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別紙

研究成果展開事業(産学共創基礎基盤研究プログラム)
平成23年度 新規採択研究代表者・研究課題 一覧

(氏名五十音順)

研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
1 鳥塚 史郎 物質・材料研究機構 材料創製・加工ステーション ステーション長 10000GPa%J高強度・高延性・高靱性鋼を実現できる5%Mn組成を利用した超微細ヘテロ変態組織の生成とその機構解明 本研究は、産業界の要望であるハイテン鋼(高い引張強度を持つ鋼)の世界的競争力確保を目指し、産学共創の場を活用しつつ、5%Mn低炭素鋼(マンガン(Mn)を5%含み炭素含有量が低い鋼)の持つ驚くべきポテンシャルの研究を通して、革新的構造材料の創製の指導原理を導くものです。低炭素・5%Mn組成をベースとした超微細マルテンサイト組織および超微細フェライト/オーステナイト組織の2種ヘテロ組織の秘める、10000GPa%J(ギガパスカルパーセントジュール:強く、延びやすく、壊れにくいというトータルバランスを表す単位)高強度・高延性・高靱性実現可能性の発現機構を解明します。
2 廣澤 渉一 横浜国立大学
大学院工学研究院
准教授 超微細粒強化と時効析出強化を並立させる新規アルミニウム合金展伸材の開発とその合金設計指導原理の確立 時効硬化型アルミニウム合金展伸材の強度並びに延性を飛躍的に向上させるためには、サブミクロンオーダーの超微細結晶粒内に、ナノスケールの析出物を高密度に分散させることが肝要です。本研究では、計算科学的アプローチを駆使して、超微細粒合金に特有な合金設計、プロセス条件に関する指導原理を確立し、結晶粒界や転位などのヘテロ構造を最適に制御することで、強化機構の並立による次世代構造用材料の開発を産業界と一体となって行います。
3 武藤 泉 東北大学
大学院工学研究科
准教授 鋼/介在物ヘテロ界面のマイクロ電気化学特性解明と界面ナノ構造制御による高耐食化原理の導出 ヘテロ組織の利用により、材料の機械的特性は飛躍的に向上します。しかし、化学的に不均一な材料は腐食しやすいため、ヘテロ組織を積極的に活用した材料は、耐食性が低くなることが懸念されます。そこで、ヘテロ組織の高耐食化の基盤構築のため、マイクロメートルオーダーの微小領域の電気化学特性を計測できる技術を駆使し、腐食起点の代表例である鋼と介在物(鋼/介在物)のヘテロ界面の腐食機構を解明します。さらに、産学の対話のもと、ヘテロ界面組成・構造制御による高耐食化原理の導出に取り組みます。

<プログラムオフィサー(PO)総評>

プログラムオフィサー(PO) 加藤 雅治(東京工業大学 大学院総合理工学研究科 教授)

本技術テーマは、平成22年度に設定されました。わが国の社会基盤を強化し、高い国際競争力を維持するために、製造業のさらなる発展を意図するもので、優れた機能を有する革新的な構造用金属材料の開発に資する基礎的な研究を戦略的な産学連携によって展開し、必要な基盤技術と指導原理を10年間で確立しようとするものです。構造用金属材料として重要な諸性質・性能の飛躍的な改善、さらには、従来は両立が困難であった複数の機能を同時に向上させるような革新的な材料設計・開発思想を確立することを目的としています。そのために、今までは性能発現の阻害因子と考えられがちであった材料に存在するさまざまなスケールの不均一性(ヘテロ構造、heterogeneity)をむしろ積極的に利用し、「ヘテロ構造制御」による新材料創製と新指導原理の構築を目指します。

本技術テーマの第2回の研究課題公募は、平成23年6月13日から8月8日までの期間で行いました。昨年度の採択課題との内容のバランスを考えて、本年度は、力学特性(強度、靭性、破壊、軽量化、長寿命化、など)と耐環境性(耐熱性、耐食性、水素脆性、など)の分野の提案を歓迎することにしました。その結果、これらの分野とその周辺分野で、優れた提案が34件届きました。その後、POと7名のアドバイザーによる書類選考と面接選考を経て、3件を採択課題にしました。11倍の競争率という激戦でした。応募件数が多いことは嬉しいことですが、提案内容と既存課題構成のバランスなどと総合的に考慮した結果、昨年度と同様に、学術的には優れた提案でありながら採択できなかった課題が非常に多かったため、応募して下さった研究者の皆様には、申し訳ない気持ちもしました。

採択された研究課題3件は、鉄鋼、アルミニウム、力学特性、耐食性、と研究内容がバラエティーに富んでいます。そして、「産学共創の場」を利用した産業界との積極的な意見交換によって、革新的な構造用金属材料創製に対する指導原理の構築が大きく期待されます。

これらの研究の進展が、わが国の国際競争力の維持・強化につながることを、私は確信しております。