JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「細胞リプログラミングに立脚した幹細胞作製・制御による革新的医療基盤技術の創出」
研究領域:「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」
研究総括:須田 年生(慶應義塾大学 医学部 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
家田 真樹 慶應義塾大学 医学部 助教 直接リプログラミングによる心筋細胞誘導の確立と臨床への応用  心臓病は死亡原因の上位を占め再生医療など新しい治療法の開発が望まれています。心筋細胞は再生能力がなく、心臓再生医療では幹細胞が期待されていますが、分化誘導効率、腫瘍形成、細胞生着などの点に問題があります。もし、心臓内の線維芽細胞を直接心筋細胞に転換できれば、これらの問題を解決し得ます。本研究チームはマウスの予備実験で3遺伝子導入により心線維芽細胞から心筋細胞への直接分化転換を確認しており、本研究ではさらに検討を進め、最終的には臨床応用を目指します。
黒川 峰夫 東京大学 大学院医学系研究科 教授 iPS細胞を用いた造血器腫瘍の病態解明と治療法の探索  本研究では、従来十分な数を得ることが難しかった患者由来の白血病細胞をiPS細胞化し、必要に応じて増幅・利用可能で、がん研究に広く活用できる生きた疾患細胞バンクの実現を目指します。これらの白血病iPS細胞を血液細胞へ分化誘導し、今まで困難であったゲノム・エピゲノム・プロテオーム解析や薬剤感受性試験などを行い、新たな治療標的分子を同定します。これをもとに分子標的薬の探索を行い、革新的治療法の開発を目指します。
花園 豊 自治医科大学 分子病態治療研究センター 教授 ヒトiPS細胞の高品質化とその検証・応用  ヒトとマウスのiPS細胞では、その状態が大きく異なることがわかってきました。マウスiPS細胞の方がヒトiPS細胞よりナイーブで基底状態に近いのです。マウス以外の動物(サル・ブタ等)のiPS細胞もヒトのものに近い状態とされます。そこで、ヒトやサルやブタのiPS細胞を基底状態にもちこみ、高品質化を図るのが本研究の目的です。高品質化すれば何が可能となるのか、応用例(単細胞培養や相同組換えや動物発生工学等)も示す予定です。
宮島 篤 東京大学 分子細胞生物学研究所 教授 肝分化指向性iPS細胞からの高機能性肝組織の構築  成体肝臓の機能を備えた肝細胞は再生医療、創薬研究、肝疾患メカニズム解明などへの広範な用途が期待されます。本研究では、肝実質細胞と肝非実質細胞とを適切に三次元的に配置した高機能肝組織構築法の開発を行います。さらに、内胚葉組織から肝細胞への分化指向性が高いヒトiPS細胞を樹立して肝細胞へ分化誘導し、肝非実質細胞とともにこの三次元肝組織構築系に適用することで、iPS細胞由来の高機能肝組織の構築を目指します。
山村 研一 熊本大学 生命資源研究・支援センター 教授 iPS細胞による肝臓ヒト化モデルの構築と治療実験  ヒトiPS細胞から誘導したヒト肝細胞の有用性と安全性をin vivoで検証するため、1)ヒト肝細胞移植に最適な「ヒト化最適マウス」の樹立、2)ヒト肝細胞移植による「肝臓ヒト化モデル」の樹立、3)ヒト遺伝性疾患の患者より樹立したiPS細胞からのヒト変異肝細胞の誘導とその移植による「変異肝臓ヒト化マウス」の樹立、4)病態解析による検証と治療法開発のための「病態モデル」の開発を行います。
吉田 稔 (独)理化学研究所 基幹研究所 ケミカルゲノミクス研究グループ グループディレクター 核エピゲノムとミトコンドリアゲノムの化学的制御とその応用  細胞の初期化と分化のプロセスにおいてヒストン修飾を中心とする核ゲノムのエピジェネティクスが重要です。また、ミトコンドリアゲノムでは高頻度で変異が蓄積し、それらは老化や疾患に関わっています。iPS細胞を用いた再生医療を目指すとき、核とミトコンドリアゲノムの双方がリプログラミングされることが理想的です。本研究チームはこれらを制御する活性化合物によって細胞の初期化や分化の効率を高める技術の開発を目指します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:須田 年生(慶應義塾大学 医学部 教授)

本研究領域は、iPS細胞を基軸とした細胞リプログラミング技術の開発に基づき、当該技術の高度化・簡便化を始めとして、疾患発症機構の解明、新規治療戦略、疾患の早期発見などの革新的医療に資する基盤技術の構築を目指す研究を対象としています。20年度、21年度の2回の課題採択を行い、これまでに総計17の研究チームによって研究が推進されています。

本年度は本研究領域として課題募集を行う最終年度でしたが、37件の提案が寄せられました。これまでの年度と比べると提案数は減少しましたが、iPS細胞に関する研究として、より具体的な予備的実験データや仮説が盛り込まれた提案の割合は増加しました。

提案数が少なくなったとはいえ、ハイレベルの研究提案の中から採択課題を精選するということで、選考にはこれまで同様に困難を伴いましたが、領域アドバイザーの協力を得て書類選考を行い、12課題に対して面接選考を行いました。結果として、6課題の採択に至りました。採択課題の内容は、より初期状態に近いiPS細胞作製の検証、疾患由来iPS細胞を用いた病態研究、iPS細胞を用いた肝細胞誘導・肝組織構築研究やモデル動物の創出、心筋細胞へのダイレクトリプログラミング研究などとなっています。これまでの採択課題に比べると、実際にiPS細胞の技術をどのように応用していくかをターゲットとした課題が多くなりました。国際的に激しい競争が行われている分野ではありますが、いずれも研究レベルの高い内容であり、将来のiPS細胞の応用にとっても重要な基礎研究が進められると考えています。

今年度で本研究領域の課題採択は終了しますが、今後は採択した研究チームの進める研究の進展により、新たなブレークスルーが生み出されることを期待しつつ、積極的な情報交換などを行い、参加メンバーと協力して運営していきたいと考えています。