JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第847号別紙2 > 研究領域:「エネルギー高効率利用と相界面」
別紙2

平成23年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
池田 勝佳 北海道大学 大学院理学研究院 准教授 構造規制相界面における重たいフォトンの利用 通常型 5年  光エネルギーの有効利用には、光を効率的に捕まえる技術と電気や化学エネルギーに無駄なく変換する技術の確立が不可欠です。本研究では、光エネルギーを重たいフォトンとして電極表面に集め、機能性分子の3次元集積によって構築した光機能性界面に作用させることで、人工光合成に資する光エネルギー変換過程の飛躍的な効率向上を目指します。電極界面の原子レベル制御によって、このような概念が初めて実現可能になります。
伊藤 衡平 九州大学 大学院工学研究院 教授 高圧水電解三相界面における限界物質輸送の実験的探究 通常型 5年  高圧水電解は常圧の水から高圧の水素ガスを直接、かつ効率よく製造できると期待されています。しかし高圧下であるがゆえに生じるガス透過、すなわちカソード極で生成された水素ガスがアノード極に透過して損失となる問題を解決する必要があります。本研究ではシステム的側面から組み込み可能な対流、ぬれ性、浮力の3つの効果により、水電解三相界面からの水素ガスの離脱性を限界まで高め、高圧水電界の限界性能の実現を目指します。
喜多 浩之 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 SiC-MOSFETの抵抗損失低減のための界面制御技術 通常型 3年  パワーデバイス用のSiC-MOSFETはオン抵抗の低減が求められています。本研究ではヘテロ固相界面の精緻な制御に基づいた新しいプロセスを適用し、デバイス特性の向上を実証します。SiCと絶縁膜の界面では、SiC酸化に伴う欠陥形成を抑制しながら良質な絶縁膜を形成することでキャリア移動度の向上を図り、またSiCと金属の界面に対しては、界面障壁を制御することでコンタクト抵抗を低減する技術を構築します。
塩見 淳一郎 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 ナノ構造界面を利用した環境親和型熱電半導体の創成 通常型 3年  熱を電気に直接変換する熱電変換は排熱再利用技術として期待される一方、素子の変換効率の低いことが課題となっています。そこで本研究では、ナノ結晶構造がランダムに分布した「ナノ構造化バルク熱電材料」の豊富な界面を利用してフォノンや電子の輸送を制御し、熱電変換効率の向上を目指します。そのために原子レベルの物理から素子性能までを統一的に取り扱う解析ツールを構築し、原理原則に基づいた材料設計を行います。
柴田 直哉 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 原子分解能電磁場計測電子顕微鏡法の開発と材料相界面研究への応用 通常型 3年  材料の相界面を制御し、先進エネルギー・環境材料開発に応用していくためには、その原子構造や局所電磁場分布を原子レベルで解明し、相界面機能発現の本質を理解することが不可欠です。本研究では、サブÅ分解能を有する走査透過型電子顕微鏡をベースに、電子線と原子レベルの電磁場との相互作用を高度に計測する世界初の電子顕微鏡法を開発し、エネルギー・環境材料、デバイス界面研究に積極的に応用することを目指します。
関口 康爾 慶應義塾大学 理工学部 専任講師 超低電力マグノンデバイスの基盤技術創出 大挑戦型 5年  光・熱・電磁信号からスピン信号への高効率エネルギー変換機能および新規スピン機能界面を創出します。固体素子中のスピン信号は強磁性/非磁性界面におけるキャリア変換に支配されます。本研究では、これまで注目されていなかった、界面を超高速で伝搬する表面マグノンに着目し、全く新しい概念である超高速・超低電力マグノンデバイスの基盤技術を創出します。
館山 佳尚 (独)物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 グループリーダー 第一原理統計力学による太陽電池・光触媒界面の動作環境下電荷移動・励起過程の解明 通常型 3年  高精度電子状態計算と統計サンプリング手法をさまざまな形で組み合わせた「第一原理統計力学」計算技術を構築・利用することにより、色素増感太陽電池系・光触媒系(主にTiO電極)の動作環境(室温・常圧)下熱平衡状態における固液界面の電荷移動(酸化還元)・光励起過程の微視的メカニズムを明らかにし、エネルギー変換効率の向上に向けた理論的設計と固液界面の原子・電子スケールの観点からの学理構築に取り組みます。
宮崎 晃平 京都大学 大学院工学研究科 助教 金属-空気二次電池可逆空気極における三相界面 通常型 3年  高容量で安全性の高い次世代蓄電池である金属-空気二次電池の空気極(可逆空気極)における相界面現象に着目し、高効率・長寿命な可逆空気極を構築するための三相界面設計指針を創出することを目指します。触媒層内でのガス、イオン、電子のエネルギーキャリア分布を解明し、新規な三相界面形成物質の探索を通じて可逆空気極の高効率化を図り、エネルギー・環境問題に対処するための世界の最先端エネルギー技術を構築します。
八代 圭司 東北大学 多元物質科学研究所 講師 高効率エネルギー変換に向けた革新的イオン機能界面設計 通常型 3年  環境・エネルギー材料として期待されるイオン導電性酸化物のさらなる高性能化を図ることで、燃料電池や水素分離膜などの高効率化、大幅なコストダウンが期待できます。本研究では、従来の置換固溶を基礎とした高性能化手法に代わり、高機能ヘテロ界面の設計などイオン伝導性を飛躍的に向上させる界面エンジニアリングによる革新的な材料設計の基盤技術を確立することを目指します。
保田 諭 北海道大学 大学院理学研究院 講師 自己組織化集合能による高触媒活性サイトのプログラマブル合成 通常型 3年  高効率な酸素還元活性サイトを持つ非貴金属燃料電池カソード触媒の合成技術を確立します。原料分子の持つ自己組織化集合能を利用し、酸素還元活性サイトの原子位置、電子状態、分布を自在にデザインし、制御導入が可能な合成手法を開発します。酸素還元活性サイトをナノレベルで厳密に最適化することで高効率な酸素還元界面を持つ新規なカソード触媒を創製することを目指します。
安田 琢麿 九州大学 大学院工学研究院 准教授 液晶半導体のメゾスコピック超構造を活用した有機電子デバイスの開発 通常型 3年  ソフトマターとしての特性を有する液晶半導体は、従来の二極化した結晶およびアモルファス有機半導体とは異なる、自己修復能やフレキシビリティーを兼ね備えた新しい電子機能材料です。本研究では、液晶半導体分子が形成するナノからマイクロメートルに至る階層間での分子集積・配向構造を解明し、これらの超構造や相界面を能動的に制御・活用した高機能ソフトマターエレクトロニクスデバイスの創出を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:橋本 和仁(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
副研究総括:笠木 伸英(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

本研究領域は、豊かな持続性社会の実現に向けて、エネルギー利用の飛躍的な高効率化を実現するため、エネルギー変換・輸送に関わる相界面現象の解明や高機能相界面の創成などの基盤的科学技術の創出を目的としています。今年度は255件の応募があり、11名の領域アドバイザー、15名の外部評価者の協力を得て書類選考を進め、29件の面接選考を経て、最終的に11件の研究提案を採択しました。

本領域の目標を着実に達成するため、特に以下を重要視しました。

今回の研究提案を見ると、研究内容自体は物理、化学、材料学、工学の基礎研究として優れたものが多数ありましたが、残念ながら、エネルギーの高効率利用への量的貢献を考慮した挑戦的な提案、相界面に関わる根源的な基礎課題を抽出して飛躍的な効率向上を展望する提案、そして分析、解析だけでなく新たな相界面を創成することを目標に掲げた提案は多くはありませんでした。

一方、ある特定のデバイスの効率向上に向けた研究提案においても、これまでの研究を十分に理解した上で、本質的な課題抽出をしているとは判断できないものが少なからずありました。

こうした観点から、惜しくも選考に漏れた提案が多くありました。来年度の募集では、本研究領域の意義と目的を念頭に十分練られた計画を含む、妥当性と説得力のある研究提案を期待します。