JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第825号別紙2 > 研究領域:「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」
別紙2

平成23年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出」
研究領域:「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」
研究総括:米澤 明憲((独)理化学研究所 計算科学研究機構 副機構長)

氏名 所属機関 役職 課題名 課題概要
塩谷 隆二 東洋大学 総合情報学部 教授 ポストペタスケールシミュレーションのための階層分割型数値解法ライブラリ開発 地球シミュレータ、次世代スパコン(京)などのスーパーコンピュータ上で超大規模な解析を可能とする、汎用並列有限要素法解析システムADVENTURE(オープンソースソフトウェア)の開発および公開を通し培ってきた、大規模解析に極めて有効な手法である階層型領域分割法を、ポストペタスケールに向け、大規模データ処理を扱うメッシュ生成や可視化処理部分に拡張することにより革新的技術開発を行い、実用的超大規模シミュレーションの実現を目指します。
滝沢 寛之 東北大学 大学院情報科学研究科 准教授 進化的アプローチによる超並列複合システム向け開発環境の創出 ポストペタスケールの計算システムは、現在よりもさらに超並列化および複合化が進んでいると想定されます。本研究では、そのような超並列複合システムを効率的かつ効果的に利用するための環境を研究開発します。特に、複雑なハードウェア構成を意識することなく、アプリケーション利用者や開発者がシステムの性能を活用するための技術を開発します。また、システムの変化に伴うアプリケーションの進化を支援するためのフレームワークを構築します。
千葉 滋 東京工業大学 大学院情報理工学研究科 教授 ポストペタスケール時代のスーパーコンピューティング向けソフトウェア開発環境 ポストペタスケール時代のスーパーコンピューティング(HPC)では、汎用的なプログラミング言語やフレームワーク1つで全ての課題に対処することは困難になると予想されます。本研究では、ここ十数年の間にインターネットWeb分野で著しく進歩したソフトウェアのモジュール化技術をHPC分野にも適用し、計算機プラットフォームや計算アルゴリズムごとに最適化されたフレームワークをその分野の開発者自身が作り出せるようにし、HPC分野でのソフトウェア開発の生産性を大きく改善することをねらいます。
南里 豪志 九州大学 情報基盤研究開発センター 准教授 省メモリ技術と動的最適化技術によるスケーラブル通信ライブラリの開発 今後数年間で、スーパーコンピュータのCPUコア数は1億個以上になると予想されています。本研究では、スーパーコンピュータの重要な基盤ソフトウェアである通信ライブラリについて、計算機の規模によらず少ない使用メモリ量で効率よく通信を行う省メモリ技術と、実行中の状況に応じて自律的に動作を調整する動的最適化技術を用いた通信ライブラリを開発するとともに、この通信ライブラリの機能を生かした効率の良いプログラムの作成技術を研究開発します。
藤澤 克樹 中央大学 理工学部 准教授 ポストペタスケールシステムにおける超大規模グラフ最適化基盤 大規模災害では突発的にさまざまな事態が発生すると同時に短時間で状況が大きく変化します。このような状況下で、避難、誘導、復興計画等を早急に策定するためには、従来の手法では限界があり膨大なデータから作成したグラフを高速に処理することが難しい状況です。本研究ではポストペタスケールシステム上でこれらの問題を迅速に処理するための超大規模なグラフ最適化システムを作成して、安心安全な社会基盤の実現に貢献します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:米澤 明憲((独)理化学研究所 計算科学研究機構 副機構長)

理論、実験・観測に並ぶ科学技術の新しい方法論として、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーション(超大規模データからの情報抽出を含む)は、その重要性がますます高まっているとともに大きな期待を集めています。スーパーコンピュータの開発は、国際的に激しい競争下にあり、今後はハードウェアの性能のみならず、その実質的な性能を左右するシステムソフトウェアの機能や品質が極めて重要な技術となります。これからのスーパーコンピュータや大規模ストレージシステムは、そのシステムソフトウェアが死命を制するといっても過言ではありません。

このような背景をもとに、本研究領域は、次々世代(日本のスーパーコンピュータ「京」の次の世代)あるいはそれ以降のスーパーコンピューティングに資する、システムソフトウェアやアプリケーション開発環境などの基盤技術の創出を目指しています。具体的には、2010年代半ば以降に多用される、メニーコア化された汎用型プロセッサや専用プロセッサ(現在GPGPUと呼ばれるものを含む)を用いて構成されるスーパーコンピュータの特徴を生かし、その上で実行されるアプリケーションを高効率・高信頼なものにするシステムソフトウェア(プログラミング言語、コンパイラ、ランタイムシステム、オペレーティングシステム、通信ミドルウェア、ファイルシステムなど)、アプリケーション開発支援システム、数値計算ライブラリ、超大規模データ処理システムソフトウェアなどに関する、実用性を見据えた研究開発を対象として、平成22年度より公募を行いました。

本研究領域では、この分野の日本最気鋭の研究者11名を領域アドバイザーに迎え、応募19件について厳正な選考を実施しました。書類選考で特に優れた評価を受けた研究課題10件について面接選考を行い、その結果、5件の研究課題を採択しました。選考にあたり、研究開発の新規性、技術的実現性、研究開発体制などの通常の基準のほかに、有用性の高いシステムソフトウェアやライブラリが産出されることを重視しました。採択された5件の課題は、(1)ポストペタスケールでの連続体力学に関する統合的なソフトウェアスタックの研究開発、(2)大規模グラフ最適化のための基盤ソフトウェア研究開発、(3)超並列複合システムのための利用環境の研究開発、(4)数億プロセスを想定した通信ライブラリの最適化技術の研究開発、(5)ソフトウェアモジュール化技術をベースとするアプリケーションプログラム構成法の研究開発――となりました。これらの研究課題が本研究領域で推進され、スーパーコンピューティング分野の飛躍的な発展に大きく貢献するものと期待しています。

来年度は公募の最終年度であることも考慮して、研究総括・アドバイザーがポストペタスケール時代のために乗り越えるべき技術課題のいくつかを提示し、本研究領域のホームページ(http://www.postpeta.jst.go.jp/)で公開する予定ですので、これらも参考にしながら本研究領域の「システムソフトウェア」の研究に挑戦されることを期待しています。