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別紙2

平成22年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等のナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出」

研究領域:「新物質科学と元素戦略」

研究総括:細野 秀雄(東京工業大学フロンティア研究センター/応用セラミックス研究所 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
阿部 英樹 (独)物質・材料研究機構 半導体材料センター 主任研究員 金属間化合物を活性点とする貴金属フリー排ガス清浄化触媒の開発 通常型 3年  本研究は、貴金属需要の過半を占める自動車排ガス触媒における貴金属元素の完全無使用化に挑戦します。第1に、貴金属元素を一切含まず、しかも貴金属と同等以上の排気ガス清浄化活性を発揮する触媒化合物を、触媒表面の電子状態と反応化学種吸着強度の相関を基にして探索します。第2に、独自開発のナノ粒子液相合成法によって触媒化合物ナノ粒子を合成し、自動車実装が可能な「貴金属フリー排ガス触媒」を実現します。
有田 亮太郎 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 非バルク的環境を活用した次世代材料の理論設計 通常型 3年  3次元的に一様でない非自明な環境(非バルク的環境)で実現する特異な電子状態を活用した理論物質設計を行います。計算は概念先行型の机上の空論ではなく、実験研究にその成果が直接還元されるように、すべて第一原理計算を基礎におき、対象物質・系の個性を忠実に反映したものにします。その中でクラーク数の高い、身の回りにありふれた元素だけから高い機能をもつ磁性材料、熱電材料などを実現させるという課題に挑戦します。
上野 和紀 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 助教 希少元素を含まない新規超伝導体の電場誘起キャリアドーピング法による開発 通常型 3年  液体窒素の沸点、77Kを越える温度で超伝導を示す高温超伝導体は物性物理学者の夢であり、産業応用の上でも重要です。最大160Kで超伝導を示す銅酸化物高温超伝導体は絶縁体に不純物元素を混ぜて超伝導体を作り出す「化学ドーピング」によって開発されました。本研究ではシリコンのトランジスタ技術を応用した新しい材料開発手法、「電場誘起ドーピング」によって材料探索の幅を広げ、新しい超伝導材料を実現します。
梅澤 直人 (独)物質・材料研究機構 光触媒材料センター 主任研究員 ユビキタス元素を用いた高活性光触媒の開発 通常型 3年  酸化チタンの性能をはるかに凌ぐ高活性光触媒をユビキタス元素のみを用いて開発し、太陽光エネルギーを利用したグリーン・イノベーションの達成を目的とします。バンド構造の制御、欠陥密度の低減、ナノ粒子凝集化、高活性表面の予測などの指針に沿って、限られた元素の組み合わせから光触媒活性を最大限に引き出せる材料を理論的に設計し、実験的に合成・評価します。戦略的に開発を進めることで、優れた材料の発見が強く期待されます。
遠藤 恆平 早稲田大学 高等研究所 助教 有機化学による擬元素創製へのアプローチ 大挑戦型 3年  地球上で一般的に扱える90にも満たない原子に強く依存する社会構造は、昨今のレアメタル問題にも見られるように、大きな歪みを生み始めています。原子という制約から、人間の手による元素創製へと展開することで、希少な資源に依存せざるをえない社会から脱却することが可能になります。原子同士の精密かつ自在な配列法の開発から元素機能の発現を目指すことで、より自由度の増した社会発展へと貢献することを目的としています。
岡崎 雅明 弘前大学 大学院理工学研究科 教授 動的四鉄反応場での不活性炭素資源の高効率変換 通常型 3年  これまで錯体触媒では、金属中心に高活性なレアメタルや貴金属が用いられ、望みの機能に応じて配位子を最適化することに軸足が置かれ、分子設計がなされてきました。本研究では鉄など普遍金属の高活性化に取り組みます。鉄を適切な位置関係で配置し集積化することで、多段階酸化還元能と併発する骨格構造変化に基づく機能を付与し、従来の普遍金属のイメージを刷新するような高活性反応場の構築に取り組みます。
小西 玄一 東京工業大学 大学院理工学研究科 准教授 新しい電子移動パラダイムに基づく有機触媒の創製 通常型 3年  可視光領域に吸収を持つ共役型ドナー・アクセプター連結系分子が、長寿命かつ強力な酸化還元力を持つ光触媒となることを発見しました。この触媒は、湿式色素増感太陽電池に用いられるルテニウム錯体並みの起電力を有し、活性種にも類似点が見られます。本研究では、この新しい有機触媒の化学を深化させるとともに、従来の金属錯体では不可能な有機触媒特有の反応の開発やナノ配向制御による新現象・新機能の創発を目指します。
佐藤 和則 大阪大学 大学院基礎工学研究科 特任准教授 ナノスピノダル分解による高効率太陽電池材料の設計 通常型 3年  本研究では、第一原理電子状態計算とモンテカルロ法およびフェーズフィールド法を用いて高効率太陽電池材料のマテリアルデザインを行います。ナノスケールで発現するスピノダル分解を利用して、半導体ナノ構造を空間配置と形状を制御した状態で自己組織化させる方法をデザインし、効率的な増感および電子-正孔輸送を行う高効率量子ドット増感太陽電池開発の指針を与えます。
中村 芳明 大阪大学 大学院基礎工学研究科 准教授 ユビキタス元素を用いた高性能熱電変換ナノ材料の創成 通常型 3年  未利用熱を電気エネルギーに変換する熱電材料においてレアメタルが使用されています。本研究は、高い電子状態密度を有する超高密度量子ドット(擬0次元系)と量子ドットミニバンド(1次元系)の結合系を利用することで熱電変換性能向上を図るというアイデアに基づき、シリサイド半導体の量子ドット結合系の作製技術を開発することで、高い熱電変換性能を有するレアメタルフリー熱電材料の創成を目指します。
一杉 太郎 東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 准教授 酸化物エレクトロニクスのパラダイムシフトを目指したアトムエンジニアリング 通常型 3年  本研究では、原子レベルでの構造作製/評価に立脚する酸化物薄膜物性研究を行います。特に、デバイス作製において大きな課題となっている、本来の機能が発現しないdead layerの要因解明と活性化に取り組みます。原子レベルでの薄膜物性解明とその積極的制御を通じて酸化物エレクトロニクスのパラダイムシフトを目指し、“新物質科学と元素戦略”に寄与していきます。
水口 将輝 東北大学 金属材料研究所 准教授 ナノ自己組織化を用いたスピン注入型超高効率熱電素子の開発 通常型 3年  エレクトロニクスの各種素子が微細化するのに伴い、その発熱の問題が深刻化しており、局所的な冷却が可能であるハイパワー冷却素子の開発が急務となっています。本研究では、原子レベルで立体的に位置制御した磁性ナノ細線を自己組織的に作製し、「スピン注入型超高効率熱電素子」の創製を目指します。これにより、安価かつ環境に優しい元素の組み合わせのみで、極めて小型で冷却・発熱能力の高い熱電素子の実現が可能になります。
守谷 誠 名古屋大学 エコトピア科学研究所 助教 イオン伝導パスを有する分子結晶電解質の創製 通常型 3年  固体電解質を用いる全固体電池は、電池の安全性とエネルギー密度を現行のリチウムイオン電池から飛躍的に向上させられる次世代電池として期待されています。本研究は入手容易な元素からなる有機分子を自己集積させることにより、革新的な固体電解質材料として「高速イオン伝導を可能にするイオン伝導パス」と「電極との密着性を向上させる適度な柔軟性」を併せ持つ分子結晶電解質を開発し、全固体電池の実現に貢献するものです。
山田 幾也 愛媛大学 大学院理工学研究科 助教 新規異常高原子価物質における革新的機能の開発 通常型 3年  本研究では、10万気圧・1000°C以上という超高圧高温条件を用いて、ユビキタス元素からなる新規物質を探索し、各元素が持つ潜在可能性を引き出すことを狙います。特に、異常高原子価イオンが秩序配列した結晶構造をターゲットとして、これまでに知られていない革新的機能の発現を目指し、機能材料開発における潜在可能性を広げることを目標とします。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:細野 秀雄(東京工業大学フロンティア研究センター/応用セラミックス研究所 教授)

総計228件の提案の応募の中から、書面審査により30名を選び、面接審査を行い13名(うち1名は大挑戦枠)の方を最終的に選考しました。具体的な選考方針を以下に示します。

  1. (1) 本領域の趣旨に沿った提案。
  2. (2) 改良よりも革新的研究。
  3. (3) 提案者自身の構想であることが明確なこと。
  4. (4) 提案を裏打ちする最低限の研究成果が得られていること。
  5. (5) さきがけに採用されることで、大きく成長できそうな人。

結果として、物性理論、無機電子材料、触媒・有機反応にフォーカスをおいた提案がバランスよく選ばれました。いずれも、意欲的な提案内容で、さきがけらしい新鮮な感性と大いなる野心を秘めた研究者です。選考された方は、これからが始まりです。元素戦略という大きな使命の達成に有効な新しい物質・材料科学を、伝統的な分野の壁を越えて、創っていって欲しいと思います。

提案の中には、研究実績や内容の優れたものが少なからずあったのですが、上記の5つの選考方針(特に1)と合致せずに、採択に至らなかったものがそれなりの数にのぼります。本領域は、平成23年と24年度にも募集をしますので、選考方針に鑑みて構想を練り直し、再挑戦して頂きたい。

今回は狭義の材料関係(金属、セラミックス、ポリマー)の研究者および女性研究者からの提案が、残念ながら採択に至りませんでした。長い歴史と蓄積のある分野から、従来の枠を打ち破るような力強い提案がなされることを強く希望しています。また、もっと多くの女性研究者からの提案が欲しいものです。その際に、留意頂きたい事項を、今年度の選考を通じて感じた点を含めて以下に記します。

  1. (1)細分化された領域でしかテーマ設定が理解できない提案ではなく、コンセプトやアプローチが明確で、隣の分野のエキスパートなら容易に大筋が理解できることが必要です。
  2. (2)提案内容に関する予備的な検討結果が必要です。全くのゼロからの挑戦的研究を3年間で行うという提案を採択してくれというのは明らかに無理です。
  3. (3)繰り返しになりますが、本領域の趣旨が求めているものをもう一度確認してください。

本領域では、単なる希少元素の代替や使用量低減を求めていません。あくまで、サイエンスに立脚した、これまでの伝統的な機能と元素の関係を超えようする意欲的な提案を求めています。