科学技術振興機構報 第77号
平成16年6月2日
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完全3次元フォトニック結晶を用いて究極の発光制御に成功

 独立行政法人科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)と京都大学(総長:尾池和夫)は、戦略的創造研究推進事業および文部科学省プロジェクトで進めている研究において、完全3次元フォトニック結晶を用いて、物質における発光現象を根本から抑えたり、逆に特定部分で発光を強めたりする、究極の発光制御の可能性を世界で初めて実証することに成功した。この成果は、フォトニック結晶の概念が登場してから、長く待たれていたもので、同結晶のもつ応用可能性をさらに拡げるものと期待される。
 上記の成果は、京都大学大学院工学研究科電子工学専攻の野田進教授および同大大学院生小川新平等によって得られたもので、6月3日付(米国東部時間、日本では、6月4日)の米国科学誌「サイエンス」オンライン版(サイエンス・エクスプレス)で発表される。
<研究概要>
 光の波長程度の3次元的な周期的屈折率分布をもつ3次元フォトニック結晶においては、全ての方向に対して、光の伝播(存在)を禁止する「完全フォトニックバンドギャップ」が現れる。フォトニック結晶の概念が初めて登場した際に、最も注目を集めた概念は、「発光可能な物質であっても、その物質が3次元フォトニック結晶へ導入されると、完全フォトニックバンドギャップ効果により、その発光は根本から抑えられる。逆に、人為的に結晶の周期性を乱すと、その周期性の乱れの部分(欠陥)において、物質からの強い発光が可能となる」という発光現象の根本制御の可能性の示唆であった。この概念が、そもそも、フォトニック結晶に対する世界的な関心を集める契機となった。その後、様々な形でフォトニック結晶の研究が進められたが、これまで、上記の科学的に最も重要かつ興味深い概念は、実証されずに残っていた。今回の成果の最大のポイントは、当初から期待され続けたが、これまで実証し得なかったフォトニック結晶による究極の発光制御の可能性を実験的に実証したことにあり、今後、フォトニック結晶の応用可能性を大きく拡げるものと期待される。
 
<成果の具体的な説明>
1. 発光物質を含む3次元フォトニック結晶の開発
本研究で開発した3次元フォトニック結晶の構造模式図および電子顕微鏡写真を図1に示す。同図に示すように、3次元結晶は、半導体ストライプ(幅200nm、 厚さ200nm、 周期700nm)を交互に重ねた積層ストライプ構造をもち、光通信域(1.5μm域)にフォトニックバンドギャップをもつように設計されている。さらに、同図(A)、 (B)に示すように、結晶の中央部に、発光物質が導入されている。この発光物質は、光通信用として一般に用いられるInP/InGaAsP量子井戸構造であり、フォトニックバンドギャップに相当する1.5μm帯に発光波長をもつ。同結晶の近傍には、参照用としてフォトニック結晶構造をもたない発光層のみの領域も設けられている。
 野田教授等は、すでに2000年に、半導体材料GaAsを用いて、光通信波長域に完全バンドギャップをもつ3次元結晶の開発に成功していたが[米科学誌サイエンス2000/7/28号]、結晶の周期性を乱さないように、その内部に異種発光物質(ここでは、InP/InGaAsP量子井戸)を導入することが、大きな課題となっていた。今回、新たな結晶作製法を開発し、同図(C)の電子顕微鏡写真に示すように発光物質の導入に初めて成功した。作製した試料は、発光層を含め、全部で、5層および9層のストライプ積層構造をもつ。
2. 3次元フォトニック結晶による物質からの発光の抑制
まず、3次元フォトニック結晶の中央部に導入した発光物質を外部光により励起し、発光可能な状態へと導いた場合、フォトニック結晶がその物質に対し、どのような効果を及ぼすかを調べた。その際、フォトニック結晶中に埋め込まれた発光物質からの様々な方向への発光スペクトルを測定し、参照用に設けた物質単体の発光スペクトルで規格化し、フォトニック結晶の効果を明らかにした。図2にその結果を示す。同図(A)は5層積層結晶の結果を、同図(B)は9層積層結晶の結果を示す。同図(A)から分かるように、積層数が5層と比較的少ない場合であっても、幅広い波長域において発光が抑制されている様子が見て取れる。同図(B)のように、積層数が9層に増加すると、発光の抑制効果が顕著になり、特に、1.45〜1.6μm域では、最大、20dBもの発光の抑制が見られた。この波長域は、結晶のもつ完全フォトニックバンドギャップ域に対応し、発光の抑制量も計算結果と非常に良く一致した。以上の結果から、物質からの発光が、フォトニックバンドギャップ効果により抑制されうることが示されたと言える。ちなみに、物質の発光が完全バンドギャップ効果により抑制されるのは、バンドギャップ中では、光の存在が許されないため、いくら物質が発光しようとしても、その光を結晶自体が受け入れないからである。
3. 人為的欠陥導入による物質からの発光の誘発
 続いて、3次元結晶中に、人為的な欠陥の導入を試みた。図3(A)(B)に示すように、様々な大きさの欠陥(i)-(vii)の導入を行った。それぞれの欠陥部からの発光スペクトルと、欠陥がない完全結晶部の発光スペクトルを併せて、同図(C)に示す。同図から、欠陥部分では、完全結晶部と対照的に強い発光が見られることが分かる。また、欠陥の大きさが大きい(例えば(i)参照)場合は、幅広いスペクトルの発光を示すが、欠陥の大きさが小さくなるにつれ、発光のスペクトル幅が狭くなり、最も小さな欠陥(vii)になると、単一の狭いスペクトルが観察されるようになることが分かる。このことは、欠陥導入により、それぞれの欠陥に応じた発光可能な状態がバンドギャップ中に生成され、物質からの発光が強く起こるようになることを表している。
 以上の現象をより直接的に示すために、図3(B)の欠陥(iv)を例に、欠陥を中心としてフォトニック結晶の各所における発光をマッピング測定した結果を図4に示す。同図(A)、(B)は、それぞれ、観測波長を1.3μm(完全バンドギャップ外)、および1.55μm(完全バンドギャップ内)に設定した場合の結果を示す。同図(A)より、完全バンドギャップ外の観測波長では、完全結晶部、欠陥部の区別なく全体が発光している様子が分かる。一方、同図(B)みると、欠陥部分のみ発光し、完全結晶部では発光が抑制されている様子が見て取れる。この結果は、完全3次元フォトニック結晶により、物質からの発光が抑制され、一方、人為的な欠陥導入により、発光が可能になることを明確に示していると言える。
 
<まとめと今後の展開>
 以上により、フォトニック結晶を用いて、物質の発光現象までも根本から制御出来る可能性が示された。野田教授等は、これまでにも、フォトニック結晶により、光を様々に制御可能なことを示してきた。例えば、(a)光を微小欠陥共振器で捕獲し、自由空間への放出が可能なことの実証[英科学誌ネィチャー、2000/10/5号]、(b)極めて強い光閉じ込め効果をもつ光ナノ共振器の実現[同、2003/10/30 & 2004/5/13号]、(c)ヘテロ構造の概念の導入と光ナノデバイスへの展開[米科学誌サイエンス、2003/6/6号]、さらには、(d)2次元大面積のコヒーレント共振器の実現の可能性の実証[同、 2001/8/10号]など。今回、さらに、物質の発光過程までも、制御可能なことが示されたことから、フォトニック結晶を用いて、光の発生から、その各種の操作まで様々な光の制御を一環して行う、究極の光チップの実現へと、一歩近づいたと言える。もちろん、個別デバイスとしても様々に興味深い展開が可能となろう。例えば、電気を流すとすぐに発振を始める、所謂、零閾値レーザや、バンドギャップ効果により電子・正孔を励起状態に保持しておき、あるタイミングで一斉に再結合させるようなメモリー機能、さらには新たな非線形光学デバイスへの展開など、様々な展開が可能となろう。応用範囲は、IT分野のみならず、量子通信・コンピューティングなどの次世代通信・演算分野、バイオ、その他の様々な境界分野との融合なども加速されるものと思われる。
 
この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域: 電子・光子等の機能制御(研究総括:菅野 卓雄 東洋大学 理事長)
研究期間: 平成12年度〜平成17年度
 
図1
図2
図3
図4
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 本件問い合わせ先:
野田 進(のだ すすむ)
京都大学 大学院工学研究科 電子工学専攻
  〒615-8510 京都市西京区京都大学桂
  TEL:075-383-2315  FAX:075-383-2317

島田 昌(しまだ まさし)
独立行政法人科学技術振興機構 研究推進部 研究第一課
  〒332-0012 川口市本町4−1−8
  TEL:048-226-5635  FAX:048-226-1164
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