JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第847号別紙2 > 研究領域:「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」
別紙2

平成23年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
鹿内 利治 京都大学 大学院理学研究科 教授 構造と進化の理解に基づく光合成の環境適応能力の強化  近年、日本の研究者は、世界の光合成研究の飛躍的な進展に大きく貢献してきました。その1つは、光合成反応を原子のレベルで理解することで、もう1つは、陸上の過酷な光環境に適応するための光合成調節メカニズムの解明です。本研究では、これらの成果に基づき、光合成装置の革新的な改変と植物の環境適応戦略のシナリオの書き換えを行います。高い光合成活性を維持しながら過酷な栽培環境に適応できる、「強くてしなやかな光合成装置を備えた植物」のデザインを行います。
田中 歩 北海道大学 低温科学研究所 教授 葉緑体機能改変によるステイグリーン植物の創出  ステイグリーンは、葉の緑色が長く維持される現象で、その機構解明と制御により光合成能力向上への貢献が期待できます。光合成や葉緑体機能に関する研究の発展により、新しい手法によるステイグリーンの誘導の可能性が生まれてきました。本研究では、光合成の改変や葉緑体の品質管理・機能強化、およびステイグリーン関連遺伝子の単離を通じて、光合成能力を長く維持する植物の作製を目指すとともに、葉緑体の形成・機能維持・分解の基本的過程の解明を目的とします。
彦坂 幸毅 東北大学 大学院生命科学研究科 教授 将来の地球環境において最適な光合成・物質生産システムを持った強化植物の創出  大気中の二酸化炭素濃度の増加や温暖化など、地球環境は急速かつ大きく変化しています。本研究は、将来の地球環境において最適な光合成・物質生産システムを持つ植物の創出を目的とします。野生植物の持つ環境適応能力を利用するアプローチと、誘発突然変異体を高効率でスクリーニングするアプローチにより、将来の地球環境での生産向上に関連する遺伝子を探索します。さらに、遺伝子組換えの手法に頼らず、自然変異・突然変異の掛け合わせから高効率系統の選抜を行う手法を開発・確立します。
渡邊 隆司 京都大学 生存圏研究所 教授 電磁波応答性触媒反応を介した植物からのリグニン系機能性ポリマーの創成  本研究では、植物細胞壁を固めるリグニンへの親和性と電磁波吸収能を付与した新規触媒を合成するとともに、周波数を連続的に変化させることができる電磁波化学反応装置を開発し、電磁波の特性を活かした高効率リグニン分離・分解反応系を構築します。また、リグニンを含む植物の包括精密構造解析と電磁波反応を組み合わせて、リニア型リグニンの分離法やモノマーへの分解法、精製法を開発し、強度、耐溶媒性、分散性、耐衝撃性、紫外線吸収特性などに優れる芳香族ポリマーに変換します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:磯貝 彰(奈良先端科学技術大学院大学 学長)

本研究領域は、植物の光合成能力の増強を図るとともに、光合成産物としての各種のバイオマスを活用することによって、二酸化炭素を資源として利活用するための基盤技術を創出することを目的に、本年度より募集を開始いたしました。具体的には、(1)光合成制御機構の統合的理解と光合成能力向上についての研究、(2)環境適応機構の解明に基づく光合成能力向上や炭素貯留能向上および有用バイオマス産生についての研究、(3)バイオマス生合成・分解機構の理解とその活用技術の研究を対象としています。

本年度は研究提案募集に対して53件の応募があり、11名の領域アドバイザーのご協力を得て選考を行いました。書類選考は、まず各研究提案について3名ずつの領域アドバイザーが査読を行い、その結果さらに精査すべきと考えられた研究提案については、利害関係者を除く領域アドバイザー全員による査読を行いました。これらの書面評価に基づいて討議を行い、面接対象課題を選定しました。続いて、領域アドバイザーご出席のもと13件の研究提案について面接選考を行い、最終的に4件の優れた研究提案を採択しました。

選考にあたっては、次の3点を重視しました。(1)二酸化炭素の資源化という課題の解決に向けて達成しようとする目標が明確に設定されていること、(2)植物の光合成能力や物質生産力を活用する優れた研究提案となっていること、(3)研究代表者のリーダーシップのもとチーム全体で達成しようとする目標が明確であること。基礎科学としては優れた研究提案であっても、二酸化炭素の資源化に向けて必要と考えられるブレークスルーやそのブレークスルーをどのように達成しようとするかという点が明確でない研究提案や、研究代表者がリーダーシップを発揮しチーム一丸となって取り組む体制や効果が明確でない研究提案は、不採択とさせていただきました。なお、不採択とさせていただいた研究提案にも、潜在的に優れているものが多数ありましたので、これらの点に留意されて再度提案されることを期待します。

本年度の選考では、光合成の環境適応機構の改変、葉緑体の機能維持と強化、高二酸化炭素濃度・高温の環境において最適な物質生産システムを持つ植物の作出、および植物が生産する物質から機能性ポリマーを合成する技術の開発、というそれぞれに異なったアプローチで二酸化炭素の資源化に取り組む研究提案を採択することができました。いずれもそれぞれの分野で実績を持つ研究者が基盤的研究として重要な課題に取り組みながら二酸化炭素の資源化にも貢献しようとするもので、今後の成果が大いに期待されます。

来年度以降も引き続き、理学・農学・工学の研究者が「植物の物質生産力を活用して二酸化炭素を資源化する」という目標のもとで協働・連携したチームによる研究提案がなされることを期待します。CRESTは研究代表者のリーダーシップのもと大型予算によりチームで研究を推進することが特徴であり、それを十分に活用し得る、本研究領域の掲げる目標達成のための強力な研究体制を持った提案を強く期待します。また、本年度は植物バイオマスの利活用において不可避な課題である、植物バイオマス分解および分解物を有用物質合成の原料として使用するための新基盤技術を目指した研究提案が多くはありませんでしたので、このような課題に取り組む研究提案についても、来年度の募集では期待します。