JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「知の創生と情報社会」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「多様で大規模な情報から『知識』を生産・活用するための基盤技術の創出」
研究領域:「知の創生と情報社会」
研究総括:中島 秀之(公立はこだて未来大学 学長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
梅谷 俊治 大阪大学 大学院情報科学研究科 准教授 問題構造の解析に基づく組合せ最適化アルゴリズムの自動構成 通常型 3年  産業や学術の幅広い分野において日々新たに生じる現実問題を解決する際に、適切なモデルとアルゴリズムを選択することは専門家でない利用者にとって困難な作業であり、これが組合せ最適化手法の普及を妨げる要因となっています。本研究では、入力データからアルゴリズムの性能向上に役立つ構造を発見して、問題の特徴に応じたアルゴリズムを自動的に構成する、知識発見手法に基づく新たな組合せ最適化手法の確立を目指します。
大武 美保子 東京大学 人工物工学研究センター 准教授 大規模会話データに基づく個別適合型認知活動支援 通常型 5年  本研究では、話すことと聞くことをバランスよく行う双方向会話を発生させる支援技術『共想法』を用いて大規模会話データを収集し、大規模会話データから認知的な特徴を抽出する技術を開発するとともに、得られた特徴に応じて一人ずつに最も効果的な認知活動支援を提供する技術を開発します。高齢者の認知機能維持向上に対し、会話による前向き介入が与える効果検証を目指します。
鹿島 久嗣 東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授 高精度でスケーラブルな多項関係予測の実現 通常型 3年  様々な分野において情報基盤が急速に整いつつある今、集められたデータを有効に活用するための解析技術、とりわけ、迅速で賢い意思決定を助ける予測技術の重要性が増しています。そして近年、予測の対象は、個々のデータから、より一般的な「データの間の関係」へと移行しつつあります。本研究では、「いつ誰が誰と何に何をする」などのヒト・モノ・コトの間の複雑に入り組んだ関係を高精度で予測する技術の実現を目指します。
河原 吉伸 大阪大学 産業科学研究所 助教 組合せ論的計算に基づく超高次元データからの知識発見 通常型 3年  著しいデータ取得技術の向上を背景に、様々な工学的問題において、数千~数十万次元といった極めて高次元なデータを扱う場面が増えています。本研究では、劣モジュラ性と呼ばれる離散構造を用いる事により、超高次元データにおいて、組合せ論的計算に基づく厳密な解析を実現するデータマイニング技術の基盤を構築します。そして遺伝子データ解析や自然言語処理などの諸問題へ適用し、新たな科学的・社会的知見の獲得を目指します。
バトラー アラステア 東北大学 高等教育開発推進センター 研究員 自然言語テクストの高精度で頑強な意味解析とその応用 通常型 3年  無制約の日本語および英語の自然言語テクストから高精度の形式的意味表示を自動的に得るための一般的な手法の確立と、その結果をデータベースとして推論のための世界知識の構築に生かす方法を開発します。頑強で正確な文の意味の解析により、テクストの含意の認識、検索、テクスト要約、自動応答、機械翻訳等、自然言語処理のすべての課題への貢献を目指します。
浜中 雅俊 筑波大学 大学院システム情報工学研究科 講師 計算論的メディア操作の形式化 通常型 3年  本研究では、メディアデザインの操作を束演算の組み合わせで表現することによって、専門家の操作の事例を蓄積し、それを再利用することを可能とするシステムを構築します。一般のユーザによるコンテンツ制作を容易にし、制作の楽しみを味わうアミューズメント性をもつだけでなく、プロのデザイナーにとっても生産性をあげる技術の一つとして貢献できるシステムを目指します。
山際 伸一 高知工科大学 情報学群 准教授 高性能ストリーム・コンピューティング環境の構築 通常型 3年  マイクロマシン技術の発展により、加速度センサや地磁気センサといった、ヒトの動きや行動を数値として記録することが可能になっています。映像を出力するイメージセンサも同様であり、ヒトの行動に周囲の環境を加味した解析が可能になっています。本研究では、ヒトの社会活動にリンクするセンサから時々刻々と生成される高精細なデータストリームから「知識」を生成するシステムの実現に向け、新しい計算基盤技術を確立します。
山崎 公俊 東京大学 IRT研究機構 特任助教 能動センシングによる日用柔軟物の情報知識化とその応用 通常型 3年  生活環境に存在する布などの柔軟物体に関して、自律ロボットがそれを能動的に操作したり、人が扱っている様子を観察するなどして対象情報を集め、衣類のしわなどに着目した特徴抽出を行い、一般化した知識として保存する方式を確立します。そして、その知識の有効利用法として、自律ロボットが生活環境下で布製品を発見し、その状態を認識しながら効率よく畳む行動などに適用します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:中島 秀之(公立はこだて未来大学 学長)

本「知の創生と情報社会」研究領域では、多様もしくは大規模なデータから、有用な情報である「知識」を生産し、社会で活用するための基盤的技術となる研究提案を募集しました。最終募集年度であることから、求めている提案をイメージできるように、「ネットワークに漂っているデータから、構造や機構を推定したり、情報を読み取ったり、実社会に読み取った情報を発信したりといった、社会との関わりのある提案」を歓迎する旨のメッセージを発信しました。また、3年型は「知の創生」の基盤技術や理論を開発するもの、5年型は実社会での適用や実運用のためのアプリケーションの開発など、「情報社会」での応用を目指すものという仕分けを行い、さらに、5年型はできれば「大挑戦型」として、可能性は高くないかもしれないが、成功した暁には実社会を変革するような画期的な成果が期待できるような挑戦的な提案の応募をお願いしました。その結果、昨年度より応募件数も大幅に増加し、また、レベルの高い提案が多かったと考えています。一方で、3年連続の募集ということでテーマが安定してきており、選考側がわくわくするような魅力のある提案の数が減っているようにも感じました。

本公募に対して、情報通信分野をはじめ、社会学やライフサイエンスなどさまざまな範囲に亘る研究分野から計78件の応募がありました。これらの研究提案を9名の領域アドバイザーのご協力を得て書類選考および面接選考を行い、通常型8件の提案を採択するに至りました。大挑戦型は1件推薦したものの、最終審査で不採択となりました。選考に際しては、これまでと同様、研究構想が本領域の趣旨に合っていること、特に、研究計画が高い独創性と新規性を有し、挑戦的であること、将来の実社会応用が期待できること、また提案者が明確な目的意識を有していることを重視するとともに、本研究領域の基本方針である研究者間の「コラボレーション」を促進することができるかどうかも重視し、厳正な審査を行いました。また、審査に当たっては、応募課題の利害関係者の審査への関与や、他制度の助成金等との関係も留意しました。

面接選考で採択されなかった提案、また書類選考の段階で面接選考の対象とならなかった提案の中にも、重要な提案や独自性の高い提案がいくつかありました。技術的な広がりや深みがやや不足しているもの、応募者の「こだわり」のため、提案にバイアスがかかっているもの等については、コメントやアドバイスを加えて不採択としました。本領域の募集は今回が最終回ですが、不採択となった提案の提案者につきましては、今回の不採択理由を踏まえて再度提案を練り直し、適切な領域を見つけ、是非とも再挑戦して頂きたいと思います。