JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの創製」
研究領域:「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
研究総括:曽根 純一((独)物質・材料研究機構 理事)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
齊藤 英治 東北大学 金属材料研究所 教授 スピン流による熱・電気・動力ナノインテグレーションの創出  スピントロニクスとナノマシニング技術の融合により、電気・熱・動力の間の量子力学的な変換を実現する新しいテクノロジー体系を構築します。ナノスケールでは電子の自転の流れ「スピン流」を介した電子や原子核間の多様な相互作用が存在することが明らかになっています。これらの相互作用をナノスケールで融合させることで、量子力学の原理で駆動する発電や動力駆動、熱エネルギー変換を実現させます。
野地 博行 東京大学 大学院工学研究科 教授 生体分子1分子デジタル計数デバイスの開発  本研究では、超微小溶液チャンバーやナノブラウン振動子計測技術を活用し、1個のウィルス粒子や1分子の各種疾病マーカー分子を簡便に検出する「生体分子1分子デジタル計数法」を確立します。これらの計測法をCMOSイメージングチップ技術と統合することで、携帯可能で安価な検出システムも開発します。これによって各疾病の超早期段階における検出や、インフルエンザなどのパンデミックの水際阻止などを可能にします。
樋口 昌芳 (独)物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 独立研究者/グループリーダー エレクトロクロミック型カラー電子ペーパー  省エネルギーと省資源に寄与する次世代ディスプレイの実現を目的として、RGBと無色を表現できる革新的エレクトロクロミック(電気で色が変わる)材料の創製と、それを用いたカラー電子ペーパーの開発を行います。エレクトロクロミック機能を示す新物質である有機/金属ハイブリッドポリマーの電子・光物性を解明し、未踏の学問領域を開拓するとともに、プロセスインテグレーションによるデバイス製造へと連続的に研究を展開します。
山元 公寿 東京工業大学 資源化学研究所 教授 新金属ナノ粒子の創成を目指したメタロシステムの確立  本研究では、我々独自の金属精密集積法を駆使し、金属元素の原子数や配合比を精密かつ自在に制御して、従来に無い精密なサブナノサイズの金属、半導体、酸化物、多元素合金などの新しい金属微粒子、いわゆる量子サイズの「新金属ナノ粒子」を組み上げるメタロシステムを世界にさきがけ創成します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:曽根 純一((独)物質・材料研究機構 理事)

本研究領域の戦略目標は、プロセスインテグレーションにより革新的な機能を有するナノシステムを創製することにあります。提案に当たっては材料に関する科学的知識、プロセスに関する融合的な基盤技術が必要なだけでなく、ナノシステムとしての応用展開をしっかり見据える必要があり、提案は容易ではないと想像します。本研究領域の最終募集となる今回は、ナノシステムとしてのイノベーションを引き起こそうとする挑戦的、意欲的な提案が64件も集まりました。これまで3回の募集を行いましたが、提案数は、32件、48件、64件と、大幅に増えてきており、この研究領域の盛り上がりを感じます。今回は最終年度ということもあり、予算の関係から採択件数を4件と絞らざるを得ず、競争率16倍の激戦となりました。そのため、優れた提案でありながら採択できなかった案件も多く、まさに後ろ髪を引かれる思いの選考となりました。提案は、原子・分子・DNA操作、バイオ・医療応用、マイクロ流路・MEMS、CNT・グラフェン応用、スピントロニクス応用、エレクトロニクス・フォトニクス応用、エネルギー・環境応用など、非常に多岐の分野にわたっています。今回の募集では若手からの意欲的な提案を期待する旨のメッセージを事前に発信しましたが、それを反映して若手からの提案が多かったのも特徴です。これらの提案に対し、上記分野をカバーできる11名の領域アドバイザーと共に、書類選考、面接選考を行い、触媒応用などを目指した原子の精密操作、医療応用を目指した生体分子の超高感度計測、スピンの新たな制御法による新物理開拓、新たな金属・有機ハイブリッドポリマーによるディスプレー・エネルギー応用の計4件を採択しました。いずれも独創性の高い挑戦的な提案ばかりです。本研究領域では、ナノシステムとして新しい融合分野の開拓を目指しており、必然的にカバーする分野も広く、選考は容易ではないですが、最終的には、
(1) 新しい技術分野、学問分野を拓く可能性、あるいは社会に大きな影響を与える産業応用につながる可能性を秘めているか
(2) 上記の可能性につながる独創的なアイデア、それを具現化できる保有技術、エビデンスデータはあるか
を評価基準としました。

今年度、新政権による日本の新成長戦略が発表されました。日本が世界に伍していき、世界を先導していくために、グリーンイノベーションとライフイノベーションにより、社会の喫緊のニーズに応え、科学技術立国を目指そうとするものです。ナノテクノロジーは物質科学をベースにして分野融合的な発想でこれら両イノベーションの牽引役となることが期待されています。当研究領域におけるこれまで3回の採択課題を、今、改めて見直してみると、まさにこれら両イノベーションの創出に真正面から取り組んでいるものばかりです。採択が完了した今後は、採択テーマ間連携、グローバル展開、死の谷を越える産業化等を通じて研究の加速を図り、上記の社会からの期待に少しでも応えていきたいと考えています。