JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第825号別紙2 > 研究領域:「太陽光と光電変換機能」
別紙2

平成23年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出」
研究領域:「太陽光と光電変換機能」
研究総括:早瀬 修二(九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 課題名 研究型 研究
期間
課題概要
浅岡 定幸 京都工芸繊維大学 大学院工芸科学研究科 准教授 光捕集アンテナ構造を組み込んだ光合成型光電変換デバイスの創製 通常型 3年 植物の光合成反応では、光を効率よく吸収するアンテナ色素系、電荷分離を司る反応中心、電荷を輸送する電子伝達系が、それぞれ空間的に分離して存在し、協働することによって高い光電変換効率を実現しています。本研究では、完全垂直配向シリンダー型ミクロ相分離薄膜の相分離界面をテンプレートとして、光捕集部と電荷分離・輸送部を構築し、光合成反応中心の構造と機能を人工系で再現した、光電変換デバイスの作製を目指します。
荒木 秀明 長岡工業高等専門学校 物質工学科 准教授 レアメタルフリー新型化合物系薄膜太陽電池の開発 大挑戦型 3年 希少元素であるインジウムや毒性のセレンを含まず豊富で安価な銅・スズ・硫黄からのみ構成される銅スズ硫化物系光吸収材料を用いて、大規模量産化に適した新型化合物薄膜太陽電池の開発を行います。銅スズ硫化物薄膜は、太陽電池に適した特性を持つと知られる一方で、未知な部分も多く、この材料の基礎物性を把握し、最適な作製プロセスを確立することで、高効率で安価な化合物系薄膜太陽電池の創出を目指します。
板垣 奈穂 九州大学 システム情報科学研究院 准教授 新規酸窒化物を用いたピエゾ電界誘起量子井戸型太陽電池の創製 通常型 3年 多重量子井戸を用いた太陽電池は、理論効率が60%を超える第3世代太陽電池として期待されていますが、その井戸型ポテンシャルのために光生成キャリアの多くが井戸内で再結合するという本質的な課題を抱えています。本研究では“酸窒化物半導体”という新しい材料と“ピエゾ誘起バンドエンジニアリング”を用いた新しいアプローチにより、量子井戸型太陽電池の飛躍的な光電変換効率の向上と低コスト化を目指します。
片山 哲郎 大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任助教 波長可変な顕微過渡吸収分光を用いた光電変換系における電荷捕捉サイトおよび光退色過程の解明 通常型 3年 電荷捕捉と色素の光退色は、有機系太陽電池の効率化、長期安定動作を阻む最も大きな問題です。しかし実際の太陽電池では、試料の空間不均一性により、その因子の直接的解明は困難でした。本研究では、新規の超高速時間分解顕微分光測定装置を開発・応用し、電荷捕捉サイトや光退色の因子を時間・空間両面から解明します。これらの結果から、効率の良い光電変換分子系の設計指針を提出し、高効率な有機太陽電池の開発に貢献します。
沓掛 健太朗 東北大学 金属材料研究所 助教 機能性結晶粒界による超高品質シリコン結晶の実現 通常型 3年 本研究では、通常の方法では得られないような、さまざまな構造の粒界を、複合種結晶基板を用いることでバルクのSi結晶中に制御して形成し、Si結晶中の粒界の未知の物性を明らかにします。この基礎研究をもとに、粒界の機能(転位・点欠陥・不純物・歪みを吸収する)を利用して、太陽電池用の超高品質・低コスト・高歩留りのSi結晶の実現を目指します。
久保 若奈 (独)理化学研究所 基幹研究所 基礎科学特別研究員 ギャッププラズモンによる光学的に厚く物理的に薄い高効率太陽電池の創製 通常型 3年 ギャップ構造体の光学的・物理的特徴を利用し、光学的に厚く物理的に薄い新規太陽電池を創成します。ギャップ間のみに光電変換素子を充填した際の、ギャッププラズモン特性の活用とギャップ電極の構築によって、電荷の拡散距離が短い薄膜セルでありながら、光吸収効率の高い新規太陽電池が実現できます。構築した太陽電池ナノセルをウェハースケールでアレイ化し、実用レベルの電力抽出を目指します。
黒川 康良 東京工業大学 大学院理工学研究科 助教 量子ナノ構造を利用した新型高効率シリコン系太陽電池の開発 通常型 5年 元素戦略上、有利なシリコンのみを発電層として用いて高効率積層型太陽電池を作製するにはシリコンのバンドギャップを制御する必要があります。本研究では、シリコンナノワイヤ(SiNW)を用いた量子閉じ込め構造を採用することによりこれを実現し、表面パッシベーション技術をSiNW発電層の高品質化に利用します。さらに、量子効果を取り入れたデバイスシミュレータによる解析により、SiNW 太陽電池の設計を同時に行います。
櫻井 岳暁 筑波大学 大学院数理物質科学研究科 講師 放射光を利用した有機薄膜太陽電池のエネルギー損失解析 通常型 3年 有機薄膜太陽電池におけるエネルギー損失機構を解明するため、放射光を利用した界面物性研究に取り組みます。放射光は構成元素や分子の選択励起が可能であり、これを用いると有機分子の複雑な構造変遷・電子状態変化の解析が行えます。本研究では、光電変換過程において、ドナー・アクセプター界面で起こる、電荷分離反応や熱失活過程を放射光により詳細に解析し、エネルギー損失機構の全容を明らかにすることを目指します。
但馬 敬介 東京大学 大学院工学系研究科 講師 光電変換過程の高効率化を目指した有機界面の精密制御 通常型 5年 有機薄膜太陽電池の高効率化を目指して、ドナー/アクセプター材料の分子レベルおよびナノレベルの界面構造が光誘起電子移動および再結合過程に及ぼす影響について、低表面エネルギー物質の表面偏析や、温和な条件での薄膜転写など、実験的な手法によって明らかにします。これまでの混合バルクヘテロ接合のような単純なアプローチでは、到達不可能であった有機薄膜太陽電池における究極の理想的な構造の構築を目指します。
藤沢 潤一 東京大学 教養学部附属教養教育高度化機構 特任准教授 酸化チタンとジシアノメチレン化合物の界面錯体を用いた新型有機系太陽電池の開発 通常型 3年 酸化チタン(TiO)とジシアノメチレン化合物(TCNX)からなる界面錯体を用いた新原理に基づく有機系太陽電池の研究開発を行います。本新型有機系太陽電池は、表面に化学結合したTCNX分子からTiO伝導帯への電荷遷移により、TiOに直接電子注入ができる新型太陽電池です。本研究では、高効率光電変換の実現を目指して、太陽電池の物性制御とそれを基盤とした高効率化に取り組みます。
宮寺 哲彦 (独)産業技術総合研究所 太陽光発電工学研究センター 研究員 ヘテロエピタキシーを基盤とした高効率単結晶有機太陽電池 大挑戦型 3年 高効率有機太陽電池の実現のために、高度に制御された素子作製手法である「有機ヘテロエピタキシー」の開拓を行います。新規結晶成長技術を確立し、理想的な構造の太陽電池を作製することで、有機半導体の基礎メカニズムの解明に発展させていきます。素子作製技術の開拓と基礎メカニズムの解明を通して、有機太陽電池を発展させるための基盤となる技術・知見を構築することを目指します。
綿打 敏司 山梨大学 医学工学総合研究部 准教授 赤外線集中加熱による太陽電池用単結晶シリコンの作製 通常型 3年 単結晶シリコン太陽電池は、変換効率の高い太陽電池として知られていますが、他の太陽電池に比べると製造コストが高いものとなっています。本研究では、単結晶シリコン太陽電池の基板に、n型シリコン単結晶が用いられている点に注目し、このn型シリコン単結晶の低コスト化を目指すと共に、傾斜鏡型赤外線集中加熱式の浮遊帯域溶融法の集光方式を工夫することで、n型シリコン単結晶の大口径化と組成の均一化の両立を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:早瀬 修二(九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)

本研究領域では、次世代太陽電池の提案につながる研究を対象とし、化学、物理、電子工学などの幅広い分野の研究者の参画により異分野融合を促進し、次世代太陽電池の実用化につながる新たな基盤技術の構築を目指し、平成21年度から募集を開始しました。募集にあたっては、色素増感系、有機薄膜系、量子ドット系高性能太陽電池の研究、従来とは異なるアプローチによるシリコン系、化合物系太陽電池を対象とする研究、まったく新しい原理に基づいた太陽電池の創出につながる界面制御技術、薄膜・結晶成長、新材料開拓、新プロセス、新デバイス構造などの要素研究――も対象としました。次世代太陽電池の創出という視点を重視し、理論研究から実用化に向けたプロセス研究にわたる広域な研究を対象として募集したところ、計105件の応募がありました。これらの研究提案を13名の領域アドバイザーのご協力を得て書類選考を行い、研究提案29件を面接対象としました。面接選考に際しては、研究構想が本領域の趣旨にあっていること、研究計画に高い独創性と新規性を持ち、挑戦的であり、また単なる基礎研究ではなく、提案者自身が将来の太陽電池のどこにどのように役立つ目的基礎研究なのかを理解していることを重視して厳正な審査を行いました。特に今年は新太陽電池に画期的なインパクトを与える新材料とともに新デバイス構造の研究開発に関する提案を慎重に審査しました。また、審査にあたっては、応募課題の利害関係者の審査への関与や、他制度の助成金などとの関係にも留意しました。

選考の結果、平成23年度には、シリコン系太陽電池、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、化合物太陽電池、および量子ドット太陽電池に関する要素研究、太陽電池物性評価方法、新材料合成などの広い分野の提案の中から12件が採択となりました。いずれも新しい発想に基づく意欲的な研究課題であり、将来の太陽電池像を明確にできるテーマであると考えています。採択されなかった提案にも、重要な提案や独自性のある提案が多くありました。しかし、重要であっても本研究領域の趣旨に合わないものは不採択としました。

今年度をもって、本領域の選考が全て終了しました。3年間を通じ、新材料、新デバイス構造、新物性評価方法の提案、理論など、将来の高効率太陽電池の研究開発に大きなインパクトを与えることを予感させる提案を多数、バランス良く採択できたと思っています。今年度採択された3期生が加わることで、本領域のさきがけ研究者の陣容が定まり、今後、活発な議論が展開されるものと楽しみにしています。また、ここで培った人的ネットワークを今後も有効に活用し、研究を加速されることを期待しています。