JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第847号別紙2 > 研究領域:「細胞機能の構成的な理解と制御」
別紙2

平成23年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
石松 愛 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 特別
研究員
人工遺伝子回路を利用して発生現象に迫る 通常型 3年  生物の形作りでは、多くの細胞が協調することで、全体として意味のある形が作られます。その仕組みに迫るには、細胞間の相互作用ダイナミクスの解明が必須です。本研究では、遺伝子の発現ダイナミクスをプログラムできる「人工遺伝子回路」を利用し、時計細胞集団での相互作用ダイナミクスを明らかにします。特に、サイズが大きく変化する発生過程で、なぜ安定なパターン形成が可能かという問いに焦点をあてた研究を行います。
猪股 秀彦 (独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 研究員 動物胚の頑強な相似性を保証する発生場スケーリングのシステム制御機序 通常型 3年  発生過程では、限られた空間の中に複雑な構造が時間とともに構築されていきます。このとき、胚全体のサイズに応じて各々の局所パターン形成は拡大・縮小され、相似性を維持する機構(スケーリング)が存在する必要があります。本研究では、パターン形成に重要なパラメーターをin vivoで計測し、定量データをもとにスケーリングが保証されるモデルの構築、さらに局所と全体の多重パターン形成の機序の解明を目指します。
遠藤 求 京都大学 大学院生命科学研究科 助教 構成的アプローチによる植物の生物時計の組織特異的な役割の解明 通常型 3年  植物の生物時計は環境変化に対応するためのメカニズムであり、多くの遺伝子の発現制御に関わっています。植物の生物時計にも動物で見られるような時計機能の組織特異性が存在すると予想されますが、技術的な問題点からこれまであまり検証されてきませんでした。本研究では、個体レベルの構成的アプローチにより時計遺伝子の発現リズムを組織特異的に測定する系を開発することで、植物個体における生物時計の組織特異的な役割の解明を目指します。
加納 ふみ 東京大学 大学院総合文化研究科 助教 細胞内環境操作法による疾患モデル細胞の創成 通常型 3年  セミインタクト細胞リシール法は、細胞質の交換を可能にする技術です。本研究では、病態組織から調製した病態細胞質を正常細胞の細胞質と交換することにより、病態環境を再現した「疾患モデル細胞」を創ります。それにより、疾患時に細胞内で生起する分子ネットワークの異常・攪乱をモニターし、病態に至る分子メカニズムの解明を目指します。さらに、病態改善因子(化合物など)を探索するシステムを構築します。
茅 元司 東京大学 大学院理学系研究科 助教 分子複合体と動物個体での機能を結ぶ1分子可視化計測 通常型 3年  たんぱく質1分子の機能が、多分子複合体から細胞、さらに組織、個体へと上位階層へ移っていく過程において、どの様に各階層の機能に関わっていくかを明らかするために、本研究では骨格筋ミオシンに着目します。ミオシン分子複合体を再構成したin vitro実験系からマウス筋肉内において、固有のミオシン1分子の挙動を高精度で捉えるイメージング技術を開発し、階層構造を上がっていく中でのたんぱく質1分子の機能発現を明らかにします。
後藤 佑樹 東京大学 大学院理学系研究科 助教 無細胞合成生物学による人工二次代謝産物の発見と生産 通常型 3年  細菌内に存在する二次代謝産物の生合成酵素は、さまざまな特殊な骨格を持つ化合物の産生に関わっています。本研究では、これら酵素と翻訳反応とを試験管内で再構成し、in vitro人工生合成システムを創成します。この系を活用することで、非天然型の基質を用いた無細胞生合成を可能にし、実際に新規生理活性を有する『人工二次代謝産物』の発見を目指します。さらに人工二次代謝産物を産生する人工細胞の創成にも取り組みます。
澤井 哲 東京大学 大学院総合文化研究科 准教授 細胞形状と運動の自己組織的挙動の理解と操作 通常型 5年  アメーバ状細胞の形状変化と移動は、外部刺激への応答と、運動ダイナミクスとが柔軟なテンポとタイミングで調和して進行します。本研究では、この知覚系と駆動系の双方の自己組織化に注目し、モデルシミュレーションからの予測と実験結果とを相互に照らし合わせ、非平衡・非線形系に固有の動力学を捉えます。そして、これらの相互的なクロストークから発現する細胞固有の制御特性の巧みさを理解し、操作することを目指します。
末次 正幸 九州大学 大学院薬学研究院 助教 染色体複製系の周期的駆動にむけた回路の再構成 通常型 3年  本研究では、染色体複製を周期的に繰り返すような回路の構築に挑戦します。原始的な生命体である大腸菌では、フィードバックループを含む既知の複製開始制御の分子ネットワークにより、染色体複製の周期性を説明できます。そこで、このネットワークの再構成により試験管内で周期的複製を再現することをゴールとし、あわせて数理的アプローチおよび枯草菌を用いた合成生物学的アプローチにより、再構成のための理論の検証を進めます。
瀧ノ上 正浩 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 講師 非平衡人工細胞モデルの時空間ダイナミクス定量解析 通常型 3年  本研究では、非平衡な条件下にある人工細胞の時空間ダイナミクスを定量的に解析するための基盤技術を構築し、構成的アプローチによって、非平衡な条件下で時間発展し続ける分子集合体としての生命システムの解明を目指します。マイクロ流体工学によりマイクロサイズの空間・液体・界面を制御して非平衡人工細胞を創り、生物物理学的手法により人工細胞内外の生体高分子反応の時空間ダイナミクスの定量解析を実現します。
田端 和仁 東京大学 大学院工学系研究科 助教 バクテリア再構成法の開発 大挑戦型 3年  たんぱく質やDNAを集め、混ぜ合わせても細胞を再構成することはできません。それは、細胞にあった膜とたんぱく濃度という状態が失われているためと考えます。そこで本研究では、マイクロデバイスを用い、これらの状態を失うことなくバクテリアを再構成する方法を開発します。本研究では、このような研究を通して、個々の細胞機能が統合され、生物というさらに複雑なシステムが作り出される原理に迫ります。
船山 典子 京都大学 大学院理学研究科 准教授 カイメンが工学的に優れた骨格構造を自律的に構築するメカニズムの解明 通常型 5年  カイメンは骨片というパーツを秩序立って組み上げ、カイロウドウケツなどにみる骨片骨格を形成します。この建築工学的に優れた構造は、従来の発生理論では説明出来ず、未知の仕組みで構築されると考えられています。本研究は、作業を実行する細胞種を同定した先行研究の上に、複数種の細胞が外界の環境情報を読み取りつつ、細胞同士の相互作用により秩序だった骨片骨格を構築する仕組みを解明、その新規方法論の利用の可能性も探ります。
前多 裕介 ロックフェラー大学 物理学・生物学研究センター ポストドクトラルフェロー 分子輸送から解く生命の起源:構造、 情報、輸送の動的結合の解明と新たな分子操作技術の確立 大挑戦型 3年  物質と生命の境界はどこにあるのでしょうか。本研究ではRNAなどの高分子を濃縮・分離させる非平衡輸送現象を解明し、新たな生命物理学の体系を創出することでこの問いに答えます。さらに、輸送現象のマテリアルに依存しない捕捉力を利用することで、自由自在に分子を操作し細胞機能や組織を組み立てる革新的な技術の確立を目指します。
持田 悟 熊本大学 大学院先導機構 特任助教 細胞分裂周期のinv itro再構成への挑戦 通常型 5年  生命としての条件である自己複製能の中でも最も根源的な素子であるDNAの複製は、試験管内での再構成がすでに成功しています。本研究では次なる段階、「細胞分裂」の再構成を目指します。細胞分裂を駆動するたんぱく質リン酸化に必要な脱リン酸化酵素の特定、およびその制御機構の解明をまず進め、次いでこれにリン酸化酵素を加えて細胞分裂のサイクルを試験管内で再構成する事が本研究の目標です。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:上田 泰己((独)理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター システムバイオロジー研究プロジェクト プロジェクトリーダー)

本研究領域は、細胞機能の設計や制御を試みることを通じて生命の本質に迫ろうとする研究を対象とし、生命システムの理解や広範な応用をもたらすコンセプトや基盤技術の創出を目指します。

初回となる本年度の公募では、予想を遙かに超える354件(3年型が279件、5年型が75件、大挑戦型の提案は49件)もの応募がありました。過去数年の生命科学を対象にしたさきがけの中ではトップクラスの記録です。これらの応募に対し、10名の領域アドバイザーに加え、14名の外部評価者のご協力を得て書類選考を行い、30件の面接対象を選考しました。2日間にわたる面接選考の結果、領域アドバイザーのご意見も参考にし、最終的に13件を採択しました。選考では、全過程を通して利害関係にある評価者の関与を避け、厳正な評価を行いました。

今回の選考で特に重視した点を以下に示します。

採択課題は、構成的アプローチを応用した興味深い生命現象の理解を目指した課題、細胞機能の操作の実現に向けた技術や方法の開発を目指した課題、また合成生物学や制御生物学の基盤となるような技術や方法の開発を目指した課題など、多様な提案を採択しました。これらの採択課題が対象とする生命現象や細胞機能に加え、採択研究者自身のバックグラウンドや専門性も多様であり、多面的な思考やアイデアを生み出せるヘテロな領域になるのではないかと、今から楽しみにしています。

今回、記録的な応募数ということもあり、採択できなかった提案の中にも優れたものが数多くありました。是非とも来年度の応募に再チャレンジしていただきたいと思います。最後に、次回の公募にあたっていくつか以下のコメントをしたいと思います。