哺乳類との差は何なのか、ほとんど分かっていません。本研究では、冬眠制御に重要な脳中枢と末梢臓器との相互作用という観点から、冬眠可能な生体状態の実体を最新の解析技術を用いて明らかにし、その制御機構の解明を目指します。その知見は、虚血再灌流障害予防、神経変性疾患、糖尿病予防などさまざまな医学的応用が期待されます。
渡部 徹郎 東京大学 大学院医学系研究科 准教授 血管の動的恒常性の破綻による疾患進展機構の解明 通常型 3年 血管は全ての臓器に分布し、生体の恒常性を維持しますが、その異常はがん・心疾患などの生命に関わる疾患を引き起こします。血管内皮細胞は内皮間葉移行という過程を経て間葉系細胞へと分化し、がんや心疾患などの病態を進行させます。本研究では、内皮間葉移行を生体内でリアルタイムに観察するシステムを構築し、その分子機構の解明を目指します。得られた知見は内皮間葉移行が関連する疾患の治療法の開発に役立つことが期待されます。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:春日 雅人((独)国立国際医療研究センター 総長)

本研究領域は、生体を1つの恒常性維持機構として捉え、①多臓器間の機能ネットワークを体系的に捉える視点、②恒常性維持機構の時間的変化を捉える視点、③疾患の原因としての恒常性維持機構の破綻を捉える視点を持っている研究を推進します。

第1回目となる本年度の公募には、234件の応募がありました。研究の分野の内訳を見てみると、さまざまな分野から幅広い応募がありました。これらの研究提案について内分泌・代謝、炎症・免疫、細胞・組織・骨、遺伝子・ゲノム・DNA、脳・神経、循環器・血液、発生・再生、体内時計、モデル、イメージング、生活習慣病という仮分類を行い12名の領域アドバイザーに加えて、11名の外部査読者と、まず書面選考を行いました(応募234件の内訳は、内分泌・代謝:26件、炎症・免疫:28件、細胞・組織・骨:19件、遺伝子・ゲノム・DNA:31件、脳・神経:47件、循環器・血液:30件、発生・再生:10件、体内時計:4件、モデル:8件、イメージング:11件、生活習慣病:20件となっております。また、大挑戦型の希望者は52名でした)。

それに基づく書類選考会での検討を経て、特に優れた研究提案24件を選び、これらの提案者に対して面接選考を行いました。そして領域アドバイザーの意見も参考にして、最終的には10件を採択するに至りました。女性研究者による提案も4件採択いたしました。選考にあたっては応募者と利害関係にある評価者の関与を避け、他制度による助成とその対象課題にも留意し、公平な評価に努めました。

実際に選考にあたって感じた点は以下の2点です。

第1は「恒常性維持機構」を広く捉えた提案が多く、来年度からは上記の①、②、③により厳密な意味で合致する研究提案を優先して採択したいと思います。

第2は非常に発想が面白くユニークな研究提案であるが、提案の手がかりとなる予備的データがほとんどない提案、あるいは逆にデータはあるがそれに基づいてどのようなユニークな研究に発展させるのかという構想力に乏しい提案も多く、予備的データとそれに基づくユニークな構想力の両者が、提案の高い評価を得るためには必要であることを銘記して欲しいと思います。

来年度は是非ともこれらの条件に見合った多くの提案を期待いたします。