以下の取り組みによって、才能の芽を持つ中学校段階の子どもたちが、まず、自分の持っている才能に気づき、科学技術への夢と将来の自分の進路の姿を描きつつ、持てる才能をのびのびと伸ばすこと、そして環境の整った高校、大学へ進み、才能を開花させ、社会にイノベーションをもたらすことが中学校段階における才能育成の目標です。
JSTは、平成21年度に外部の有識者による才能教育分科会(主査:山極 隆(玉川大学 名誉教授))を立ち上げ、理数系の才能育成について現状を分析し、今後の課題とその解決に向けた方策について報告書「科学技術イノベーションを支える卓越した才能を見出し、開花させるために」※1をとりまとめました。従来、個に応じた発展的な学習経験や興味・関心を助長する取り組みとして、子どもたちに科学技術の魅力を体験する場を提供してきましたが、生徒の才能を継続して伸長するためには、これまでの取り組みだけでは不十分であり、卓越した科学技術系人材の育成を推進するシステムを産学官民の連携により構築することを上記の報告書で提言しました。さらに、これを受けて、平成22年12月に学校現場の関係者を中心とした才能育成施策検討ワーキンググループ(リーダー:伊藤 卓(横浜国立大学 名誉教授))を立ち上げ、中学校段階の子どもたちの才能を見いだして高等学校段階での才能を伸ばす取り組みにつなげる具体的な支援策について検討を行いました。今回作成した報告書「中学生の才能を地域を挙げて育てるために」※2は、上記ワーキンググループの検討結果をもとに才能教育分科会で審議を行い、とりまとめたものです。
才能教育分科会では科学技術系の才能教育の重要性について次のようにまとめました。
才能教育分科会では科学技術系の才能教育の目標を以下の3点に整理した。
以下の取り組みによって、才能の芽を持つ中学校段階の子どもたちが、まず、自分の持っている才能に気づき、科学技術への夢と将来の自分の進路の姿を描きつつ、持てる才能をのびのびと伸ばすこと、そして環境の整った高校、大学へ進み、才能を開花させ、社会にイノベーションをもたらすことが中学校段階における才能育成の目標です。
海外では、高い才能を有する生徒を対象として、高度な専門的能力を育むための教育機関や、教育プログラムがさまざまな形態で提供されています。例えば、韓国では英才教育振興法(2000年)、科学技術基本法(2001年)、英才教育振興法(2002年)が定められ、科学英才高校を設置するなど、法のもとでの科学英才教育が推進されています。また、米国では、ジョージア州が才能教育予算として2006年度1億7000万ドルを投じるなど、多くの州が公教育として才能児に適合したカリキュラムを提供しています。
日本では、個に応じた発展的な学習経験や興味・関心を助長する取り組みとして、これまで、「青少年のための科学の祭典」、「サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)」、「地域の科学舎推進事業」(平成23年度より、科学コミュニケーション連携推進事業)などによって、子どもたちに科学技術の魅力を体験する場を提供してきました。
しかし、理数領域に強い意欲や才能を持つ子どもが、継続して才能を伸長するためには、これまでの取り組みでは不十分であり、今後、以下の方向性での取り組みが必要であると分科会では捉えました。
SSHや科学オリンピック・コンテスト支援など、高校生を中心とした高い才能を持つ子どもたちに対する、理数に重点を置いた教育機能の充実が図られていることに加え、来年度からは科学の甲子園が予定されています。しかし、中学生段階の子どもたちに対して行われている取り組みの多くは興味・関心の喚起、向上にとどまっており、上述の取り組みにつなげるためには中学生段階を中心とした教育機能の充実が重要です。
経済産業省委託調査「進路選択に関する振返り調査」(平成16年度)で、中学生の頃に「文系-理系を意識した」と回答した大学生の割合は40%であり、中学生の頃に自分の将来についてある程度の意識を発達させているにも関わらず、「PISA調査のアンケート項目による中3調査(2007年)」では、「科学に関連する職業に関して情報が得られている」という中学3年生の割合は、OECD平均47%に対して最低水準の28%であり、中学生の進路選択において、理系を目指すために必要な、科学技術に関する職業を学習する機会や研究者との交流機会の提供は重要です。
授業や科学部活動などで、学校外の取り組みに参加している子どもが核となって、参加していない子どもたちとともに学習することで、参加していない子どもたちの理解が促進されるとともに、周りの子どもたちの牽引(けんいん)役となることで、自らの理解の促進にもつながるなどの効果が期待できます。
2007年のIEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2007)の理科の勉強についての意識で、「理科はたいくつだ」と回答した中学2年生の割合は28%であり、子どもたちの意欲・才能に見合った学習プログラムの提供が重要です。しかし、学校の理科教育で、理数領域に強い意欲や高い才能を持つわずかな子どもたちに適切なプログラムを提供することは難しく、学校を超えたより大きな仕組みが必要です。人材、組織も含めた限られた地域の教育資源を効率良く活用し、地域社会全体で、理数領域に高い才能を持つ子どもたちに対して個に応じた体系的な教育プログラムを継続的に実施することが望まれます。
社会にイノベーションをもたらす人材を育成するために、理数領域に強い意欲や才能ある中学校段階を中心とした子どもたちを見いだし、継続的に育成するシステムの構築を支援することを目的とします。このシステムでは、地域の関係機関および専門家が連携し、発展的学習機会や研究指導など、体系的な教育プログラムを開発・提供し、見いだした中学生を継続的に育成する。
取り組みにあたっては、中学校教員も積極的に参画し、中学生の才能を見いだすとともに、学校外の取り組みを学校の学びとつなげ、地域の関係機関とともに体系的、継続的に育成する環境を整備します。
実施体制については以下の点を考慮し、地域の実情に即したシステムを構築します。
対象は原則として中学校および中等教育学校前期課程の生徒とし、私立の中学校からの参加も可能とします。また、例外的に特異な才能を発揮しつつある小学生も支援対象となることを可能とします。
参加者は、理数分野に卓越した意欲・能力を持つ子どもを見いだすという目的に沿って、実施主体の創意によって構成できるものとします。
中学校理科教員の役割として、以下に重点を置いた積極的な参加が望まれる。教員が参加しやすい環境を整備するため、教育委員会および学校の理解・協力が求められます。
取り組みは、以下の視点に重点を置き、既存の支援プログラムと連携(SSH・SPP・未来の科学者養成講座・科学部活動振興事業・サイエンスリーダーズキャンプなど)を図ることが望ましいです。
新設の全国研究発表会・競技会に本事業の取り組みに参加している子どもや教員が参加し、成果発表および交流機会の場として活用します。子どもたちが切磋琢磨し、才能が開花する機会となることが期待できるとともに、指導者の知見を共有し、才能を見いだす手法などを中学校理科教員が学び取る機会となることも期待しています。
本ワーキンググループで検討した活動例は以下の通りである。
※参加機関による活動は主に休日や長期休業中が想定されますが、科学部活動などを通じて継続的に行われることが望ましいです。