JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「気候変動等により深刻化する水問題を緩和し持続可能な水利用を実現する革新的技術の創出」
研究領域:「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」
研究総括:大垣 眞一郎((独)国立環境研究所 理事長)
副研究総括:依田 幹雄((株)日立製作所 情報制御システム社 技術主管)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
池田 宰 宇都宮大学 大学院工学研究科 教授 ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による革新的な水処理微生物制御技術の開発  ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による革新的な水処理技術を開発します。新たに開発するナノ素材を用いて微生物のコミュニケーション機能を制御することにより、まったく新しい微生物制御技術を確立します。この技術を下水処理や膜処理で問題となるバイオファウリング対策やバイオフィルムの制御などに応用し、高効率な水処理の実現を目指します。
伊藤 禎彦 京都大学 大学院地球環境学堂 教授 都市地下帯水層を利用した高度リスク管理型水再利用システムの構築  将来到来する気候変動にともなう水量・水質変動の激化に対し適応するために、地下での水質変換過程を取り込んだ都市内水循環利用システムを研究します。すなわち、都市下水を、地下浸透に適した水へ変換し、地下水涵養と地下環境中での水質浄化を目的として地下浸透を行い、さらに水道原水として利用するシステムを構築します。本研究では、特に地下浸透プロセスに着目し、受入可能な水質条件、地下での水質変換過程、水循環システムとしての持続可能性の検討などを行います。定量的微生物リスク評価と微量汚染物質の高感度モニタリングにより水質リスクを高度管理する管理型地下浸透プロセスの技術的成立要件も提示します。
小松 登志子 埼玉大学 大学院理工学研究科 教授 地圏熱エネルギー利用を考慮した地下水管理手法の開発  地球温暖化やヒートアイランド現象の影響による浅層地下水の温度上昇、さらにはヒートポンプシステムの実用化などに伴う地圏の熱環境撹乱は、地下水保全や地圏生態系に影響を与える恐れがあります。本研究では、地圏の熱環境の変化が地下物質循環や微生物生態系に及ぼす影響を考慮した環境アセスメントツールを構築するとともに、持続的で高度な地下水利用・管理指針手法を開発します。
澁澤 栄 東京農工大学 大学院農学研究科 教授 超節水精密農業技術の開発  農業用水の利用効率を格段に高めるため、作物吸水により発生するわずかな根圏域水圧差を利用した作物吸水ニーズ適応型の超節水精密農業技術を開発します。具体的には、根域の精密水分観測技術、オンラインリアルタイム負圧差潅漑技術、使用水の再生・循環システム、作物吸水ニーズ評価方法を開発し、省エネルギー・超節水型の植物工場モデルの確立を目指します。本技術は乾燥地等での節水農業への応用が期待できます。
嶋田 純 熊本大学 大学院自然科学研究科 教授 地域水循環機構を踏まえた地下水持続利用システムの構築  地球温暖化や人口増加により地球規模での水資源は不足しており、その安定供給のために持続可能な地下水利用システムを早急に構築する必要があります。本研究では、地下水管理の先進地域である熊本地域を研究フィールドとして、帯水層構造とその循環機構に基づく流域地下水の水量管理手法、硝酸性窒素汚染による水質負荷の軽減や原位置浄化技術、生物モニタリング手法など、水量・水質両面からの管理を踏まえた持続的地下水利用システムの開発を行います。
三宅 亮 広島大学 ナノデバイス・バイオ融合科学研究所 教授 モデルベースによる水循環系スマート水質モニタリング網構築技術の開発  安全安心な水供給のためには、水循環系での水質を多点できめ細かくモニタ・管理する、IT利用スマートモニタリング網構築が望まれます。そのために、水質モニタ内部のマイクロ流体要素(μ-fluidics)レベルから、モニタを多点配置したシステムに至るまで、動作予測・評価が可能な、ミクロからマクロまで統合したHILS(Hardware In the Loop Simulator)によるモデルベース型の開発環境基盤を構築します。またこれを用いて各種のオンサイト設置型水質モニタを開発します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:大垣 眞一郎((独)国立環境研究所 理事長)
副研究総括:依田 幹雄((株)日立製作所 情報制御システム社 技術主管)

本研究領域は、現在の、あるいは、気候変動などによって将来さらに深刻化すると予想される国内外の様々な水利用の課題を解決するために、物理的・社会的な水利用システムの創出を目指します。革新的な水処理技術や水資源管理システムによって、水供給、排出、再利用、資源回収における、水の質と量の統合的な最適化を行い、エネルギー、コスト、環境負荷、健康・環境への安全性、地域社会の状況などの観点からもっとも合理的で持続可能な水資源の利用システムを、研究領域全体として提起することを目的としています。また、実社会への適用性を十分に配慮した研究展開をはかります。

2年目となる今回の選考では、従来の方法論などにとらわれない革新的な理論、技術、システムについて、焦点を絞った研究課題の提案を期待しました。1年目にも増して、幅広い研究提案書が申請されました。具体的には、総合的な流域管理、水利用の方法論、節水型農業、地下水の諸課題、水再生利用、さまざまな水浄化技術、などであり、水の課題の広さと深さを改めて認識させられるものとなりました。しかしながら、一部の提案は、焦点が絞られておらず、本領域の「水利用を実現する革新的な技術とシステムの創出」という目的にそぐわないため、採択には至りませんでした。

本研究領域では、研究総括、副研究総括に加え、関連の多様な分野の専門家である領域アドバイザー9名にご協力いただき、採択課題の選考を行いました。さらに、医学健康分野からの提案については、医師でもある国立環境研究所・環境健康研究領域長の高野裕久氏に外部評価者として選考に加わっていただきました。その結果、応募の27件を対象に、書類選考により面接選考対象として11件を選び、最終的に6件を採択といたしました。提案課題が多岐にわたり、かつさまざまな革新的な方法論に基づく研究が提案されていましたので、競争の厳しい選考となりました。

選考の結果、採択されました研究内容は、地下水関連が2件、水の再利用が1件、節水型農業が1件、水質モニタリング技術1件、水処理微生物関連技術1件となりました。未解明で挑戦的な内容の課題も含まれており、革新的な成果が出ることが期待されます。また、昨年度採択されてすでに進行している研究チームが扱っていない課題や、すでに進行中の研究チームと相互に協力して研究推進が図れる新しい課題なども含めることができました。領域全体としての研究の厚みがさらに増すものと期待しております。

本領域の選考は来年度が最後となりますが、持続可能な水利用を実現するための革新的な技術とシステムについて焦点を絞った研究課題の提案を期待しております。