JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第825号別紙2 > 研究領域:「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」
別紙2

平成23年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等のナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出」
研究領域:「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」
研究総括:玉尾 皓平((独)理化学研究所 基幹研究所 所長・グリーン未来物質創成研究領域長)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
北川 宏 京都大学 大学院理学研究科 教授 元素間融合を基軸とする新機能性物質・材料の開発 本研究では、バルク状態では相分離する多数の金属元素の組み合わせを原子レベルで固溶化させること(元素間融合)で、多くの新しい物質を創成すると共に、元素間融合による革新的な材料の開発を行います。この元素間融合を戦略基軸として、非平衡合成、ナノサイズ化、水素プロセスなどの手法により、天然では固溶しない金属元素同士を混和させ、新型触媒、新物質、新材料の探索を徹底的に行います。
永島 英夫 九州大学 先導物質化学研究所 教授 有機合成用鉄触媒の高機能化 医農薬や機能性樹脂のような化学製品の合成・製造プロセスでは、触媒としてレアメタルが多用されていますが、今後は、鉄に代表される、環境に優しく、資源量が豊富で安価な金属で代替し、さらには、それらを完全回収再利用するプロセスが求められます。本研究は、「配位子場制御」や「媒体反応駆動」という触媒開発、プロセス開発に関わる新しい2つの考え方に基づいた触媒系基礎科学を確立することを目指します。さらに、活性、選択性、分離回収再利用性に優れた鉄触媒完全回収系を元素科学とプロセス化学の融合により実現します。
長谷川 哲也 東京大学 大学院理学系研究科 教授 軽元素を活用した機能性電子材料の創出 本研究では、B、C、N、Fといった軽元素を有効に用いることで、酸化物材料の結晶構造やバンド構造を制御し、希少元素や毒性元素を使わない革新的電子材料の創出を目指します。ここでは、単なる元素代替にとどまらず、従来材料にはない新機能を付け加えることで、戦略的な元素代替を促します。具体的には、仕事関数や屈折率を制御した脱In系透明導電体、Pbや希土類元素を使わない可視光応答強誘電体(光電変換材料)等の開発を行います。
宝野 和博 (独)物質・材料研究機構 磁性材料ユニット フェロー ネオジム磁石の高保磁力化 ネオジム磁石のミクロから原子レベルまでのマルチスケール構造解析を行い、微細構造と保磁力の関係を実験的に解明します。同時に、第一原理計算とマイクロ磁気シミュレーションによるマルチスケール計算を行い、保磁力が理論限界の50%以上に到達し得る微細構造を予測します。その知見から、ネオジム磁石の界面構造・組成を最適化し、資源確保が困難になっているジスプロシウムを使わずにハイブリッド・電気自動車に使える高保磁力ネオジム磁石の実証を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:玉尾 皓平((独)理化学研究所 基幹研究所 所長・グリーン未来物質創成研究領域長)

本研究領域は、「物質の特性・機能を決める特定元素の役割を理解し有効活用する」という元素戦略を共通概念として、持続可能な社会の構築のために解決すべき資源・エネルギー・環境問題に物質科学・物性科学の観点から取り組み、既存の延長線上にない物質・材料の革新的機能の創出を目指します。この方針のもとに、昨年度に続き、今年度も物理、化学、工学、材料科学、計測技術、計算科学などの広い分野からの提案を募りました。今年度の選考にあたっては、領域アドバイザーとしてナノ材料科学と光科学を強化し、12名にご協力いただいています。

今回は、各方面からの挑戦的かつ意欲的な提案が71件ありました。昨年度の101件からは数では減少しましたが、質の高い提案が多く見られました。元素戦略のコンセプトの理解が深まったことの表れと思われます。書類選考で面接対象提案を12件にしぼり、最終的には面接選考で4件採択しました。採択課題は、原子レベル元素間融合材料、有機合成用鉄触媒の高機能化、汎用元素で置換した酸化物電子材料、ジスプロシウムフリーネオジム磁石の高保磁力化、に関するものです。昨年度採択課題と今年度採択課題を総合的にみて、革新的機能創出を目指す本研究領域の目的に合致したバランスのとれたものとなったと考えています。

選考にあたっては、(1)元素代替・削減・循環・規制、(2)従来の元素の概念を越えた元素新機能発見、(3)課題解決に向けた確固たるサイエンス基盤、に加えて、(4)バーチャル研究所としての本研究領域内での分野バランス、などを重視しました。最後の点は特に重要で、多様な分野からの参画研究者が情報交換を通じてお互いを刺激し合うことで、単独研究では思いもよらない大きな相乗効果が発現することを期待しています。この観点から、来年度では、理論的な物質機能デザイン、フォトニクス材料、バイオ系材料、などの強化を目指し、エネルギーを創る・運ぶ・貯める、そして環境を守るための物質・材料・反応設計などに総合的に取り組む複合・連携研究体制を作り上げていきたいと考えています。