JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第781号別紙2 > 研究領域:「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」
別紙2

平成22年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「メニーコアをはじめとした超並列計算環境に必要となるシステム制御等のための基盤的ソフトウェア技術の創出」

研究領域:「ポストペタスケール高性能計算に資するシステムソフトウェア技術の創出」

研究総括:米澤 明憲(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
櫻井 鉄也 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 教授 ポストペタスケールに対応した階層モデルによる超並列固有値解析エンジンの開発  本研究では、ポストペタスケールアーキテクチャの特徴である階層的並列構造に対応した「超並列固有値解析エンジン」を開発します。本エンジンは、従来の固有値解法の問題点であるスケーラビリティと耐故障性を克服するために新しく構築するアルゴリズムに基づきます。これにより、先端理工学シミュレーションにおいてこれまで不可能であった規模の計算を実現し、広範な科学・産業分野での技術革新への可能性を拓きます。
建部 修見 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 准教授 ポストペタスケールデータインテンシブサイエンスのためのシステムソフトウェア  DNAシーケンサー、加速器などの実験装置の発展、シミュレーション規模の拡大に伴い、メモリには収まらない規模のデータ処理が必要となっています。しかし、現状の技術の延長では将来必要となる性能を得ることが困難と予想されています。本研究では、ポストペタスケール以降でも高い性能を発揮する分散ファイルシステム、OS、大規模データ処理実行基盤システムの研究開発を行います。ポストペタスケール時代に大規模データを処理するサイエンスの発展を促進します。
中島 研吾 東京大学 情報基盤センター 教授 自動チューニング機構を有するアプリケーション開発・実行環境  複雑化、大規模化するスーパーコンピュータ(スパコン)上でのプログラム開発とその安定な実行は困難な課題です。本研究では、計算機の専門家でない科学者や技術者がスパコン向けのさまざまなシミュレーションプログラムを容易に開発し、高速・安定に実行するための環境を開発します。異なるスパコンでも、自動チューニング機構によりプログラムの修正無しに最適な性能で安定に実行可能となります。本研究の成果は、スパコンを利用して新しい科学を開拓する人材の育成にも大いに貢献します。
堀 敦史 (独)理化学研究所 計算科学研究機構 研究員 メニーコア混在型並列計算機用基盤ソフトウェア  ポストペタスケールアーキテクチャとして汎用マルチコアとメニーコアを組み合わせたメニーコア混在型並列計算機を想定し、そこでのスケーラブルなシステムソフトウェアの研究開発を行います。汎用マルチコア上の汎用OSと協調するメニーコア上の軽量OSを開発し、メニーコア間およびマルチコア間での最適な通信機能、MPI-IOを含む高速なファイルI/0機能、超軽量スレッド、耐故障性機能を提供するシステムソフトウェアを実現します。
丸山 直也 東京工業大学 学術国際情報センター 助教 高性能・高生産性アプリケーションフレームワークによるポストペタスケール高性能計算の実現  ポストペタスケールに向けた最重要課題である「並列性の克服」、「信頼性」、「低消費電力化」の解決に大きく貢献する高生産性垂直統合型ソフトウェアスタックを研究します。スケーラブルマルチスレッド処理系を基盤とし、アプリケーションフレームワークとして、自動並列化、自動チューニング、耐故障性、電力最適化などの各種技術を透過的に実現します。主に流体シミュレーションおよび分子動力学法を対象として、将来のソフトウェアアーキテクチャの方向性づくりに大きく貢献します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:米澤 明憲(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)

理論、実験・観測に並ぶ科学技術の新しい方法論として、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーション(超大規模データからの情報抽出を含む)は、その重要性がますます高まっているとともに大きな期待を集めています。スーパーコンピュータの開発は、国際的に激しい競争下にあり、今後はハードウェアの性能のみならず、その実質的な性能を左右するシステムソフトウェアの機能や品質が極めて重要な技術となります。これからのスーパーコンピュータや大規模ストレージシステムは、そのシステムソフトウェアが死命を制するといっても過言ではありません。

このような背景をもとに、本研究領域は、次々世代(我が国のスーパーコンピュータ「京」の次の世代)あるいはそれ以降のスーパーコンピューティングに資する、システムソフトウェアやアプリケーション開発環境などの基盤技術の創出を目指しています。具体的には、2010年代半ば以降に多用される、メニーコア化された汎用型プロセッサや専用プロセッサ(現在GPGPUと呼ばれるものを含む)を用いて構成されるスーパーコンピュータの特徴を生かし、その上で実行されるアプリケーションを高効率・高信頼なものにするシステムソフトウェア(プログラミング言語、コンパイラ、ランタイムシステム、オペレーティングシステム、通信ミドルウェア、ファイルシステムなど)、アプリケーション開発支援システム、数値計算ライブラリー、超大規模データ処理システムソフトウェアなどに関する、実用性を見据えた研究開発を対象として、本年度より公募を行いました。

本研究領域では、この分野の我が国最気鋭の研究者11名を領域アドバイザーに迎え、アドバイザ-らの協力を得て、応募23件について厳正な選考を実施しました。書類選考で特に優れた評価を受けた研究課題11件について面接選考を行い、その結果、5件の研究課題を採択いたしました。選考にあたり、研究開発の新規性、技術的実現性、研究開発体制などの通常の基準の他に、有用性の高いシステムソフトウェアやライブラリーが産出されることを重視しました。また今回の選考で、年齢的に若くてもしっかりした研究実績とリーダーシップを持つ方が率いる研究課題を採択できたことは、この分野の発展にとって喜ばしいこととなりました。採択された5件の研究課題の内訳は、OS・ミドルウェア系1件、数値計算ライブラリー系1件、広域ファイルシステム系1件、アプリケーション開発プラットフォーム系2件、となりました。これらの研究課題が本研究領域で推進され、スーパーコンピューティング分野の飛躍的な発展に大きく貢献するものと期待しています。

来年度の研究課題の公募はまもなく始まりますが、今回採択できなかったプログラミング言語系の課題を含め多くの応募を期待しています。さらに、従来から当該分野で研究を進めて来られた研究者のみならず、スーパーコンピュータのアプリケーション分野、組み込みシステム分野、アーキテクチャ分野などの研究者が本研究領域に参加され、「システムソフトウェア」の研究に挑戦してくださることを期待しています。