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別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開」
研究領域:「光の利用と物質材料・生命機能」
研究総括:増原 宏(奈良先端科学技術大学院大学 特任教授/台湾国立交通大学 講座教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
岩長 祐伸 (独)物質・材料研究機構 量子ドットセンター 主任
研究員
転送光学に基礎をおく超解像顕微鏡とメゾ機構のその場観察 通常型 3年  人工的に作るサブ波長構造体、すなわち、メタマテリアルにおける転送光学の手法を活用して超解像光学レンズを実現し、その超解像レンズを核心要素とする超解像光学顕微鏡を構築することを目指します。さらにその超解像顕微鏡を用いて、10ナノメートルから1マイクロメートル程度のメゾスコピックな空間スケールが鍵となる特長的な動的現象を厳選して、その場観察し、メカニズムを解明していきます。
江口 美陽 筑波大学 数理物質科学研究科 研究員 金属ナノ粒子配列におけるプラズモン特性の分子制御 通常型 3年  光によって金属ナノ粒子に誘起される局在表面プラズモンはナノ粒子内の電子の集団振動が原因です。そこで金属ナノ粒子配列を作製し、有機分子に近接させることで期待される電子的な相互作用とプラズモンの特性(プラズモン振動数・電場増強度・プラズモン状態の寿命など)への影響を観察し、プラズモンの長寿命化と長距離伝播の可能性を探索します。
江波 進一 カリフォルニア工科大学 環境科学・環境工学部 日本学術振興会海外特別研究員 大気中および生体中の界面光反応のその場計測 通常型 3年  超高感度分光法と新規質量分析法、さらに光分解用レーザーを組み合わせたこれまでにない界面光反応のその場計測装置を開発します。この手法で得られる情報は微小液滴の表面部分厚さ数オングストロームから数ナノメートルに存在する化学種のダイナミックな組成変化であり、これを用いて大気中および生体中で重要な役割を果たしている界面光反応の本質的解明を目指します。本研究が完成すると地球環境問題対策・健康影響評価の両方面で革新的な発展が見込まれます。
小阪田 泰子 スタンフォード大学 化学科 日本学術振興会海外特別研究員 光機能性量子ドットを用いた単一分子神経活動イメージング 通常型 3年  神経は、外界からの刺激などにより、常に機能的に変化を起こすことで生命の機能を維持しています。本研究では光スイッチ可能な量子ドットを開発し、光ナノ加工技術と一分子計測法と組み合わせ、光によるin vivoでのリアルタイム単一分子イメージングを可能にし、神経のネットワークを光により解き明かすことを目指します。
香月 浩之 自然科学研究機構 分子科学研究所 光分子科学研究領域 助教 凝縮系波動関数の時空間マニピュレーションとイメージング 通常型 3年  マクロスコピックな量子凝縮系を対象として、その量子状態の位相や振幅を光位相変調、波束干渉の手法により、二次元空間内で制御して読み出す技術を開発します。この技術を応用して、固体系を用いた量子情報処理や、固体中での励起子状態の時間・空間発展の様子をイメージングの手法によって可視化することを目標とします。様々な励起子の形態とデコヒーレンス過程について調べることで、量子性が失われる原因に迫ります。
岸本 哲夫 電気通信大学 先端領域教育研究センター 特任
准教授
連続発振原子波レーザーの開発と微細加工技術への応用 通常型 3年  本研究は、移動光格子技術を用いた全光学的手法によって連続的な高繰り返しのボース凝縮(BEC)生成法を実現することを目標としています。この手法が確立すると、真の連続運転型連続波原子レーザーそれ自身が研究の対象となるばかりでなく、原理的に複数原子種の同時捕獲が可能となるため、その汎用性は高い。また、応用の観点からは、原子レーザーの実現により、原子線描画技術のフラックスと分解能の飛躍的向上が期待されます。
小島 大輔 東京大学 大学院理学系研究科 講師 哺乳類のUV感覚にせまる光センサー蛋白質の機能解明 通常型 3年  太陽光線の紫外領域の成分(UV)は様々な動物種で環境情報として利用されますが、このような「UV感覚」はヒトでは見つかっていません。ところが私は最近、新たなUVセンサー蛋白質をマウスにおいて発見し、このUVセンサーがヒトでも機能する可能性を見出しました。そこで本研究提案では、この新規UVセンサー蛋白質がどのような生体機能に関与するかを調べることにより、哺乳類のUV感覚の生理的役割に迫ります。
是枝 聡肇 東北大学 大学院理学研究科 助教 光による熱の固有状態の創成と波動制御の実現 通常型 3年  「熱は拡散するもの」という常識に反して、ある種の結晶においては「熱の波動」、すなわち「熱の固有状態」が存在することがわかってきました。本研究では、レーザーを駆使することによって「熱の波動」のコヒーレントな励振を試みます。また、これを用いて物質における様々な素励起や相転移への劇的な変調を試みます。さらに究極的には「熱の共振器」の構築や、「熱のレーザー」の実現を目指していきたいと考えています。
佐藤 琢哉 東京大学 生産技術研究所 助教 フェムト秒光波制御による超高速コヒーレントスピン操作 通常型 3年  反強磁性体は一般にスピン歳差運動の周波数が数テラヘルツに達し、超高速スピン操作の可能性を秘めています。本研究では、反強磁性体に円偏光フェムト秒光パルスを照射することで、外部磁場や外部電場を必要としない高効率でテラヘルツクラスの相制御・光スイッチングを目的とします。また、任意に光波制御されたフェムト秒光パルスを用いて、磁性体のコヒーレントな超高速スピン操作・磁化反転を目指します。
東海林 篤 山梨大学 大学院医学工学総合研究部 助教 磁気光学効果を利用した光の伝搬特性制御 通常型 3年  数ミクロン程度の大きさの誘電体内部には内面を全反射して周回するような光の幾何学的共鳴状態があり、光電場が局在しています。一方、微小誘電体を周期的に並べたフォトニック結晶ではバンド端付近で光電場が局在し共鳴状態を形成しています。本研究ではこれら光電場の空間構造を磁気光学効果を用いて変調させ、『光の散乱の様子を変える散乱場特性制御』及び『光の伝搬方向を変化させる光の伝搬特性制御』を目指します。
高橋 優樹 サセックス大学 理工学部 博士
研究員
単一イオンと単一光子間の量子インタフェースの実現 通常型 3年  本研究の目標は、単一イオンと単一光子の量子状態の間の自在な変換を行う量子インタフェースを実現することです。光ファイバー共振器と一体となった画期的なイオントラップにより、イオン‐光子間の強結合が史上初めて達成されると考えられます。これにより非常に高性能な単一光子源や量子ネットワークの実現が可能となるだけでなく、イオントラップ研究と光科学そのものを仲介する要素技術が生まれることが期待されます。
高橋 文雄 東北大学 学際科学国際高等研究センター 研究教育支援者 広範な藻類のもつ転写因子型光受容体の機能解析とその応用 通常型 3年  水域の主な一次生産者である黄色植物から発見された転写因子型光受容体オーレオクロムを用い、その作用機構を解明します。また他の未解明の光受容体についても探索を行います。そして海産立国である日本における藻類の基礎的知見の検索および応用技術の革新に寄与します。
中川 秀彦 名古屋市立大学 大学院薬学研究科 准教授 二光子励起で発生させるガス状細胞情報伝達分子を駆使したストレス計測 通常型 3年  ガス状細胞情報伝達分子の1つである一酸化窒素(NO)と関連分子に着目し、細胞・組織中で作用位置・タイミングを精密に制御する手法を開発します。光照射依存的に、NOや関連分子を選択的かつオルガネラ特異的に発生する新規ドナー化合物と、パルスレーザーによる二光子励起の光特性を組み合わせ、精密な制御を実現します。この手法はNOの生物学進展に貢献し、関連疾患の治療法開発に結びつくことが期待できます。
Biju V・Pillai(ビジュ・ヴァスデヴァン) (独)産業技術総合研究所 健康工学研究部門 主任
研究員
光分解性バイモーダルナノパーティクルの開発と、がんの可視化と治療への応用 通常型 3年  ナノ粒子を応用すると、高効率でがんの検出と治療を実現できる可能性があることが知られています。しかし そのサイズが大きいため、体内の必要な場所に輸送する効率、および使用後、体外へ排泄する効率が悪いことが問題です。本提案ではこれらの問題を解決するために光を駆使します。すなわち、その場で光を用いて調製し、使用後は光分解できる新しい蛍光ナノ磁石を創製し、さらにこれをがんの選択的な可視化と治療に応用します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:増原 宏(奈良先端科学技術大学院大学 特任教授/台湾国立交通大学 講座教授)

本研究領域は、光との相関を新しい光源からさぐることにより、物質材料研究や生命科学研究の諸分野において、これまでにない革新技術の芽の創出を目指す研究を対象としています。具体的には、光源として高出力、超短パルス、超長波長のレーザー、放射光、極微弱光などさまざまな光を想定し、光の本質に迫る研究、光を使い尽くす研究、光でのみ可能になる合成・物性・機能の研究、光によって実現するプロセス、光が関わる細胞機能、光で解き明かされる生体機能、光でのみ制御できる生命機能、リアルな材料や生物を対象とした光計測法、イメージングなどの研究が含まれています。

本研究領域は平成20年度から発足したものですが、本年も素粒子論に関係した実験からヒト中心体の機構解明まで、物理、光学、化学、材料、生物、薬学、農学などの分野から多岐にわたる応募をいただきました。その数は199件に上り、光科学技術に寄せる期待がますます大きくなっていることを感じました。応募者の研究機関としては大学が圧倒的ですが、そのうち9件が海外の大学から、45件が研究所その他からの提案でした。英文による提案書は2件で、日本の研究機関にお勤めの外国人の方によるものです。なお女性の応募者は少なく14件でした。

これらの多くの研究提案に対し、13名の領域アドバイザーの協力を得て厳正な書類選考を実施し、研究提案32件について面接選考を行いました。審査に当たっては、サイエンスあるいはテクノロジーとしての評価、光科学技術としてのポテンシャル、さきがけ研究としての新規性や独創性、個人研究の意味を十分検討しました。最終的には光の革新的利用に関する新領域の新しいリーダーを発掘したいという想いも込め、3年の通常型研究を14件採択することにしました。結果として倍率は14.2倍となりました。採択された提案は優れた内容の、ユニークな研究であり、チャレンジ度も高く、本研究領域の趣旨を具体的に実現しようとしているものです。原子波レーザー、熱のレーザー、単一イオン、UV感覚、藻類の光受容体などのキーワードが印象的で、20、21年度に採択した課題とあわせ、「光の利用」の研究領域をさらに広げることが出来ました。

光科学技術の研究は、材料の性質や生命機能の測定、材料・デバイス・チップなどの作製にきわめて有効ですが、それにとどまらず新しい物質システム、生命機能を生み出すメカニズムに関する概念や次世代の科学技術の発想を与えます。本年までの3年間に採択したメンバーとともに、この光科学技術の特徴を踏まえた、5年から10年後の新しい光科学技術の流れを生み出す努力を行ってまいります。