【用語説明】
偽遺伝子(Pseudogene)
 偽遺伝子とは、他の遺伝子座の既知の機能性遺伝子と配列構造がよく似ているが、生命活動を維持するための要となる蛋白質をつくる機能を失った遺伝子のこと。ヒトではマウスやイヌに比べて、匂い受容体偽遺伝子の数が多い。これが、ヒトがイヌなどに比べ匂い識別能力に劣る一因であると考えられている。

対立遺伝子(allele)
 相同染色体の同じ位置にある遺伝子のこと。子は、親二人からそれぞれの遺伝子(対立遺伝子)を受け継ぐ。

外来性遺伝子(transgene)
 自然に持つゲノムセットに加えて、遺伝子改変により新たに加えられた遺伝子のこと。

正の制御
 匂い受容体遺伝子の活性を制御しているDNA配列を知るため、マウスの匂い受容体遺伝子領域のDNAの配列をヒトの匂い受容体遺伝子領域のDNA配列と比較し、マウスとヒトの間で保存された配列を探索した。重要なDNA配列というのは進化上保存されることが多いので、このような比較ゲノム解析は遺伝子の制御DNA配列を探索するのに極めて有効である。比較の結果、上流領域に候補となるDNA配列が得られた。このDNA領域を遺伝子工学の手法で欠失した遺伝子組み換えマウスにおいては、この配列の近傍に存在する匂い受容体遺伝子の活性が消失しており、比較ゲノム解析の結果得られた配列が実際に匂い受容体遺伝子の活性を正に制御するDNA領域であることが判明した。これは、匂い受容体遺伝子の制御領域を同定した世界で最初の報告である。

負の制御
 嗅覚系における"1匂いセンサー、1受容体"ルールが保証されるためには、それぞれの匂いセンサー(細胞)において、上述の正の制御DNA領域による匂い受容体遺伝子の活性と共に1つを除き残りの約999種類の遺伝子の活性を抑制しておく必要がある。
 今回、遺伝子工学の手法を用いてDNAを改変した変異型の匂い受容体遺伝子や自然に存在する匂い受容体偽遺伝子では"1つの匂いセンサーに1種類の匂い受容体"のルールが破られることを発見し、匂い受容体産物が他の残りの匂い受容体遺伝子の活性を抑制している(負のフィードバック機構)ことを見出した。つまり、偶然一番乗りで活性し始めた最初の匂い受容体が残りの999個の匂い受容体遺伝子の活性を抑え込むことで1対1のルールが保証されていたのである。

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This page updated on October 31, 2003

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