JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「社会的ニーズの高い課題の解決へ向けた数学/数理科学研究によるブレークスルーの探索(幅広い科学技術の研究分野との協働を軸として)」
研究領域:「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」
研究総括:西浦 廉政(北海道大学 電子科学研究所 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
安生 健一 (株)オー・エル・エム・デジタル 研究開発部門 デジタルエフェクト/R&D スーパーバイザー デジタル映像数学の構築と表現技術の革新  コンピュータグラフィックスに代表されるデジタル映像の応用は拡大の一途をたどっています。本研究は、作りやすさや効率を重視しつつ、従来よりさらに豊かな表現力を持つ映像の制作を可能にするために、デジタル映像表現を対象とする新たな数学分野形成の礎を築くことを目指します。特に、人間の動作や表情と流体の表現に焦点をあて、これらの映像表現の数学的特徴づけと、作り手の意図をより的確に反映できる数学モデルの構築を推進します。
坂上 貴之 北海道大学 大学院理学研究院 教授 渦・境界相互作用が創出するパラダイムシフト  現代の効率的デザインである流線形の翼にとって剥離した「渦」は流れを乱し効率を落とす厄介者ですが、逆に羽ばたきで自らの周囲に渦を抱え飛翔する昆虫にとっては必須です。そこで本研究では、渦の生成と剥離および物体との相互作用の数学と計算科学を展開し、「渦・境界相互作用」をキーコンセプトに生命・環境等の諸分野へ機動的に進出し、協働研究を進め、流線形に代わる高効率かつ自然に調和した新デザインコンセプトの提案を目指します。
水藤 寛 岡山大学 大学院環境学研究科 教授 放射線医学と数理科学の協働による高度臨床診断の実現  本研究では、数理モデルやシミュレーション技術、統計処理、逆解析などの集合体としての意志決定支援ツールの構築を通して、臨床医療の高度化に寄与していきます。一方、現実問題からの要請に応じて数学の各分野が研究深化の方向性を新たに見出すという展開は、数学自身の発展にも大きく寄与するものです。このように本研究は、臨床医療と数理科学双方の発展と、それによる社会への貢献を目標とするものです。
杉原 厚吉 明治大学 研究・知財戦略機構 教授 計算錯覚学の構築 --- 錯視の数理モデリングとその応用  人の錯視現象の数理モデリングを通して、錯視の仕組みを理解し、錯視効果を数量化し、その錯視量を制御する方法を開発します。そして、錯視量の最小化によって認識しやすい環境を作り、安全性の向上に役立てるとともに、錯視量の最大化によって新しい表現法を提供し、文化的豊かさの向上に役立てます。さらに、この活動を通して、知覚・認識の解明を支える柔軟でロバストな数理モデリング手法とそれを解析する計算理論を構築します。
長山 雅晴 金沢大学 理工研究域 教授 生理学と協働した数理科学による皮膚疾患機構の解明  皮膚表面にある角層はバリア機能と呼ばれる人体にとって非常に重要な機能を担っており、多くの皮膚疾患ではこのバリア機能の低下が見られます。生理学との協働により「実験検証に耐えうる皮膚ダイナミクスモデル」を構築することによって、生理学実験と数理科学の両面から皮膚バリア機能の仕組みを解明し、バリア機能低下を伴う皮膚疾患の発病機構の解明とその病態改善法の提案を行うことを目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:西浦 廉政(北海道大学 電子科学研究所 教授)

本研究領域は、数学研究者が社会的ニーズの高い課題の解決を目指して、諸分野の研究者と協働し、ブレークスルーの探索を行う研究を対象とするものです。

数学は全科学を推進してゆく最も大きな駆動力であると同時に、多くの国民に理解され、身近なものとして歩んでゆかなくてはなりません。そのためにこれまで以上に諸分野とつながる開かれた重要な知として大きな期待が寄せられています。とりわけ「孤立した知からつながる知」を切り開く先駆的研究は次世代の数学を形成するひとつの契機となると考えられます。そのために諸分野の研究対象である自然現象や社会現象に対し、数学的手法を応用するだけではなく、それらの数学的研究を通じて新しい数学的概念・方法論の提案を行うなど、数学と諸分野との双方向的研究を重視する研究が対象となります。

平成22年度のCRESTの数学領域では上のような姿勢を保持しながら、人類が抱える多くの困難かつ複雑な諸問題の解決を目指す研究を積極的に取り上げる事にしました。医療問題や環境・エネルギー問題のいずれにおいてもこれまでの単純な原因―結果図式で理解することは困難です。数学的方法論は多少時間がかかろうとも、そのような問題に対し、最終的に合意形成に至る道筋をつけることができるほぼ唯一の基礎学問と考えられます。

この本研究領域の基本的な考えを応募者に伝えるため、これまで日本数学会総合分科会において説明会を開催するとともにホームページにおいても情報を公開しました。

その結果、数学のみならず、他分野を専攻する研究者からの提案も含め昨年度を超える合計37件の応募があり、10名の領域アドバイザーとともに書類選考を行い、11件の面接課題を選び、最終的に5件の提案を採択しました。選考に当たっては、研究提案が数学と諸分野との連携を格段に進めるものであること、研究代表者がリーダーシップを十分に発揮し、期間内に一定の成果が十分期待できるもの、生み出される成果が並置的でなく、提案全体として強いメッセージを持つものを重視しました。結果として7倍を越える難関となり、採択されなかった提案においても優れたものが多くありましたが、本研究領域の趣旨及び上記の観点から不採択とせざるを得ませんでした。本領域の募集は今年度で終了となりますが、「数学でつながる知」のネットワークを築き、今後の社会の発展に貢献してゆく所存です。