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別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」
研究領域:「ナノシステムと機能創発」
研究総括:長田 義仁((独)理化学研究所 基幹研究所 副所長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
池内 真志 名古屋大学 大学院工学研究科 COE特任助教 膜マイクロマシニング技術を基盤とする共創的再生医療プラットフォームの構築 大挑戦型 5年  ポリマー薄膜による3次元マイクロ・ナノデバイスの作製技術「MeMEプロセス」(トップダウン)と、静電力と相分離現象を利用した「ナノファイバーカプセル」(ボトムアップ)の、2つの膜マイクロマシニング技術を融合・発展させます。幹細胞の分化、増殖をコントロールすると同時に、組織再生の時空間的ステージに応じて、自らの内部構造や誘導因子放出などの機能を更新できる、新概念の共創的再生医療用プラットフォームを開発します。
上野 貢生 北海道大学 電子科学研究所 准教授 ナノギャップ金属構造を利用した赤外・テラヘルツ光検出システム 通常型 3年  ナノギャップを有する金属ナノ構造を用いて、従来とは全く異なった原理で動作する赤外・テラヘルツ(THz)波を周波数選択的に検出する光センサーを構築することを目的とします。数nm以下のナノギャップ金属構造が示す高い光電場増強に基づく急峻な電場勾配を利用して、輻射力による高分子ゲルの体積相転移を誘起し、MEMS技術を利用した光の物理的計測方法を確立して赤外・テラヘルツ波の検出に応用します。
小寺 哲夫 東京工業大学 量子ナノエレクトロニクス研究センター 助教 ナノ半導体配列構造を用いた情報処理機能創製 通常型 3年  人工原子中のスピン間相互作用により情報処理機能を創発する新原理デバイスの動作実証を行います。この過程で、シリコンナノ構造を利用した初の量子情報処理素子の実現だけでなく、フラストレート系物理の解明も目指します。相互作用を制御可能な「人工原子フラストレート系」において、メモリー効果等の非平衡ダイナミクスを実現し、その動作原理を解明することで、次世代ナノシステムに必要な新物質作製の設計指針を与えます。
角南 寛 北海道大学 大学院先端生命科学研究院 研究員 三次元パターンを利用した新規細胞走性の開発 通常型 3年  本研究は、これまでに見出した細胞が三次元パターンのエッジを好んで強く接着する特性を用いて、三次元パターンのエッジを利用した遊走方向の制御技術を確立するものです。更に細胞が三次元パターンのエッジから受ける機械的なシグナルを時空間的に追跡し、新たな走性を発現するメカニズムの解明も行います。本技術は細胞診断や細胞分離技術などへの応用が期待されます。
千葉 大地 京都大学 化学研究所 助教 電界による磁化スイッチングの実現とナノスケールの磁気メモリの書込み手法への応用 通常型 3年  ハードディスクや研究開発が進む磁気メモリでは、微小磁石の磁化方向をスイッチさせて情報を記録しています。記録密度の向上に伴い、より省エネルギーな書込手法が求められています。本研究では、ナノ磁石に電界を印加することで磁化方向をダイレクトに制御し、外部からの磁界や電流の印加を必要としない、新たな磁化スイッチング手法を目指します。半導体と磁性体の技術を融合し、これまでにないアイデアを提案・実証していきます。
津田 行子 東京大学 生産技術研究所  特任助教 ボトムアップ組織形成術による生体組織システムの構築 通常型 3年  本研究では、細胞周辺環境を制御した三次元組織構築法を確立します。均一に制御されたマイクロゲルと細胞を構成要素として三次元組織を再構成します。さらに、三次元組織中に物質を能動的に供給しうる生体組織システムを構築し、細胞のリモデリングを促し再構成組織の機能創発を実現します。
藤内 謙光 大阪大学 大学院工学研究科 准教授 有機ナノクリスタルの発光プロセス変換による新規バイオイメージングシステムの開発 通常型 3年  本研究では、固相状態において化学刺激および物理刺激により動的に分子の凝集状態を変換し、発光プロセスを制御することによって劇的に発光挙動を変化させる、ダイナミック発光変調物質の開発を行います。この発光変調物質をナノクリスタル化し、有機情報伝達物質(生体低分子)が関与する生命機構の解明を目指した、新規バイオイメージングシステムの創製に挑戦します。
堂野 主税 大阪大学 産業科学研究所 助教 疎水領域を有する核酸を用いた機能創出 通常型 3年  遺伝をつかさどるDNAは、高精度な分子認識能と自己組織化能を有する機能性分子です。本研究では、細胞膜に代表される脂質二重膜のような疎水環境下において機能を発揮する、疎水領域をもつ人工DNAを創製します。疎水領域を有するDNAを用いて、脂質二重膜表面・膜内に精密に制御された微細構造を構築することにより、分子認識や膜間シグナル伝達など、脂質二重膜を舞台とする様々な機能を実現します。
長尾 祐樹 東北大学 大学院工学研究科 助教 ナノプロトニクス現象を利用した化学素子化燃料電池の開発 通常型 3年  本研究では、有機ポリマーの自己組織化だけでなく、3次元のマイクロメートルオーダー空間内において原子レベルの精度での分子配列・位置制御や異種機能性分子同士のピンポイント結合を利用したボトムアッププロセスとMEMSによるトップダウンプロセスを融合させます。独自に見い出すことができたプロトン伝導促進現象を利用した化学素子としてのナノプロトニクス燃料電池の開発を目指します。
生津 資大 兵庫県立大学 大学院工学研究科 准教授 発熱ナノカプセル粒子の鋳込成型体を用いた瞬間接着技術の創成 通常型 3年  本研究では、ナノ粒子生成のボトムアップ手法とMEMSプロセスのトップダウン手法とを融合させ、1秒未満で700℃相当の熱量を瞬間発生可能な発熱素材を創製し、これを熱源としたSiウェハの瞬間はんだ接着法の確立を目指します。Alナノ粒子にNiをナノコートしたAlNiナノカプセルを素材とし、本接着法により、ほぼ0Wのエネルギーでウェハを接着でき、低エネルギー・低コストな“エコ接着技術”としてCO2削減に貢献します。
早水 裕平 ワシントン大学 工学部 博士
研究員
機能性ペプチドを用いたナノシステムの創製 通常型 3年  近年のナノテクノロジーにおいて、バイオ・ナノ界面の制御は最も重要な研究課題のひとつです。本研究では、固体表面で特異的に自己組織化する機能性固体吸着ペプチドを用い、ナノ材料とバイオ材料の複合システムを構築します。ペプチドの精緻な設計に加え、トップダウン手法によって作製されるナノ材料テンプレート上で、ペプチドおよびバイオ材料の自己組織化を制御し、自律的に機能する新規ナノシステムの創製を目指します。
古海 誓一 (独)物質・材料研究機構 光材料センター 主任
研究員
3次元メゾスコピック・エンジニアリングによる有機アクティブレーザー光源の創出 通常型 3年  本研究では、数百nmのメゾスコピック3次元空間を制御して、次世代フォトニックシステムに繋がる新しい有機アクティブレーザー光源の研究を行います。微小粒子が自発的に3次元規則配列した集積体の中に、メゾスコピックな光学空間を高精度で加工できる3次元光リソグラフィー技術を確立し、局所的な内部電場増強や高効率レーザー発振を実証します。有機材料の特徴を最大限に引き出して、高性能で高効率なレーザー光源の創出を目指します。
宮内 雄平 京都大学 化学研究所 日本学術振興会特別研究員 量子ナノ構造近接相互作用により創発する先端光機能 通常型 3年  単層カーボンナノチューブ等の量子ナノ構造間の近接相互作用を利用して光物性を支配する励起子(エキシトン)ダイナミクスを巧みに制御することで、量子ナノ構造固有の光物性を超えた新たな先端光機能の創発を目指します。各種量子ナノ構造の複合化により、量子情報デバイスのための単一光子発生や超高効率太陽電池を可能にする光吸収増強、高効率マルチエキシトン生成等の革新的光機能を実現する新たな手法を開拓します。
山田 智明 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 特任助教 スマートセンシングのためのナノオブリック圧電体の創製 通常型 5年  本研究では、安全安心社会の構築に欠かせないスマートセンサーシステムを支える発電素子材料として、ナノオブリック(傾斜)構造化した新規圧電材料を創製します。結晶核のファセット構造を起点とする自己組織化したボトムアップ成長技術を用いて、圧電体が自立傾斜成長したナノ構造を実現し、従来より飛躍的に大きな機械-電気変換性能の実現を目指します。
吉田 浩之 大阪大学 大学院工学研究科 助教 液晶自己組織化にドライブされたスイッチャブル・メタマテリアルの創製 通常型 3年  液晶はディスプレイの代名詞と言えるほど私たちの社会に浸透していますが、最大の魅力は自発的配向能を有することです。本研究では液晶の自発的配向能を利用してナノ物質の3次元・大面積配列を行い、ナノ物質と液晶配向場の相互作用をナノ分解能顕微鏡により明らかにします。また液晶-ナノ物質複合媒質の光学応答を理論的・実験的に解析し、電場などの外場によりスイッチング可能なフォトニックメタマテリアルの実現を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:長田 義仁((独)理化学研究所 基幹研究所 副所長)

本研究領域は、ナノテクノロジーにおけるトップダウン手法の技術の高度化、精密なボトムアップ手法の駆使、あるいはそれらの手法の融合によって、要素の単なる総和や重ね合わせではない自律的、非線形的に新たな機能を生み出す(“創発する”)研究を推進し、次世代ナノシステムの構築を目指す挑戦的な研究を対象としています。

これらの研究を進めるために3年型と5年型の研究提案を公募しました。また、希望する応募者については昨年度から始まった「大挑戦型」研究としての審査も行いました。

今年度は本研究領域の公募最終年度でしたが、様々な分野の研究者から合計254件(3年型205件、5年型49件)もの応募がありました。この数は昨年の約1.4倍で2年連続の大幅な増加でした。応募数の増加は、本研究領域が今後の科学が進むべき方向を的確に捉えているとともに、数多くの若手研究者の要望に応え、広く注目されていることの現われであると思います。

254件の提案を正確に評価するため、15名の領域アドバイザーの他に8名の外部評価者のご協力を得て書類選考を行いました。提案書の審査に際しては、さきがけプログラムの趣旨にあるように、若手研究者らしい独自のそして挑戦的発想に基づく研究提案であるかどうかを重視しました。このような観点から厳正に審査した結果、254件の研究提案のうち38件(3年型30件、5年型8件)を面接対象としました。

そして面接選考では、提案者自身のアイデアによる独自の挑戦的内容であるかどうかに加えて、研究内容の科学性・発展性、提案者の問題意識と研究環境など、多面的な要素を公平かつ厳正に検討して審査しました。38件の面接選考の結果、3年型13件、5年型2件の合計15件(大挑戦型1件を含む)の提案が採択されるに至りました。(なお、大挑戦型の審査を希望した提案のうち、極めて創造性豊かで研究目標が達成された場合の波及効果が大きいと期待される3件を推薦しました。その結果、1件が大挑戦型として採択されることになりました。)

これら15件の研究提案は、いずれも上記の審査基準を満たし、新しい着想と意欲にみちた課題であると考えています。

なお、不採択提案の中にも挑戦的・意欲的で優れたものが多数ありました。しかし、採択数に限りがあるため残念ながら採択できませんでした。一方、研究のオリジナリティが明確でない、研究実施計画に問題がある、最終目標へ至る過程が十分検討されていない、他の手段との比較が不十分である、アイデアは良いが科学的検討が不足している、さらには、本研究領域の趣旨に合致しない、などの理由で採択に至らなかった提案もありました。これらの提案者には今回の問題点を踏まえて研究内容を練り直し、今後の研究をさらに発展させるよう助言したいと思います。

今年度採択された3期生が、既にさきがけ研究を進めている本研究領域の1期生・2期生とともに、独創的で画期的な研究を推進し、将来の科学技術の興隆に資するようアドバイザーの方々とともに助言、指導して参ります。