科学技術振興機構報 第86号
平成16年6月30日
埼玉県川口市本町4−1−8
独立行政法人 科学技術振興機構
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マルファン症候群2型の原因遺伝子を発見

 独立行政法人科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)の研究チームは、マルファン症候群2型の原因となる遺伝子がTGFBR2であることを突き止めた。
 マルファン症候群とは体を支持する骨組みとなる組織(結合織)の異常、主として骨格系、心血管系、ならびに眼の症状を特徴とする優性遺伝病で、特に心疾患は成人患者における突然死の原因となる。アメリカ合衆国第16代大統領リンカーンが罹患していたとも言われる。マルファン症候群2型の原因遺伝子は染色体3番に存在することが知られていたが、同チームはこの遺伝子を明らかにした。
 本成果は、戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CRESTタイプ)「染色体転座・微細欠失からの疾患遺伝子の単離と解析」の研究代表者・新川詔夫(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科教授)チームのメンバーである長崎大学大学院医歯薬学総合研究科大学院生の水口剛、横浜市立大学大学院医学研究科教授の松本直通らによるもので、米国科学雑誌「ネイチャー・ジェネティックス」オンライン版に7月4日(米国東部時間)公開される。
 マルファン症候群(MFS)は、高身長、長い手足・指、漏斗胸(胸骨が後方に変位し胸の下方がくぼんでいる)、脊椎側彎(背骨が曲がっている)などの骨格異常、上行大動脈(心臓から直接分岐した大動脈の部分)の拡張や大動脈瘤破裂(大動脈にこぶが形成され、それが脆弱となり破裂)などの重篤な心症状、水晶体亜脱臼(眼のレンズの位置異常)などの眼症状を主徴とする常染色体優性遺伝病(性差に関係なく各世代に優性に伝わる病気)である。典型例は出生約5000-10000例に1例の割合で生じると考えられているが、症状に多様性があり軽症例や非典型例も加えると頻度はさらに高いと予想される。アメリカ合衆国第16代大統領アブラハム・リンカーンが罹患していたといわれる。1991年にその原因となる遺伝子であるFBN1が発見された。この遺伝子は染色体15q21に局在する。一方、別の染色体(3p25-p24.2)に原因となる遺伝子が存在し、FBN1異常とは異なるマルファン症候群の存在も知られ、マルファン症候群2型あるいはマルファン症候群様結合織病と呼ばれていた。しかしこの原因となる遺伝子は特定されていなかった。
 研究グループは染色体3p24.1に染色体切断点(染色体構造異常で切断されている部分)を持つ複雑な染色体異常とマルファン症候群を合併する症例を経験した。3p24.1染色体切断点においてマルファン症候群2型の原因遺伝子が断裂し、それが発症の原因となっていると想定し、ゲノム解析手法を用いて切断点を詳細に解析した(図1)。その結果TGFBR2遺伝子が破壊されていることを確認した。さらに3p25−p24.2領域に原因遺伝子のあるフランス人大家系およびFBN1遺伝子に異常のないフランス人および日本人症例を解析した。その結果、4種類の点変異(塩基の変化)を5症例で同定し、TGFBR2変異がマルファン症候群2型の原因遺伝子であると結論づけた(図2)

 TGFBR2遺伝子の体細胞変異(体の一部の細胞に変異が起こる)は大腸癌などの複数の腫瘍に見られるが、生殖細胞系列変異(体の全ての細胞に変異が起こる)では、体を支持し骨組みとなる組織の疾患(結合織疾患)であるマルファン症候群が引き起こされ、TGFBR2の変異が2つの完全に異なる病態と関連することが明らかとなった。さらに生体で重要なシグナル伝達系の一つであるTGF-betaシグナル伝達系の異常と結合織異常との関連がこれまでマウスなどで示唆されていたが、ヒトの結合織疾患でTGFレセプター遺伝子の変異が直接示されたことで、ヒトにおいても結合織形成におけるTGF-betaシグナル伝達系の重要性を結論付けることとなった。
 
<論文名>
Heterozygous TGFBR2 mutations in Marfan syndrome.
(マルファン症候群で同定されたヘテロ接合性TGFBR2変異)
doi :10.1038/ng1392
 
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域: ゲノムの構造と機能
(研究総括:大石 道夫 (財)かずさDNA研究所 所長 )
研究期間: 平成12年度〜平成17年度
 
図1 3p24.1染色体切断点のゲノム解析
図2 マルファン症候群で同定されたTGFBR2異常
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<本件問い合わせ先>
松本 直通(まつもと なおみち)
横浜市立大学大学院医学研究科・環境分子医科学
〒236-0004 横浜市金沢区福浦3-9
Tel: 045-787-2606
Fax: 045-786-5219

新川 詔夫(にいかわ のりお)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・原爆後障害医療研究施設・人類遺伝学
〒852-8523 長崎市坂本1−12−4
Tel: 095-849-7120
Fax: 095-849-7121

島田 昌(しまだ まさし)
独立行政法人科学技術振興機構
戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
Tel: 048-226-5635
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