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別紙2

平成24年度 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出」
研究領域:「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」
研究総括:米澤 明憲((独)理化学研究所 計算科学研究機構 副機構長)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
遠藤 敏夫 東京工業大学 学術国際情報センター 准教授 ポストペタスケール時代のメモリ階層の深化に対応するソフトウェア技術 メモリの速度性能・容量の伸びが、メニーコア化するプロセッサの伸びに追いつかないというメモリウォール問題は、今後のスパコンアーキテクチャにおいて顕著となり、気象・医療・防災などの重要なシミュレーションをさらに大規模化・精緻化する上での障害となると考えられています。その解決のために、不揮発メモリも含めた異種のメモリを混在させたスパコンアーキテクチャを想定し、それを有効活用するコンパイラ・メモリ管理技術・シミュレーションアルゴリズムなどにまたがった新しいソフトウェア技術の研究開発を推進します。
近藤 正章 電気通信大学 大学院情報システム学研究科 准教授 ポストペタスケールシステムのための電力マネージメントフレームワークの開発 ポストペタスケール計算システムでは、消費電力がシステムの設計や性能を制約する最大の要因と考えられています。本研究では、使用可能電力に制約が存在する中で、アプリケーションの性能を最大化することを目的に、ハードウェアが持つ電力制御機構を適応的に制御するためのコード最適化技術やシステムソフトウェアを研究開発します。これにより、限られた電力資源を真に有効利用できる計算環境の実現を目指します。
野田 五十樹 (独)産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 研究チーム長 超大並列計算機による社会現象シミュレーションの管理・実行フレームワーク 社会・経済・政治のようなシステムなどを対象とするマルチエージェントシミュレーションを、大規模かつ網羅的に実行・制御するフレームワークを構築します。本研究では、膨大な数の実験設定から目的に応じて実験計画を立て、結果を管理する機能を提供するモジュールと、マルチコア上でのマルチエージェントの分散実行を実現するMASS分散実行ミドルウェアからなるフレームワークを構築し、交通や経済・災害対応など各種社会システムの設計支援のための汎用的開発・実験管理環境の実現を目指します。
朴 泰祐 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 教授 ポストペタスケール時代に向けた演算加速機構・通信機構統合環境の研究開発 本研究では、ポストペタスケール時代のHPCプラットフォームとして、演算加速装置を持つ計算ノードを超並列結合したシステムで、ノードをまたぐ演算加速装置間の直接通信を実現するネットワークシステム、およびその上での通信システムソフトウェア、並列言語、実アプリケーションの開発を行います。高性能な演算加速装置を通信ボトルネックを避けつつ結合し、幅広い超並列アプリケーションの加速を実現し、エクサスケールにつながる超並列演算加速装置プラットフォームに対応するソフトウェア基盤構築を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:米澤 明憲((独)理化学研究所 計算科学研究機構 副機構長)

本年度の公募は、本研究領域における最終回(3回目)にあたります。応募件数は20件あり、いずれの提案も本研究領域が想定する研究課題の範囲内にあるもので、どれも質の高いものでした。また、採択課題の研究代表者の年齢も30代~50代の範囲に広がり、本研究領域・分野の将来を担う若手リーダが比較的順調に育成されていることが見てとれました。

採択課題の選考プロセスは例年同様に領域アドバイザーの協力のもと、書類、プレゼンテーションとそれに対する質疑応答による面接選考を行いました。今回は、書類選考によって、全応募20件中から提案として十分な内容と判断したもの、あるいは提案書の記述で重要ながら細部があまり明確になっていないものなどを中心に、8件を選び、面接対象課題としました。これらはいずれも内容的に水準の高いものであり、面接選考は難しい判断を迫られましたが、最終的に4件を採択しました。

採択した課題は、1)社会システム等を含む大規模な離散事象のシミュレーションを容易に実施することを可能にするプラットフォームの研究開発、2)ポストペタスケールの計算システムの実現・可用における基本技術課題である消費電力の抑制に資する研究開発、3)同じく、重要な技術課題である「メモリーの壁」問題を、コンパイラーによって乗り越えようとする研究開発、4)汎用的なアーキテクチャに演算加速装置を付加することを想定し、演算加速装置の間の直接通信を実現するネットワークシステム等についての研究開発、の4件です。いずれも重要な課題であると同時に、結果として、研究代表者は多様な機関に属しており、この点においても満足できる選考ができたと思っています。

なお、それぞれの採択課題に対して、次のような要件を課しています。すなわち、最終年度終了時に、学術的な成果はもとより、どのような機能を持つソフトウェアシステムが構築されるかを明らかにし、かつそれが広く使われるようなものにすること。また、各年度(少なくとも2年度以降)にどのような機能を有するソフトウェアシステムが構築されるかを明確にし、それを達成すること。さらに、3年度終了時には最終年度の目標のマイルストーンとなる公開可能なシステムを構築することです。このような、次々世代以降のスーパーコンピューターに活用され得るシステムソフトウェア基盤技術の創出により、新しい大規模シミュレーション・予測手法等が生まれ、環境分野からライフサイエンス分野に至る広範な分野で、科学・技術の新たな展開がもたらされることを期待しています。