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科学技術振興機構報 第775号

平成22年11月10日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

抄紙技術を応用した排ガス浄化装置の開発に成功
−これまでの半分の貴金属触媒で浄化−

(JST委託開発の成果)

JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「湿式抄紙製法による排ガス浄化装置」の開発結果を成功と認定しました。

この開発課題は、九州大学 大学院農学研究院 北岡 卓也 准教授と株式会社 エフ・シー・シーとの共同研究成果を基に、平成18年10月から平成22年7月にかけて株式会社 エフ・シー・シー(代表取締役社長 住田 四郎、本社住所 静岡県浜松市北区細江町中川7000番地の36、資本金41億円)に委託して、企業化開発(開発費 約4億円)を進めていたものです。

現在、環境問題の深刻化に伴い、自動車や自動二輪車などの内燃機関の排ガス規制が厳しさを増しており、この規制に対応するため排ガス浄化装置にはハニカム(蜂の巣)構造のセラミックスやステンレスに三元触媒注1)(白金、パラジウム、ロジウムの貴金属)をコーティングしたものが使用されています(図1)。一方、世界的に自動車や自動二輪車の生産は拡大の一途をたどり、それに伴い、触媒用の貴金属の使用量も増加しています。限られた資源である貴金属の使用量を減らすことは資源保護や安定供給の面から喫緊の課題となっています。

今回開発した排ガス浄化装置は、セラミックス粉末にパルプを加えた原料を、手すき和紙などを作るように紙のシート状にしてから(湿式抄紙製法注2))、巻き取ってハニカム状に成形・焼成し、パラジウムとロジウム触媒を加えたものです(図2図3)。この方法では、紙のように細孔をもつ多孔質体を形成できるため、多孔質の構造特性によって排ガスと触媒との接触機会が増えて、反応効率が高まることが期待されます。また、従来の貴金属触媒は高温で劣化し、浄化性能が低下する問題がありましたが、耐熱性の高いマグネトプランバイト注3)の表面にパラジウム・ロジウム触媒をのせ、ハニカム構造体にコーティングすることで、高温でも浄化性能を維持することが可能となりました。

その結果、白金を用いずに、さらに、これまでの約半分の貴金属量である25g/feet(0.88g/L)以下で、現在の世界基準である欧州自動二輪車の排ガス規制EURO3注4)をクリアすることができました。(一酸化炭素;2.0g/km、炭化水素;0.3g/km、窒素酸化物;0.15g/km以下)

この新技術を自動二輪車や汎用機などの排ガス浄化装置に用いることで、貴金属使用量を減らし、かつ大気汚染の抑制へつながります。また、水素製造触媒、光触媒などへの展開も期待されます。

独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「研究成果最適展開事業【A-STEP】」に発展的に再編しています。

詳細情報 http://www.jst.go.jp/a-step/

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 貴金属の使用量の少ない高効率な排ガス浄化装置が求められています。

従来、排ガス浄化装置は、ハニカム構造のセラミックスやステンレスに、貴金属である白金、ロジウム、パラジウムの三元触媒をコーティングして排ガス浄化を行っています。

近年、内燃機関である自動車や自動二輪車などの排ガスによる大気汚染が深刻化し、排ガス規制がますます強化されたことから、排ガス浄化装置は貴金属の触媒量を増やすことで性能向上が図られてきました。しかし一方、自動車や自動二輪車などは世界的に増加傾向にあり、これに伴い、触媒用の貴金属の使用量も増加しています。世界的に自動車や自動二輪車の生産は拡大の一途をたどり、それに伴い、触媒用の貴金属の使用量も増加しています。貴金属は枯渇資源であることから、貴金属の使用量の少ない高効率な排ガス浄化装置が求められています。

(内容) 安価で高効率な排ガス浄化装置を開発しました。

本新技術の排ガス浄化装置は、湿式抄紙製法によりセラミックスやパルプなどを主成分とする原料を用いてハニカム状に成形、焼成し、パラジウムとロジウム触媒を加えます。

従来の排ガス浄化装置とは異なり、基材となるハニカム構造体は、セラミック系繊維やパルプなどを主成分とした原料を、湿式抄紙して波形のコルゲート注5)状構造に成形したものを用います。この成形体を焼成するとパルプ成分が焼失し、すでに多孔質である紙構造体の細孔がより増加します。その結果、多孔質構造の特性によって排ガスと触媒との接触機会が増えて反応効率が高まると推測され、貴金属触媒の使用量を削減しても高効率な排ガス浄化が可能となります。

また、従来の貴金属触媒は高温で劣化し、浄化性能が低下する問題があったことから、高い温度条件でも安定した触媒活性を示す触媒を開発しました。具体的には、触媒担持体の多孔質アルミナの細孔内をマンガンとランタンを利用して、ポアフィリング法注6)図4)により表面に耐熱性のあるマグネトプランバイト型構造を構築し、パラジウムとロジウムを添加することで高い耐熱性を得ることができました。この高い耐熱性により、触媒の劣化の心配がなくなり、触媒量を低減することができました。さらに、焼成条件を検討することで実車に搭載可能な機械的強度が得られました。

その結果、パラジウムとロジウムを併せた貴金属担持量25g/feet(0.88g/L)以下の排ガス浄化触媒を自動二輪車に搭載して実走行試験を行った結果、排ガス浄化性能は排ガス規制EURO3(一酸化炭素;2.0g/km、炭化水素;0.3g/km、窒素酸化物;0.15g/km以下)をクリアしました。

(効果) 自動二輪車や汎用機などのエンジン排ガスの浄化触媒として普及することで大気汚染の抑制へつながります。

本新技術により得られる排ガス浄化装置の利点は以下の通りです。

  1. (1)使用する貴金属は、パラジウムとロジウムのみで白金を使用しない。
  2. (2)貴金属触媒の使用量を半分にすることができる。
  3. (3)排ガスの高い温度条件でも安定した触媒活性を示す。
  4. (4)セラミックス素材のため、粉砕が容易で貴金属触媒のリサイクル性に優れる。

以上の特徴を有するため、汎用機や自動二輪車などの排ガス浄化装置への普及が期待され、大気汚染の抑制へつながります。また、本新技術による紙特有の構造体は、水素製造触媒、光触媒などへの展開も期待されます。

<参考図>

図1

図1 従来の排ガス浄化装置

図2

図2 今回の開発における製造工程

図3

図3 今回の開発における排ガス浄化装置

図4

図4 ポアフィリング法による触媒の調製(模式図)

<用語解説>

注1) 三元触媒
排ガス中の窒素酸化物(NO)、炭化水素(HC)と一酸化炭素(CO)を同時に無害化する触媒のことをいう。白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などを用いた三元触媒は、燃料と空気が完全燃焼する理論空燃比(ガソリン1gに対して空気14.7g)において、排ガス中の上記3つの成分をほとんど完全に無害化できる。
注2) 湿式抄紙製法
湿式抄紙とは、植物に由来する繊維(パルプなど)のほかに種々の材料を水に分散させ、ろ過作用によってシート状に材料を成形することをいう。
注3) マグネトプランバイト(MPB)
六方晶型結晶構造を持つフェライト(酸化鉄を主成分とする磁性材料)の一種で耐熱性が高い。磁気遮蔽材などへの応用例がある。
注4) 排ガス規制EURO3
二輪車に対する欧州排ガス規制のことをいう。規定されたモードにしたがって二輪車を走行させ、その際に排出される1km走行あたりのガス量により規制される。
<排ガス規制値>
●排気量が150ccより多い場合
一酸化炭素;2.0g/km
炭化水素;0.3g/km
窒素酸化物;0.15g/km以下
●排気量が150cc以下の場合
一酸化炭素;2.0g/km
炭化水素;0.8g/km
窒素酸化物;0.15g/km以下
注5) コルゲート
ペーパーを波型に成形したのち平板と接着することで形成された積層材。
注6) ポアフィリング法
多孔質アルミナなどの触媒担体(貴金属触媒を表面にのせるもの)の微細な細孔(Pore)内に触媒成分を含んだ水溶液を充填(Filling)して乾燥させた後、所定の温度で焼成する触媒調製法の一種。これにより、表面をマグネトプランバイト構造とすることができる。

開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社 エフ・シー・シー
営業部 営業ブロック 小杉 敦郎(コスギ アツロウ)
経営企画室 森田 ―正(モリタ カズマサ)
〒431-1394 静岡県浜松市北区細江町中川7000番地の36
Tel:053-523-2400 Fax:053-523-2405

独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 産学連携展開部
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