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資料2

研究領域の概要および研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業(ERATO型研究)
平成22年度発足

村田脂質活性構造(むらたししつかっせいこうぞう)プロジェクト

写真

【研究総括】村田 道雄(むらたみちお) 氏
(大阪大学 大学院理学研究科 教授)

研究領域「脂質活性構造」の概要

ヒトを構成する細胞の一つひとつは、外部と内部を隔てる膜に包まれています。この膜は脂質二重層と呼ばれる構造を取っており、構成成分の多くは脂質であることが知られています。細胞が生きていくためには、この膜を通して物質のやり取りを行う必要があり、その重要な役割はこの膜に存在する膜貫通タンパク質や、小さな穴を作る分子が担うことが研究されてきました。これらはいわば壁に取り付けられた窓の様なものです。しかし研究が進むにつれ、ただの壁だとひとくくりに考えられてきた脂質の中にはタンパク質と相互作用するなどで膜の性質を左右する重要な脂質分子があると分かってきました。そのため脂質は新薬創成のターゲット分子として注目され始めています。一方、この脂質の機能を詳細に解析するためには生体内で活性を保った状態の脂質の構造を調べる必要がありますが、タンパク質と相互作用している脂質の結晶化が困難であること、また極低温下での測定では常温下の姿を捉えられないことが従来のX線結晶構造解析法では解決できない問題となっています。

本研究領域は、脂質のNMR解析における感度の低さを克服し、脂質が生体膜中で活性を持つ状態の構造を解析します。さらにこの構造情報をもとに脂質の機能を解明することを目指します。NMR法では、H、13C、19Fといった磁気核の位置を測定することができますが、脂質はHやCを多く含むため測定した原子が分子全体のどこの位置にあるかの識別が困難であること、さらに天然に存在する脂質中の13Cの同位体含有率が、シグナルを与えない12Cの1%程度と非常に低いためどうしても感度が悪くなることが課題になっていました。そこで有機合成化学の手法を最大限に利用して13C、19Fといった標識元素を観察対象分子の特定の場所にあらかじめ導入するなど、信号を明確に観測するための新しい実験方法の開発を行うことで脂質の構造解析を可能にします。さらに得られた脂質の構造から、計算化学を駆使して膜タンパク質との相互作用を推定することで膜タンパク質の構造解析も目指します。これはあたかも窓枠の形から窓の形を予想するようなものであり、これまで構造決定が困難であった膜タンパク質の構造を知る新しい手法の創出となります。

本研究領域は脂質分子の構造解析を通じて、機能分子である膜脂質や膜タンパク質の構造や動態を解明するための学術的基盤を作ることを目指しており、戦略目標「生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出」に資するものと期待されます。

概要図

研究総括 村田 道雄 氏の略歴など

1.氏名(現職)  村田 道雄(むらた みちお)
(大阪大学 大学院理学研究科 教授) 52 歳
2.略歴
昭和58年 3月東北大学 大学院農学研究科 食料化学専攻 修士課程 修了
昭和58年 3月〜財団法人サントリー生物有機科学研究所 研究員
昭和60年11月〜東北大学 農学部 食料化学科 助手
昭和61年12月〜東北大学より学位取得(農学博士)
平成 元年10月〜平成 3年 3月米国国立衛生研究所(NIH) 博士客員研究員
平成 5年 2月〜東京大学 理学部 化学科 助教授
平成 5年 4月〜東京大学 大学院理学系研究科 化学科専攻 助教授
平成11年 4月〜大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授、現在に至る
3.研究分野 生物有機化学、天然物有機化学、NMR分光学
4.学会活動など
平成16年〜天然有機化合物討論会 世話人
平成18年〜日本化学会ディビジョン「天然物化学・生命科学」 幹事
平成19年〜核磁気共鳴学会 評議委員
5.業績  村田 道雄 氏は、かつて天然有機化合物、特に海産生物毒の構造決定を行ってきた。1989年にはシガトキシン、1996年にはマイトトキシンの構造決定に成功。マイトトキシンは、タンパク質や糖質以外で構造式が判明しているものの中では最大の天然有機化合物である(JACS, 1982)。これらの構造研究の過程で、フレキシブルな鎖状化合物の立体配座を決定するNMR手法を開発しJBCA法と命名した。この手法は、現在世界中で標準的に使われている。
 最近では抗生物質アンフォテリシンBが生体膜中に形成する自己会合体の構造解析を行っており、2008年には短寿命で検出できなかったアンフォテリシンBとコレステロールの相互作用を観測することに成功した(Biochemistry,2008)。
 現在も主として脂質膜に着目し、膜作用分子の合成を行いながら複合体構造解析などを中心に研究を行っている。
6.受賞など
平成 3年日本農芸化学会 奨励賞
平成19年日本化学会 学術賞