自然免疫系は、細菌やウイルスなどの病原体の侵入を感知しそれを排除する生体防御システムである。自然免疫系がひとたび病原体の存在を探知すると炎症性サイトカインを産生し、生体内で炎症を引き起こす。それと同時に、T細胞やB細胞といったリンパ球の活性化を誘導し、侵入してきた微生物に対する感染防御機構を成立させる。この自然免疫系における病原体の認識に関与している細胞膜受容体としてTLRファミリーが知られている。また、TLRファミリーの細胞内領域と相同な細胞内領域を有するIL-1Rファミリーは、TLRファミリーの活性化と同様に転写因子NF-κBやAP-1などを活性化し、TNF-α, IL-6やIL-12 p40といった炎症性サイトカインなど多数のタンパク質の発現を誘導することが知られている。
今回、TLR/IL-1Rシグナルの活性化により誘導されるタンパク質の一つであるIκB- を欠損するマウスを作製したところ、TLR/IL-1Rリガンド(受容体に結合する成分)の刺激による、IL-6, IL-12 p40といったある種の遺伝子の発現がほとんど認められなくなった。しかし、IκB- 欠損細胞においてもNF-κBやAP-1などの転写因子の活性化は認められること、また、IκB- 自身が核内タンパク質であることから、核内において転写レベルでのIκB- のそれらの遺伝子への関与することが示唆された。そのメカニズムとして、NF-κBの構成タンパク質であるp50との相互作用が示唆され、TLR/IL-1Rシグナル伝達経路においてp50がIκB- と反応することにより遺伝子が発現することを明らかにした(図参照)。
本成果は、TLR/IL-1Rシグナル伝達経路における遺伝子発現は、従来考えられてきた転写因子NF-κBやAP-1の活性化という一段階しかないという考えではなく、IκB- の事前の発現誘導という更なる一段階が必要不可欠であるという、「TLR/IL-1Rシグナル応答における2段階(多段階)発現制御」という新たな概念を導いた。また、IκB- 欠損マウスはアトピー性皮膚炎様症状を呈することから、今後その局所における病理学的な解析と遺伝子発現制御の詳細な解析とが融合することにより、これまで原因不明であった難治性疾患に対する新たな治療戦略の構築が期待される。 |
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【論文タイトル】 |
Regulation of Toll/IL-1-receptor-mediated gene expression by the inducible nuclear protein IκB-ζ
(誘導性核タンパク質IκB-ζによるToll/IL-1受容体を介する遺伝子発現制御)
doi :10.1038/nature02738 |
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【研究領域】 |
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究「審良自然免疫プロジェクト」
(研究期間:平成14年~平成19年) |
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【本件問い合わせ先】 |
| 審良 静男(あきら しずお)
独立行政法人 科学技術振興機構
審良自然免疫プロジェクト 研究総括
大阪大学微生物病研究所教授
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-1
Tel: 06-6879-8303
Fax: 06-6879-8305
古賀 明嗣(こが あきつぐ)
独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造事業本部
特別プロジェクト推進室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
Tel:048-226-5623
Fax:048-226-5703
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