JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第825号別紙2 > 研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
別紙2

平成23年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「水生・海洋藻類等による石油代替等のバイオエネルギー創成及びエネルギー生産効率向上のためのゲノム解析技術・機能改変技術等を用いた成長速度制御や代謝経路構築等の基盤技術の創出」
研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
研究総括:松永 是(東京農工大学 学長)

氏名 所属機関 役職 課題名 研究型 研究
期間
課題概要
新井 宗仁 東京大学 大学院総合文化研究科 准教授 ラン藻由来アルカン合成関連酵素の高活性化 通常型 3年 ラン藻由来アルカン合成関連酵素の活性を向上させた変異体を創出し、ラン藻によるバイオ燃料生産の高効率化を目指します。2つの相補的アプローチで研究を進めます。(1)X線結晶構造解析により酵素の立体構造を解明し、高活性化の合理的設計を行います。(2)新たなオミクス技術であるミュータノーム解析(網羅的な変異解析)により、高活性変異体の経験的設計を行います。
伊藤 卓朗 慶應義塾大学 先端生命科学研究所 特別研究員 微細藻におけるオイル産生代謝機構の解明 大挑戦型 3年 一部の単細胞緑藻はストレスにより増殖を停止し細胞内に中性脂質を蓄積する事が知られており、次世代バイオ燃料源として期待されています。本研究では、緑藻のモデルであるChlamydomonas reinhardtiiを用いて、安定同位体を利用した経時的メタボローム解析により代謝の流れを解明し、中性脂質を高度に生産させる品種改良法の構築を目指します。
岩坂 正和 千葉大学 大学院工学研究科 准教授 水圏生物のマイクロミラーによるエネルギー変換伝達機能の獲得 通常型 3年 本研究は、水圏生物に特有の水中“マイクロミラー”を利用し、太陽光エネルギーを回収する新技術の創成を目指します。水圏微生物体内のフォトニック結晶や魚類ウロコの色素胞に含まれるグアニン結晶板などの構造色系組織が、低摩擦・低エネルギーのロスによってブラウン運動を起こすメカニズムを解明し、このマイクロミラーの配向を磁気的に制御することで、微細な光制御機構による光エネルギー変換伝達の効率化を水圏生物から獲得します。
梅野 太輔 千葉大学 工学部 准教授 超高効率でイソプレノイド燃料をつくる藻類の創製 通常型 3年 シアノバクテリアのイソプレノイド経路を大規模に再構築し、これに独自に開発した進化工学法によって鍛えた、高活性なテルペノイド酵素群を導入します。最終的に得られた遺伝子経路は、ポータブルな形でクラスター化し、組み換え系の確立しているその他の藻類への移植を試みます。二酸化炭素を原料として、あらゆる内燃機関に対応する、多様なテルペン燃料を供給するバイオ生産システムの開発を目指します。
得平 茂樹 中央大学 理工学部 生命科学科 助教 糸状性シアノバクテリアを用いた細胞間分業による効率的バイオアルコール生産 通常型 3年 これまでバイオマスとしての利用が検討されてきた微細藻類は単細胞性であり、1つの細胞内で光合成を始めとするさまざまな生体反応が行われ、バイオマスを生産しています。そのため、代謝系とその制御システムは非常に複雑なものになっています。本研究では、数百の細胞がつながった糸状性シアノバクテリアが作る機能分化した細胞ヘテロシストを利用して、細胞間での分業による効率的なバイオアルコール生産システムを開発します。
田村 隆 岡山大学 大学院自然科学研究科 准教授 好気条件下で水素(H)製造反応を触媒する[NiFeSe]型ヒドロゲナーゼの分子構築 通常型 3年 燃料電池は、水素と空気から直接電力を取り出す夢の発電法として注目されています。その水素を大量に製造するために微生物のヒドロゲナーゼ(Hase)が期待されてきました。しかしHaseは空気中の酸素に弱く、実用化は困難でした。本研究では、比較的酸素耐性が高いとされる新型Haseに対して、京速スパコンを用いた蛋白質量子計算を行い、大気中でも水素生産が可能なHaseを開発します。
富永 基樹 (独)理化学研究所 基幹研究所 専任研究員 生物界最速シャジクモミオシンを利用した植物成長促進システムの開発 通常型 3年 本研究では、植物ミオシンに生物界最速のシャジクモミオシン、あるいは低速タイプミオシンのモータードメインを融合することにより、植物の原形質流動速度を人工的に調節します。高速化による植物大型化や低速化による小型化によって、人工的な植物サイズ制御システムを確立します。原根形質流動は植物共通の輸送システムであることから、将来的には、食糧やバイオマスに関連した有用植物への応用展開を図ります。
中澤 昌美 大阪府立大学 生命環境科学研究科 助教 微細藻類ユーグレナの新規形質転換法の開発と応用 通常型 3年 ユーグレナ(ミドリムシ)は、大気濃度から40%までの幅広い濃度のCOのもと光合成を行い、ワックスを作る能力を持っています。ワックス生産能を2倍にすると、生産・抽出など全ての工程を踏まえた「CO排出ゼロ」を達成できます。本研究では世界初のミドリムシ核ゲノム形質転換系を確立し、これまで研究してきたミドリムシ独自の代謝系を制御することで、真にカーボンニュートラルなバイオ燃料生産を目指します。
成川 礼 東京大学 大学院総合文化研究科 助教 多様な光スイッチの開発による細胞外多糖生産の光制御 通常型 3年 光合成生物は光合成を効率よく行うために、さまざまな光センサーを駆使し、変動する光環境に馴れています。一方、近年、光合成を利用したバイオエネルギー生産が注目されていますが、実際的な産業利用のためには、生産効率の向上が必須課題となっています。本研究では、光センサーとその制御系の新たな組み合わせを創出することで、多様な光スイッチを開発し、効率的な細胞外多糖生産系の確立を目指します。
蓑田 歩 東京薬科大学 生命科学部 研究員 循環型エネルギーを利用した硫酸性温泉紅藻によるレアメタル回収システムの開発 通常型 3年 硫酸性温泉紅藻の金属回収機構の解明により、循環型エネルギーを利用したレアメタルリサイクルシステムの開発を行います。このシステムでは、金属精製や金属廃棄物処理から生じるレアメタルの回収と水質浄化の工程で生じるCOを固定してバイオ燃料を生産することで、カーボンニュートラルな金属リサイクルの達成を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:松永 是(東京農工大学 学長)

本研究領域では、藻類・水圏微生物の中に高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを生かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指します。募集にあたっては、近年急速に発展したゲノミクス・プロテオミクス・メタボロミクス・細胞解析技術などを含む先端科学も活用し、藻類・水圏微生物の持つバイオエネルギーの生産などに有効な生理機能や代謝機構の解明を進めるとともに、それらを制御することによりエネルギー生産効率を向上させるための研究を対象とします。さらに、バイオエネルギー生産に付随する有用物質生産や水質浄化などに資する多様な技術の創出に関する研究も含みます。

将来のバイオエネルギー創成につながる革新的技術の実現に向けて、生物系、化学系、工学系などの幅広い分野から次の可能性にチャレンジする提案を望みます。

今年度の本領域の公募には、多岐にわたる分野から計60件の応募がありました。選考は研究総括が11名の領域アドバイザーの協力のもとに行いました。まず、書類選考では各提案課題についてその課題内容に近い研究領域を専攻する領域アドバイザー3名ずつが査読を行い、それらの書面評価に基づき討議し、28件の課題について面接選考を行いました。選考にあたっては、応募者と利害関係にある評価者の関与を避け、他制度による助成とその対象課題にも留意し、公平な判断を心がけました。書類・面接選考では、研究構想の意義、研究計画の妥当性、準備状況と提案課題の実現性を考慮し、またさきがけの趣旨に照らして、研究課題とその実施体制の独立性、並びに新課題への挑戦性を重視しました。選考の結果、通常型として研究期間3年型が9件、大挑戦型(3年型)1件の計10件を採択しました。

今回は、バイオエネルギー創成を目指した、多角的なアプローチを提案する、甲乙付け難いものが多く、その中から領域の幅を広げる様な提案を採択することができました。

今回採択できなかった提案にも優れたものが多数あり、選考は大変困難でした。前年度の公募からあまり時間が経たない中での公募だったこともあり、研究内容や研究計画などに予備的な実験などを軸とした具体的な記述が不足しているという理由で採択されなかったものが数多く見られました。本研究領域の趣旨を理解され、次年度に再度挑戦していただければと思います。また、さきがけには「実現の可能性の観点からは明確な見通しが得難いが、成功した場合に飛躍的、画期的な成果が期待できる」大挑戦型の募集があるため、その積極的なチャレンジも期待しています。

本領域は、CRESTと一体的、統合的に研究を推進する体制で行います。研究の進捗に応じて、相互の研究成果の情報交換を密にし、両推進体制間におけるコラボレーション(研究協力)なども積極的に推進したいと考えています。最終公募となる来年度は、多様な要素のうち、生物機能や触媒を利用した物質変換や大量生産に向けた革新的バイオリアクターなどにつながる様な提案をはじめ、今までの採択課題には欠けている分野からの提案、本領域の主旨に賛同して新たにバイオエネルギー創成研究に参入を志す提案、これまでのバイオエネルギー創成研究に新しい視点を加えるような観点からの提案など、挑戦的な提案がさらに加えられていくことを期待します。