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資料2

研究領域の概要および研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業(ERATO型研究)
平成23年度発足

秋吉(アキヨシ)バイオナノトランスポータープロジェクト

写真

【研究総括】秋吉 一成(アキヨシ カズナリ) 氏
(京都大学 大学院工学研究科 教授)

研究領域「バイオナノトランスポーター」の概要

生命システムは、計測、反応、調節、成長、再生そして治療などの高度な能力を有しています。近年では、これら生命現象の巧妙な仕組みが分子レベルで明らかになってきました。それとともに、生体機能を改変・制御することや似たような機能を有する分子システムを設計することも可能になっています。生体に啓発されてその機能システムを設計、応用する研究分野は、バイオインスパイアードサイエンスと呼ばれるものです。これは、病気の早期診断・計測、ドラッグデリバリーシステム(DDS)治療、再生医療などの先進医療を推進する上で重要となっている次世代バイオマテリアル開発にブレイクスルーをもたらす新たな概念です。また近年、生体が持つ自己修復や防御機能を活性化させる信号物質であるRNAやたんぱく質を薬として利用することが次世代のバイオ医薬品として期待されています。しかし、これらのバイオ高分子は体内で分解されたり、不活性化されたりしやすい性質を持つため、安定して目的地まで輸送するシステムを構築することが臨床応用における課題となっています。

本研究領域では、生体分子システムを規範として、種々のバイオ医薬品や分子マーカーの徐放制御や選択的輸送を行える機能性ナノ微粒子(バイオナノトランスポーター)を創製します。具体的には、(1)ナノゲルテクトニクス工学、(2)プロテオリポソーム工学、(3)エキソソーム工学の3つのテーマに取り組みます。(1)ナノゲルを基本単位としてボトムアップ集積させ、ナノレベルで構造を制御したゲルマテリアルなどの高機能ゲル材料構築を目指します。(2)膜たんぱく質をリポソームへ自在に集積するシャペロン技術の開発と機能バイオ素子としての応用を目指します。(3)新規な細胞間情報伝達キャリアとして近年注目されているエキソソーム(細胞由来小胞)の生物学的および化学的な機能改変手法の確立と医療応用を目指します。以上により、バイオナノトランスポーターを実現し、バイオ診断・計測やがん免疫治療、細胞工学や骨再生医療などの医療応用を目指します。これにより例えば、サイトカインなどの免疫誘導物質を多糖などで構築したゲルに担持して抗体に運び、免疫機能を活性化させる治療において、輸送効率を上げることが可能となり、高価なサイトカインの使用量を減らすことができます。

本研究領域は、ナノ構造体を自在に制御・構築するための設計論を構築するとともに、革新的ナノ材料とプロセス技術の基盤の創出を目指すものであり、戦略目標「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」に資するものと期待されます。

概要図

研究総括 秋吉 一成 氏の略歴など

1.氏名(現職) 秋吉 一成(アキヨシ カズナリ)
(京都大学 大学院工学研究科 教授) 54歳
2.略歴
昭和60年3月 九州大学 大学院工学研究科 博士課程修了(工学博士)
同年9月 米国・パデュー大学 理学部 博士研究員
昭和62年10月 長崎大学 工学部 講師
平成元年1月 京都大学 工学部 助手
平成5年8月 京都大学 大学院工学研究科 助教授
平成9年12月 仏国・ルイ・パスツール大学 理学部 客員助教授
平成11年10月 科学技術振興事業団 個人型研究(さきがけ)「組織化と機能」 研究員(兼任)
平成14年2月 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 教授
平成17年4月 東京工業大学 精密工学研究所 客員教授(兼任)
平成22年9月 京都大学 大学院工学研究科 教授
3.研究分野 生体機能高分子: バイオインスパイアード科学、リポソーム工学、ゲル工学バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム
4.学会活動など
平成19年6月 高分子学会 バイオ高分子研究会 委員長(~平成21年5月)
平成21年4月 Journal of Bioactive and Compatible Polymers,Regional Editor
平成22年6月 高分子学会 編集委員会 副委員長
5.業績など  秋吉 一成 氏は、生体高分子システムの構築原理や機能発現の仕組みを規範とするバイオインスパイアード材料の創製に関する研究を行ってきた。特に、両親媒性機能分子の自己組織化による構造形成と機能発現に関する研究を系統的に推進するとともに、得られた基礎的知見に基づきバイオテクノロジーや医療分野で用いられる新規ナノバイオマテリアルを開発してきた。例えば、会合性高分子の自己組織化によるナノゲル工学を世界に先駆けて提唱し、がんたんぱく質ワクチンの開発と臨床応用に成功し、経鼻ワクチンや再生医療用ゲル材料としての有用性を実証している。また、たんぱく質の集積・機能制御によるシャペロン機能工学の提唱とたんぱく質デリバリーでのその有用性を示した。さらに、リポソーム工学による膜たんぱく質の集積・機能制御と人工細胞研究への展開などを行っている。
6.受賞など
平成6年 日本化学会 若い世代の特別講演賞
平成9年 米国・ゴードン研究会議(高分子分野) ポスター賞
平成10年 高分子化学会 学会賞(科学)
平成13年 Barre Lecturer Awards
平成19年 マイクロ・ナノメカトロニクスとヒューマン科学に関する国際会議 Best paper賞