JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第781号別紙2 > 研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」
別紙2

平成22年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「水生・海洋藻類等による石油代替等のバイオエネルギー創成及びエネルギー生産効率向上のためのゲノム解析技術・機能改変技術等を用いた成長速度制御や代謝経路構築等の基盤技術の創出」

研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

研究総括:松永 是(東京農工大学 理事・副学長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
朝山 宗彦 茨城大学 農学部 准教授 自己溶菌藻と発現ベクターを組み合せた有用物質生産・回収による排気COガス再利用資源化のための基盤技術創成 通常型 3年  シアノバクテリアABRG5-3は、増殖能が高く、光合成能の指標である光合成色素を細胞内に多く蓄積し、遺伝子操作も可能な新種株です。また培養条件に応じ「自己溶菌」します。本研究では、排気COガスを藻培養に用いた光合成産業への活用を視野に入れ、広域宿主で複製可能な藻発現ベクターによる有用物質の高効率生産ならびに自己溶菌藻利用を組み合せた生産物の画期的な簡便回収法開発に資する基盤研究を行います。
蘆田 弘樹 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 助教 バイオ燃料高生産のための炭素固定能を強化したスーパーシアノバクテリアの創成 通常型 3年  次世代バイオエネルギー生産生物として期待されるシアノバクテリアの光合成炭素固定能強化は、この生物のバイオ燃料生産性を向上させるために必須です。本研究では、光合成炭素固定酵素ルビスコとCO濃縮細胞小器官カルボキシソームの量的強化、外来性優良ルビスコ過剰発現により、炭素固定能を強化したスーパーシアノバクテリアの創成を目指します。このように創成するスーパーシアノバクテリアをエタノール高生産に応用します。
天尾 豊 大分大学 工学部 准教授 藻類由来光合成器官の電極デバイス化とバイオ燃料変換系への展開 通常型 5年  濃緑色単細胞微細藻類であるスピルリナの水中における効率的な酸素発生型光合成機能に着目し、スピルリナ由来の葉緑体あるいは光合成膜を固定した電極を用いて、水と二酸化炭素を作動媒体とし、太陽光エネルギーで発電しながら二酸化炭素を削減します。さらに低炭素燃料の代表でもあるメタノールを同時に生産できる革新的な光電変換系の構築を目指します。
小山内 崇 (独)理化学研究所 植物科学研究センター 基礎科学特別研究員 糖代謝ダイナミクス改変によるラン藻バイオプラスチックの増産 通常型 3年  バイオプラスチックは、石油由来のプラスチックに変わる素材として期待されていますが、製造コストの面から利用が限られています。本研究では、光合成細菌であるラン藻を用いて、生分解性ポリエステルであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の増産を試みます。特に、シグマ因子や転写制御因子に着目し、代謝ダイナミクスを改変したラン藻を作製し、安価で環境に優しいバイオプラスチック生産系の確立を目指します。
神田 英輝 (財)電力中央研究所 エネルギー技術研究所 主任研究員 乾燥・細胞壁破壊・有毒抽剤使用を不要にする藻類からの燃料抽出技術の創出 通常型 3年  従来の、微細藻類からのバイオ燃料製造技術では、多量の培養液を蒸発させたり、細胞壁を破壊したり、抽出するために、多くのエネルギーや有毒な薬品を要するなどの、環境負荷の問題がありました。本研究では、新たに液化ジメチルエーテルを抽剤に利用することで、乾燥・細胞壁破壊・有毒抽剤を不要とし、さらに水資源の再利用も可能な、『製造工程もクリーンで環境に優しい』微細藻類からのバイオ燃料の製造技術を創出します。
鞆 達也 東京理科大学 理学部教養学科 准教授 暗所で光合成を行う藻類の創生 通常型 3年  光合成は光エネルギーを利用して営まれる、生物の生存を支える根本的な反応です。酸素発生型の光合成は、可視光が利用されています。しかし、赤外光を用いて光合成を行うことが可能になれば、可視光の存在しない暗闇でも酸素発生型光合成を駆動でき、新たなエネルギーの創生につながります。本研究では、近赤外に吸収極大をもつクロロフィルを藻類の光化学系に組み込み、新規な光合成および生物の創生を目指します。
中村 友輝 マックス・プランク植物育種学研究所 植物発生生物学部 アレクサンダー・フォン・フンボルト財団リサーチフェロー 真核藻類のトリグリセリド代謝工学に関する基盤技術の開発 通常型 3年  本研究では、バイオディーゼルの原料となる油脂を、藻類を用いて大量生産する新技術の開発を目指します。まず、藻類が油脂をどのように合成・備蓄しているかを分子レベルで明らかにし、その知見をもとに新規の遺伝子改変法や分子デザインなどの工学的技術を駆使して、任意の質と量をもつ油脂を自在に生産する技術の確立を目標とします。
蓮沼 誠久 神戸大学 自然科学系先端融合研究環 講師 高増殖性微細藻の合成を目指した微細藻代謝フラックス制御機構の解明 通常型 3年  微細藻類は、光を利用してCOから糖質エネルギーを生産することが可能であり、水生であることから食糧や土地利用との競合を回避することができ、バイオエネルギー生産のための有望な生体システムと言えます。本研究では、微細藻の生体システムを制御する物質代謝機構を精密に解析できる新規代謝解析手法の開発により、増殖性を決定する因子を特定し、これを強化することで微細藻由来のエネルギー生産の向上を目指します。
日原 由香子 埼玉大学 大学院理工学研究科 准教授 グリコーゲンから油脂へ:シアノバクテリア変異株の代謝改変 通常型 3年  シアノバクテリアSynechocystis sp.PCC6803のSll0822転写因子欠損株では、細胞体積が野生株の5倍、細胞あたりのグリコーゲン蓄積量は野生株の10倍にも達します。本研究では、さまざまな酵素遺伝子を欠失・導入して、この株の代謝改変を行い、高蓄積しているグリコーゲンを、脂肪酸に変換し、最終的には油脂として蓄積させることを目指します。
本田 孝祐 大阪大学 大学院工学研究科 生命先端工学専攻 准教授 バイオマス高度利活用を志向した人工代謝システムの創出 通常型 3年  微生物の発酵機能を担う代謝酵素群を自由自在に組み合わせ、さまざまな化学品を生産できる人工代謝システムを開発します。この手法を用いて、第3世代バイオ燃料としての実用化が期待されるブタノールの生産に取り組み、これまでの発酵プロセスを圧倒的に凌駕する生産効率を達成することを目標とします。
増川 一 神奈川大学 光合成水素生産研究所 客員研究員 ラン藻の窒素固定酵素ニトロゲナーゼを利用した水素生産の高効率化・高速化 大挑戦型 3年  水素発生する生物の多くは低酸素濃度条件を必要としますが、一部のラン藻は、窒素固定反応の副産物として酸素存在下でも水素を生産できます。しかし、その水素生産性は現状では低いため、窒素固定酵素にアミノ酸置換による変異を導入し、酵素の水素生産活性を増強します。さらに、ラン藻を改良し、窒素固定酵素を酸素から保護する異型細胞の形成頻度を増やし、酸素存在下の水素生産性の大幅な向上を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:松永 是(東京農工大学 理事・副学長)

本研究領域では、藻類・水圏微生物の中に高い脂質・糖類蓄積能力や多様な炭化水素の産生能力、高い増殖能力を持つものがあることに着目し、これらのポテンシャルを生かした、バイオエネルギー創成のための革新的な基盤技術の創出を目指します。募集にあたっては、近年急速に発展したゲノミクス・プロテオミクス・メタボロミクス・細胞解析技術などを含む先端科学も活用し、藻類・水圏微生物の持つバイオエネルギーの生産などに有効な生理機能や代謝機構の解明を進めるとともに、それらを制御することによりエネルギー生産効率を向上させるための研究を対象とします。さらに、バイオエネルギー生産に付随する有用物質生産や水質浄化等に資する多様な技術の創出に関する研究も含みます。

将来のバイオエネルギー創成につながる革新的技術の実現に向けて、生物系、化学系、工学系などの幅広い分野から新たな発想で挑戦する研究を対象とします。

今年度発足した本領域の公募には、多岐にわたる分野の、20~50歳代の幅広い年齢層から計88件の応募がありました。選考は研究総括が11名の領域アドバイザーの協力のもとに行いました。まず、書類選考では各提案課題についてその課題内容に近い研究領域を専攻する領域アドバイザー3名ずつが査読を行い、それらの書面評価に基づき討議し、28件の課題について面接選考を行いました。選考に当たっては、応募者と利害関係にある評価者の関与を避け、他制度による助成とその対象課題にも留意し、公平な判断を心がけました。書類・面接選考では、研究構想の意義、研究計画の妥当性、準備状況と提案課題の実現性を考慮し、またさきがけの趣旨に照らして、研究課題とその実施体制の独立性、ならびに新課題への挑戦性を重視しました。選考の結果、通常型として研究期間5年型が1件、研究期間3年型が9件、大挑戦型(3年型)1件の計11件を採択しました。

今回採択できなかった提案にも優れたものが多数あり、選考は大変困難でした。研究内容や研究計画などに予備的な実験などを軸とした具体的な記述が不足しているという理由で採択されなかったものが、数多く見られました。本研究領域の趣旨を理解され、次年度に再度挑戦頂ければと思います。

本領域は、CRESTと一体的、統合的に研究を推進する体制で行います。研究の進捗に応じて、相互の研究成果の情報交換を密にし、両推進体制間におけるコラボレーション(研究協力)なども積極的に推進したいと考えています。来年度以降、多様な要素のうち、今年度の採択課題には欠けている分野からの提案、本領域の趣旨に賛同して新たにバイオエネルギー創成研究に参入を志す提案、これまでのバイオエネルギー創成研究に新しい視点を加えるような観点からの提案など、挑戦的な提案がさらに加えられていくことを期待します。