JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第825号別紙2 > 研究領域:「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」
別紙2

平成23年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「気候変動等により深刻化する水問題を緩和し持続可能な水利用を実現する革新的技術の創出」
研究領域:「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」
研究総括:大垣 眞一郎((独)国立環境研究所 理事長)
副研究総括:依田 幹雄((株)日立製作所 情報制御システム社 技術主管)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
大村 達夫 東北大学 大学院工学研究科 教授 迅速・高精度・網羅的な病原微生物検出による水監視システムの開発 水循環系を媒介とする感染症リスクの拡大防止策は脆弱であり、安全で安心な水利用を期待する人々に社会的不安をもたらしています。本研究では、毎年560万人にのぼる感染性胃腸炎患者数を低減する新しい水監視システム(WaterWatch)の構築を目指します。下水中の病原微生物を迅速・高精度・網羅的に検出する技術を新たに開発し、その技術を用いて都市下水を継続的に監視することで、感染症発生後速やかに社会に情報を発信することが可能となります。これにより、感染が拡大する前に防止策をとれるため、感染拡大を大幅に抑制することが期待されます。
沖 大幹 東京大学 生産技術研究所 教授 安全で持続可能な水利用のための放射性物質移流拡散シミュレータの開発 持続可能な水利用のためには、人類が利用しようとする水源の水が利用に適しているかどうかを的確に診断予測する技術が不可欠です。本研究では、ヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が大気の流れによって移動し、雨などに伴って地表面に降下し、土砂などとともに水の流れに沿って川を流下して、どういうタイミングでどの程度の濃度で水道取水源に到達するかを推計できるシミュレータを構築します。これにより、一時的な取水停止や積極的な水処理の実施など臨機応変な対応によって安全な水質が確保されるようになり、安全で安心な水利用の実現に貢献することが期待できます。
小杉 賢一朗 京都大学 大学院農学研究科 准教授 良質で安全な水の持続的な供給を実現するための山体地下水資源開発技術の構築 気候変動等によるリスクが高まる中、良質で安全な水の持続的な供給を実現するためには、本来の自然の力を活かした、汚染や災害に強い水資源開発を行うことが重要です。本研究では、山地河川流出水の観測とリモートセンシング・物理探査手法とを効率良く組み合わせることにより、河川源流域において優良な山体地下水帯を効率よく探査し水資源開発を可能とする革新的な技術を構築します。この技術によって、国土の73%を占める山地の山体を天然のダムとして活用し、水資源の多様性を確保することで良質・安全な水の持続的供給を実現すると同時に、洪水・土砂災害の軽減を図ることが期待できます。
都留 稔了 広島大学 大学院工学研究院 教授 多様な水源に対応できるロバストRO/NF膜の開発 膜分離法は、健全で持続可能な水再生・再利用のために必要不可欠な技術となっています。日本は世界トップの膜製造技術とシェアを誇りますが、現状では膜汚染や膜洗浄の困難さなど多くの課題があります。本研究では、塩素存在下で、広範囲のpHおよび熱水などの過酷な条件でも使用可能なロバスト性を有する逆浸透/ナノろ過(RO/NF)膜を開発するとともに、多様な原水への対応可能性を明らかにし、その実用化のための実証試験を行います。この技術開発によって日本の膜技術と膜処理システムが引き続き世界をリードすることが期待できます。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:大垣 眞一郎((独)国立環境研究所 理事長)
副研究総括:依田 幹雄((株)日立製作所 情報制御システム社 技術主管)

本研究領域は、現在の、あるいは、気候変動などによって将来さらに深刻化すると予想される国内外のさまざまな水利用の課題を解決するために、物理的・社会的な水利用システムの創出を目指します。革新的な水処理技術や水資源管理システムによって、水供給、排出、再利用、資源回収における、水の質と量の統合的な最適化を行い、エネルギー、コスト、環境負荷、健康・環境への安全性、地域社会の状況などの観点から最も合理的で持続可能な水資源の利用システムを、研究領域全体として提起することを目的としています。また、実社会への適用性を十分に配慮した研究展開をはかります。

3年目かつ最終となる今回の選考では、従来の方法論などにとらわれない革新的な理論、技術、システムについて、焦点を絞った研究課題の提案を期待しました。その結果、総合的な流域管理、水利用の方法論、水再生利用、さまざまな水浄化技術、など幅広い研究提案が申請され、水の課題の広さと深さを改めて認識させられるものとなりました。しかしながら、一部の提案は、焦点が絞られておらず、本領域の「水利用を実現する革新的な技術とシステムの創出」という目的にそぐわないため、採択には至りませんでした。

本研究領域では、研究総括、副研究総括に加え、関連の多様な分野の専門家である領域アドバイザー9名にご協力いただき、採択課題の選考を行いました。その結果、応募の20件を対象に、書類選考により面接選考対象として7件を選び、最終的に4件を採択しました。提案課題が多岐にわたり、かつさまざまな革新的な方法論に基づく研究が提案されていたので、競争の厳しい選考となりました。

選考の結果、採択された研究内容は、ロバスト性を有する膜処理技術1件、地下水資源の構造解明と開発技術1件、感染症対策のための水質監視システム1件、災害時を考慮した水利用シミュレータ1件となりました。時宜にかなった緊急性の高い課題も含まれており、革新的な成果が出ることが期待されます。また、21年度および22年度に採択された既存の研究チームが扱っていない課題や、研究実施中のチームと相互に協力して研究推進が期待できる新しい課題なども含めることができました。

3年間の選考を経て、水利用領域全体を網羅する研究課題が揃いました。今後、各研究を産・学・官の連携によって推進していく中で、実社会へ適用可能な革新的な技術とシステムを提起します。さまざまな災害時にも水利用システムは社会を持続させる必須のシステムです。国内外のさまざまな水利用に関わる課題解決に向けて研究領域全体で貢献します。