JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第754号別紙2 > 研究領域:「共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」
別紙2

平成22年度(第1期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出」
研究領域:「共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」
研究総括:東倉 洋一(国立情報学研究所 副所長・教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
石黒 浩 (株)国際電気通信基礎技術研究所 知能ロボティクス研究所 客員室長 人の存在を伝達する携帯型遠隔操作アンドロイドの研究開発 本研究は、何時でも何処でも人間の存在を伝達することができる通信手段として、携帯電話サイズの遠隔操作型アンドロイド「ジェミノイド携帯」を実現します。これによりユーザは遠隔地に自らの存在を送り、遠隔地にいる対話相手はユーザの存在を目の前に感じながら人と話すように対話できるようになります。このジェミノイド携帯は、パソコンや携帯電話に加えて、人と情報環境を調和させる新しい情報メディアとなります。
伊勢 史郎 京都大学 大学院工学研究科 准教授 音楽を用いた創造・交流活動を支援する聴空間共有システムの開発  本研究は、音楽という世界共通言語を違和感なく交換できる情報通信環境の構築を行うことを目的とします。演奏、建築音響エンジニアリング、音楽教育、音楽批評などの音楽の職能をもつ人々が、遠隔環境において三次元音場を共有しながら技能を実践することができ、従来よりも創造的な音楽活動を可能とする聴空間共有システムを開発します。情報通信技術を用いた新しい形の音楽制作現場は一般市民にとっても新しいエンターテインメントとして体験可能な情報空間となります。
神田 崇行 (株)国際電気通信基礎技術研究所 知能ロボティクス研究所 上級研究員 ロボットによる街角の情報環境の構築  本研究は、ショッピングモールのような人が行きかう街角の広場や通路において、センサネットワークを用いて街角の状況や場所の使われ方を理解するという街角環境理解技術、ロボットが環境と調和して移動したり、人々に親和的に話しかけたりするためのインタラクション技術を実現します。街角を移動して人々と対話するロボットが、環境に調和して様々なサービスを提供できるような「ロボットによる街角の情報環境」を構築します。
黄瀬 浩一 大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 文字・文書メディアの新しい利用基盤技術の開発とそれに基づく人間調和型情報環境の構築  本研究は、文字・文書という身近で古典的なメディアを、高速文字認識・文書画像検索技術などの情報通信技術を駆使し、新しいメディアへと変貌させます。具体的には、看板やポスターに基づいてナビゲーションを行ったり、評判情報などを瞬時に検索すること、読書履歴や今読んでいる箇所に応じて、読者の理解を助ける情報を瞬時に提示することなどが可能となります。すなわち、古典的メデイアが、人に応じて語りかけてくる動的メディアに変貌します。
八木 康史 大阪大学 産業科学研究所 教授 歩容意図行動モデルに基づいた人物行動解析と心を写す情報環境の構築  本研究は、行動として歩行を取り上げ、行動と意図の関係を歩容意図行動モデルとして記述し、映像中の歩行パターン(歩容)から「人の意図や心身状態、人間関係」を読み取る技術を構築します。さらに、意図に基づく情報提示の在り方を検討し、心を写す情報環境の構築も目指します。本成果は、例えば、広域監視における犯罪予防、教育現場における心理ケアや指導支援、商店街での販売誘導等の様々な応用のための基礎となります。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:東倉 洋一(国立情報学研究所 副所長・教授)

本研究領域の戦略目標は、ユビキタスネットワーク環境が日常生活のインフラになりつつある中、情報環境が人間と適応的、親和的かつ能動的に相互作用し、個人や社会に必要かつ最適な作用・効果を提供する人間調和型情報環境技術を実現し、情報環境と人間の共生社会を構築することを目指しています。

現在、さまざまな情報環境技術が研究開発され、すでに応用に供されているものもありますが、人間との調和という視点からは十分とは言えません。この現状を打開し、個々の技術を人間との調和型技術に導くために、分野間の壁を超えて連携・融合・統合に積極的に取り組み、他分野の知識、理論や手法を生かす姿勢をもつことが重要です。また、基礎的な課題であっても「人間と情報環境の共生」に関して具体的な戦略をもち、大きく発展するポテンシャルをもつものが大切です。

このような方針に対して、前回と同様、大変広範囲にわたる研究提案をいただき、応募件数は73件に達しました。この中で、「要素技術の単純な組み合わせになっていないか」、「既存技術開発の延長になっていないか」、「個別分野の応用開発に留まっていないか」などの視点から検討を行い、11件を面接選考の対象としました。面接の結果、最終的に「遠隔コミュニケーションにおける新しい情報メディア」、「遠隔環境における聴空間共有」、「情報環境としてのロボット」、「新しい文字・文書情報基盤」、「歩行パターンからの意図理解」に関する5件を採択しましたが、いずれも人間と情報環境の共生に関して新しい価値を創造する可能性を持つものとして、大いに期待しています。来年度も今回と同様な方針で研究提案を募集する予定です。