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別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

さきがけ

戦略目標:「人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出」
研究領域:「情報環境と人」
研究総括:石田 亨(京都大学 大学院情報学研究科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究型 研究
期間
研究課題概要
荒牧 英治 東京大学 知の構造化センター 特任講師 自然言語処理による診断支援技術の開発 通常型 5年  近年、カルテの電子化やインターネットに接続可能な医療機器により大量の医療データの収集/利用が可能となっており、これらを活用することで、将来的には高度な診断支援や遠隔医療が実現可能であるとして大きな期待がよせられています。しかし、現状では、大量のデータ処理を人手に頼るしかなく、情報処理技術による支援が望まれています。以上の背景のもと、本研究では、診療記録や患者コメントといった医療テキストを対象にそこから臨床情報を抽出する技術を研究開発します。
井ノ口 宗成 新潟大学 災害復興科学センター 特任助教 迅速な災害対応のための空間を用いた情報統合技術の確立 通常型 3年  災害現場では消防や警察等の機関が個別の目的で情報を収集するため、対応者は目視確認による情報統合を行なっています。このため全体的な状況把握が遅れ、迅速な対応が阻害されています。本研究では、異なる質の情報を空間的に統合する目視確認過程を空間オントロジーとしてモデル化し、位置情報を情報集約のキーとした情報統合技術、及びそれを支える基盤を実現します。本研究成果は、異分野の知見統合の基盤技術となります。
大澤 博隆 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 特任
研究員
擬人化を利用した人間の認知能力補助インタフェースの開発 通常型 3年  本研究では、複雑な機器・環境情報を、擬人化表現を介して理解可能な形に翻訳する、認知補助擬人化インタフェースを開発します。人間は年齢・文化に関わらず、形状・動作・反応時間などの表出をトリガーとして、外界の環境に対し対話者を投影する先天的な特性を持っています。本研究では、環境に対しセンサやアクチュエータを部分的・選択的に取りつけ、この特性を促進します。環境情報や状態遷移などを、人間の認知能力に収まる範囲で伝えることを目指しています。
城戸 隆 (株)理研ジェネシス バイオインフォマティクス部 マネージャ 遺伝子解析と人工知能技術を用いたパーソナルゲノム情報環境の提案と評価 大挑戦型 5年  遺伝子解析と人工知能技術に基づく、画期的な遺伝子情報サービスの基盤技術構築を目指します。特に、レイティングシステムによって蓄積された個人属性と遺伝子情報との関連性をもとに、より信頼性の高い遺伝子リスクを予測するための計算モデルを構築し、さらに遺伝子リスク知識が人々に与える影響を評価します。個人のゲノム情報から病気のリスクや個性を予測したり、病気の原因解明、新たな科学発見につながる技術です。
駒谷 和範 名古屋大学 大学院工学研究科 准教授 発話行動の階層的理解に基づく相互適応型音声インタラクション 通常型 3年  本研究では、人間とシステムが相互に適応できる音声インタラクションの実現を目指します。使いやすい音声対話インタフェースを実現するには、システムが個々のユーザに適応するとともに、システムの能力をユーザに伝える枠組みも必要になります。音声インタラクション中に現れる様々な発話現象を包括的に捉えることにより、柔軟な音声対話戦略の実現に取り組みます。
高野 渉 東京大学 大学院情報理工学系研究科 講師 行動の記号化を基盤とした身振り・言語を通じてコミュニケーションするロボットの知能設計 通常型 3年  環境を含んだ身体運動情報の記号と自然言語を結び付ける数理モデルを構築することによって、身振り手振りや言語を用いて人間とコミュニケーションするロボットの知能を設計します。人間の言動の大規模なデータを記号・言語の統計的ネットワークとして学習します。人間の傍らにいるロボットが人間の言動を知覚・理解・深読みしながら、運動を伴うタスクを協調して行う支援、適切な情報を提供する支援の実現を目指します。
舘 知宏 東京大学 大学院総合文化研究科 助教 物理ベースデザインのためのインタラクティブ情報環境の構築 大挑戦型 3年  本研究では、折紙構造や張力構造のように、部材の物理的性質を最大限に利用した物理ベースデザインをパーソナルなものづくりに展開することを目的とし、そのためのインタラクティブな情報環境を構築します。物理的拘束とデザイン条件の双方を満たすデザイン空間でのインタラクションを通じて、専門的知識が無くても使えるシステムを目指します。さらに、ものづくりの専門家や研究者の知識やノウハウを直感的な形で利用可能とします。
塚田 浩二 お茶の水女子大学 お茶大アカデミックプロダクション 特任助教 実世界コンテンツを創造/活用するためのミドルウェア 通常型 3年  実世界の身近な生活環境には多様なコンテンツが溢れていますが、それらをWebサービスに代表される情報環境のコンテンツと同じように活用することは容易ではありません。また、生活空間では情報環境よりはるかに多様な利用状況が存在するため、コンテンツを適切な手段で提示することも困難です。そこで本研究では、生活環境において多様なコンテンツを手軽に創造/活用するためのミドルウェアを構築します。
寺田 努 神戸大学 大学院工学研究科 准教授 実世界指向ユーザインタフェース実現のための動作認識基盤の確立 通常型 5年  本研究では、実世界における人とコンピュータとの自然なインタラクションを実現するために、ユーザの状況や動作を高度に理解し、それをユーザインタフェースに応用するための基盤技術を確立します。人間の複合動作の分解や、即時性を高めた動作認識などの要素技術により、実世界において認識技術をインタフェースに適用する場合に生じる問題を解決したシステムプラットフォームを構築します。
中澤 篤志 大阪大学 サイバーメディアセンター 講師 広領域・非装着型視線検出技術の開発 通常型 3年  視線検出は現代・次世代の情報環境を構築するために重要かつ必須な技術です。しかし従来のシステムは、実験室環境での使用が想定されているため、視線検出の対象領域は限られており、被験者に特殊なデバイスを装着する必要がありました。本研究では実生活シーン等を対象にし、特殊なセンサを装着せず高精度な視線検出を実現するシステムを開発します。基本的なアイデアは、時空間のパターン光をプロジェクタで環境に投影し、その眼球上での反射光をカメラで検出し解析するというものです。
三木 則尚 慶應義塾大学 理工学部 専任講師 人刺激・計測MEMSを用いた効果的な環境知能伝達方法の開発 通常型 5年  環境知能の実現により、人が有益な情報をリアルタイムかつオンサイトに享受できるようになります。本研究では、環境知能伝達の有効性を評価するためのプラットフォームを、人を刺激する触覚ディスプレイ、またその応答を行動および認知レベルで計測する透過型眼鏡式視線検出システム、フレキシブル脳波計測電極などの人刺激・計測MEMSを新たに開発することにより構築し、これを用いて効果的な環境知能伝達方法を開発します。
森嶋 厚行 筑波大学 図書館情報メディア研究科 准教授 人と計算機の知の融合のためのプログラミング言語と開発環境 通常型 3年  本研究では、ソーシャル・ヒューマンコンピュテーション系ソフトウェア等を含む、人と計算機が共に適切に働くことが必要なデータ指向ソフトウェアを迅速に開発するためのプログラミング言語・環境の研究を行います。人をゲームに従って動く"合理的情報源"とモデル化し、プログラムの明示的な構成要素とする事により、人と計算機を一つのシステムとみなしたアドホックでないプログラミングを実現する技術基盤の確立に挑戦します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:石田 亨(京都大学 大学院情報学研究科 教授)

本研究領域は、人とのインタラクションが本質的な知的機能の先端研究を行い、その成果を情報環境で共有可能なサービスの形で提供し、さらに研究領域内外の他のサービスとのネットワーキングにより複合的な知能を形成していくことを目指しています。本年度は106件の応募がありました。まず、12名の領域アドバイザーが分担して各申請の書類査読を行い、51件(申請全体の1/2)を選定しました。次に、領域アドバイザーが一堂に会して議論を行い、26件(申請全体の1/4)を面接対象としました。2日間にわたる面接の結果、最終的に12件を採択しました。

本年度も多くの応募をいただき感謝しています。採択に至らなかったテーマの中にも魅力的なものが数多くありました。来年度に向けて計画を練り直し、情報環境と人に関わるスケールの大きいプランをまとめていただくことを期待しています。なお、当初予定していた知的機能のネットワーキングに関する研究は採択に至りませんでした。本領域の目標達成に関わるテーマですので、来年度に向けて準備を頂ければと思います。