JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「最先端レーザー等の新しい光を用いた物質材料科学、生命科学など先端科学のイノベーションへの展開」
研究領域:「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
研究総括:伊藤 正(大阪大学 ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任教授・副センター長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
大森 賢治 自然科学研究機構 分子科学研究所 研究主幹/教授 アト秒精度の凝縮系コヒーレント制御  物質の量子波を光で制御する技術をコヒーレント制御と呼びます。本研究では、世界最高レベルのアト秒ピコメートル精度の時空間コヒーレント制御法と光格子中の極低温原子分子結晶を組み合わせた新しい固体量子シミュレーターを開発します。また、そこで得られた固体結晶系の量子波の観測制御スキームを実在の固体に適用することによって、世界に先駆けて凝縮系のコヒーレント制御の実現を目指します。
尾松 孝茂 千葉大学 大学院融合科学研究科 教授 トポロジカル光波の全角運動量による新規ナノ構造・物性の創出  光波の「全角運動量」は新しい光パラメータで、光波面のトポロジカルな構造に由来する軌道角運動量と偏光に由来するスピン角運動量の量子力学的ベクトル和で与えられます。本研究では、光波の「全角運動量」が物質の新しいナノ構造や物性を創出することから、極限レーザー工学を用いて、光波の「全角運動量」を自在に操り、物質のナノ構造・物性の極限的新機能を創出することを目指します。
小林 孝嘉 電気通信大学 先端超高速レーザー研究センター 特任教授 高性能レーザーによる細胞光イメージング・光制御と光損傷機構の解明  超高安定性・空間コヒーレンス・スペクトル域コヒーレンス・時間域コヒーレンス・極小サテライト強度を有する超分解能多色レーザー顕微鏡を開発します。生体・細胞を構成する多種の蛋白・シグナル分子の相互作用を空間(<50nm)時間(秒)分解し、さらに積極的に超高分解光刺激により生理過程を細胞内に局所的にトリガーし同時に観察して機構を解明します。これにより、発癌・記憶・免疫・光毒機構を解明する手法の確立を目指します。
山内 和人 大阪大学 大学院工学研究科 教授 コヒーレントX線による走査透過X線顕微鏡システムの構築と分析科学への応用  放射光X線の優れた性能を最大限に活用可能とするアダプティブな集光光学系を世界に先駆けて開発し、顕微鏡システムへと展開します。本光学系は、コヒーレントX線の波面を制御することで、損失無しで自由自在にX線のビームサイズをマイクロからナノレベルまで変えることができます。これを用いて、電子密度分布のナノスケール分析と、元素、化学結合状態の分析機能を併せ持つ走査・透過X線顕微鏡システムの構築を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:伊藤 正(大阪大学 ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任教授・副センター長)

本研究領域は、物質・材料、加工・計測、情報・通信、環境・エネルギー、ライフサイエンスなどの異なる分野で個別に行われている光利用研究開発ポテンシャルの連携、融合を加速し、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進することで、実用化や波及効果の大きな技術シーズを生み出すと共に、光源開発にもフィードバックをかける役割を担います。そのために、高度な性能をもつ最先端レーザーに代表される各種の先端光源をブラックボックス化することなく、光源の特徴を徹底的に駆使した特色ある「物質と光の係わり」に関する研究を推進します。光技術のニーズが明確であれば、未踏波長の開拓や位相・出力・パルス幅等を精密に制御する技術開発が含まれた研究も対象とします。また、医療・環境など人類にとって差し迫った難題解決に最先端レーザー科学・技術を導入駆使することでブレークスルーを生み出す利用研究も対象とするものです。

平成22年度は、53件の応募がありました。「物質と光の係わり」に関する光科学・技術の幅広い適用を反映して、その内容は、光波制御、医学・生命科学応用、放射光複合利用、量子情報、光物性、光化学、光加工、光計測、新規光源開発など極めて多岐に亘りました。

今年度の選考においては、研究総括、領域アドバイザー11名で、「物質と光の係わり」に関する光科学・光技術の利用と開発研究を主体的に推進する本研究領域の趣旨に沿っているか、国際レベルをリードする研究であるか、当該テーマでオリジナリティを発揮しているか、5年間で明確な進歩目標が提示されているか、研究実施体制は真に有機的に連携・統括されているか、異分野にも波及するものか、息の長い技術シーズを生み出すものか、産業的、社会的ニーズにどのように繋がるか、といった様々な観点で評価を行いました。書類選考により12件の提案を選択し、面接選考により上記の4件の提案を採択しました。面接選考にあたっては、研究提案者の提案内容と関係が深いテーマでの他の研究費の取得状況や内容の棲み分け等を勘案して質疑応答を行いました。

その結果、アト秒精度の凝縮系コヒーレント制御、トポロジカル光波の全角運動量による新規ナノ構造・物性の創出、高性能レーザーによる細胞光イメージング・光制御と光損傷機構の解明、コヒーレントX線による走査透過X線顕微鏡システムの構築と分析科学への応用、を各々目指す提案を採択しました。いずれも光源の究極的利用、「物質と光の係わり」に新局面を開くもの、光技術応用として極めて挑戦的なものです。予算規模は種別Iが3件、種別Ⅱが1件でした。

今年度の多岐に亘る提案を見ると優れたものが多くあり、不採択となった課題の中には採択課題に匹敵する内容の提案もありましたが、光源利用の構想としては優れているもののその実現性や「物質と光の係わり」への具体性や新規性の際だった説明が不十分なもの、研究実績は十分であるが研究提案者の主体性と共同研究者の必要性の関係でCREST研究体制に適していないもの、本CREST研究領域の趣旨に沿って他の助成金との切り分けを明確に行う説得力に欠けるなどの点で一歩及びませんでした。

本CRESTでは、3年間にわたり16件の多彩な課題を採択しましたが、これら課題の当初目標に沿った、あるいはそれを上回る研究展開に努力すると共に、残念ながら採択できなかった多くの優れた研究のさらなる発展を祈念しつつ、今後の光科学・技術の融合展開への大いなる貢献を期待するものです。 なお、本研究領域の運営にあたっては、文部科学省の「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」による新しい光源・計測法等の研究開発や人材育成、先端光源ユーザー開拓活動等と連携し、研究の一層の発展を図ります。