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科学技術振興機構報 第734号

平成22年5月18日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報ポータル部)
URL http://www.jst.go.jp

睡眠の深さやリズムを測れる携帯型脳波計開発のベンチャー企業設立

(JST大学発ベンチャー創出推進の研究開発成果を事業展開)

JST(理事長 北澤 宏一)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果を基にした起業のための研究開発を推進しています。

平成19年度より財団法人 大阪バイオサイエンス研究所に委託していた研究開発課題「睡眠脳波計測と睡眠評価技術の確立及び評価システムの構築」(開発代表者:裏出 良博 財団法人 大阪バイオサイエンス研究所 第二研究部長、起業家:吉田 政樹)において、自宅や旅先などでも簡単に睡眠の質を測定できるシステムの開発に成功し、この成果を基に平成22年4月16日(金)、メンバーらが出資して「スリープウェル株式会社」を設立しました。

このシステムは、一対の電極注1)で測定した脳波注2)から、一晩の睡眠の深さや睡眠のリズムなどを判定するものです。

24時間社会となった先進国では人々は昼夜を問わず活動し、睡眠障害注3)に悩む人口が増加の一途をたどっています。しかし、日本では睡眠医学の環境整備はいまだ十分ではなく、不眠の程度や毎日の睡眠の質・リズムを実用的かつ簡便に計測できる機器はありませんでした。

裏出 良博 部長を中心とする本研究開発チームは、これまでに蓄積してきたラットやマウスなどの実験動物の脳波を用いた睡眠の脳波解析についての膨大な基礎的データや知見を活用して、自宅など病院以外の場所での睡眠の質を客観的かつ定量的に測定できる携帯型脳波計測装置と評価システムを開発しました。

今後、色々な睡眠データを取得して分析することで、例えば、うつ病などの精神疾患で最初に現れる不眠症状を簡単に計測できる可能性があります。また、この携帯型脳波計測装置と評価システムによって快適な睡眠環境の獲得、交通事故防止、メンタルヘルスケアの良質化などが可能となり、Quality of Life(生活の質:QOL)向上に寄与することが期待されます。

同社は今後の事業展開として、まずは日本国内で快眠グッズの開発企業や睡眠を研究する大学などの研究機関向けに事業を行い、事業化後3年までに売上高1億円の達成を目指し、5年後にはアメリカ、欧州、中国などの睡眠環境改善へのニーズを事業機会として、海外進出を目指します。

今回の「スリープウェル株式会社」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」および「大学発ベンチャー創出推進」によって設立したベンチャー企業数は、106社となりました。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。

独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進

研究開発課題 「睡眠脳波計測と睡眠評価技術の確立及び評価システムの構築」
開発代表者 裏出 良博(財団法人 大阪バイオサイエンス研究所 第二研究部長)
起業家 吉田 政樹
研究開発期間 平成19〜21年

独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進では、大学・公的研究機関などの研究成果を基にした起業および事業展開に必要な研究開発を推進することにより、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学発ベンチャーが創出され、これを通じて大学などの研究成果の社会・経済への還元を推進することを目的としています。

<開発の背景>

日本のみならず世界的に24時間社会が広がり、不眠に悩む人口が増加の一途をたどっています。睡眠障害はうつ病や循環器系の病気などの引き金になるといわれ、そのため、服薬規制のある睡眠薬や有効性について科学的根拠が希薄な快眠食まで含め、関連市場は成長を続けています。

また、睡眠の研究や医療に目を向けると、日本では睡眠医学の環境整備はいまだ十分ではなく、不眠をはじめ睡眠の質やリズムを簡便に計測する仕組みは存在しません。病院などで行われる睡眠検査(終夜睡眠ポリグラフィー検査:PSG)では、大掛かりな装置を使い多数の電極を装着して、脳波、眼球の動き、あごの筋電位、呼吸数、いびき発生有無など、多くの種類のデータを計測しなければなりません。このような問題点を改善した簡便な睡眠計測サービスの提供により、快適な睡眠環境の獲得、交通事故防止、メンタルヘルスケアの良質化を実現させ、ひいてはQOLの向上に寄与するために、本開発チームは携帯型脳波計測装置と評価システムを開発しました。

<研究開発の内容>

裏出 良博 部長らのチームは、これまでのラットやマウスなどの実験動物を用いた基礎研究を通じて、一対の電極で脳波を測定し、睡眠のリズムや深度を判定して睡眠状況を定量的に評価できる基本システムの構築に成功していました。

同チームは、これらの基本的な睡眠計測方法と豊富に保有する睡眠や脳波解析の知見を人間用に応用して、自宅や旅先で睡眠脳波を簡単に計測できるポータブル脳波計の開発を通し、特殊な施設や機器を用いずに簡単に睡眠の質を計る測定・評価方法(睡眠ステージ注4)を判定する方法)を確立しました。

これまでの睡眠の質の評価・計測は、大掛かりな装置を必要とするPSGにより計測されてきました。この方法では睡眠の質を正確に評価することができるものの、計測費用が高額となり、同装置を保有する施設に拘束されるデメリットがありました。

本開発チームが今回開発した携帯型脳波計「商品名:夢眠計」は、従来のような大掛かりな装置を用いずに、単一電極による脳波の計測を可能とした独自技術に基づく世界最小レベルの携帯型脳波計測装置(重量約60g)です。「夢眠計」は、装着が容易で不快感も少なく、個々人が日常的かつ簡易に脳波測定が可能となり、睡眠の質を計測できるようになります。

PSGでは、複数チャンネルの脳波情報を、脳波検査技師が肉眼で判定していました。本開発チームは、一対の電極(チャンネル)で計測した脳波をデジタルデータ化し、独自に構築したアルゴリズムにて短時間で解析する画期的なシステムを開発しました。これにより、PSGでは2時間程度必要であった解析時間が、本システムでは5分程度と大幅短縮が可能となりました。図1では、本装置での周波数ごとの脳波強度をPSGの計測データと比較して示していますが、同等なデータが得られています。また、図2は、睡眠ステージについて、現状で一般的な臨床検査として用いられているPSGによる判定結果と「夢眠計」による判定結果を30秒ごとの経過として対比していますが、「夢眠計」による判定結果はPSGによる判定結果と比較して遜色はありません。

今後、色々な睡眠データを取得して分析することで、例えば、うつ病などの精神疾患で最初に現れる不眠症状を簡単に計測できる可能性があります。また、この携帯型脳波計測装置と評価システムによって快適な睡眠環境の獲得、交通事故防止、メンタルヘルスケアの良質化などが可能となり、QOL向上に寄与することが期待されます。

<今後の事業展開>

今後の事業展開として、まずは日本国内で快眠グッズの開発企業や睡眠を研究する大学などの研究機関向けに事業を行い、事業化後3年までに売上高1億円を達成することを目指します。中長期的には、一般家庭向けの睡眠計測機器の販売、睡眠評価サービスの提供、販売提携やOEM提携についても検討します。また、5年後にはアメリカ、欧州、中国などの睡眠環境改善へのニーズを事業機会として、海外進出を目指します。

サービスのレベルとしては、第1ステージとして、快眠グッズ(例:睡眠薬・睡眠食、快眠食、快眠ベッドなど)の開発企業や睡眠を研究する大学などの研究機関、交通機関に対して、「夢眠計」をレンタルして、得られた脳波データから睡眠の質やリズムを解析・報告するサービスを提供します。また、第2ステージでは、人間ドックや企業の健康診断向けに、通常の検査項目に付加するオプションとして、予防医療の観点から睡眠評価サービスを提供する予定です。さらに、第3ステージは、医療機器の認可を取得し、睡眠クリニックや神経内科などにおいて、PSG実施の前段階の睡眠評価サービスを提供する予定です。

<参考図>

図1

図1 PSGと携帯型脳波計の脳波強度の比較

図2

図2 睡眠ステージの判定結果比較

図3

図3 脳波計測装置(試作機:左)とPSG(右)

<用語説明>

注1) 電極
電気信号を測定するなどの目的で電気的に接続する部分のことで、特に体表面に設置し、筋肉または神経組織内の生体電気信号を検知する導体を生体電極という。この場合の一対の電極とは、額および乳様突起(耳後部)に装着した2箇所の電極をいう。
このたび開発した「夢眠計」は、頭皮に多数の電極を装着する必要がある睡眠検査(PSG)とは異なり、頭皮以外の部分に2箇所装着すればよいため安眠を阻害することがない。
注2) 脳波
頭皮上につけた電極から導出した電位変化を縦軸に、時間経過を横軸にとって記録したものをいう。電極付近にある脳の神経細胞から生じた総合電位の変動を測定したもので、睡眠の深さやリズムのほかに、脳の機能障害の有無や程度なども知ることができる。
注3) 睡眠障害
睡眠障害の国際分類によると、睡眠障害は睡眠異常、睡眠随伴症、内科的・精神医学的障害と関連する呼吸器系の睡眠障害に大別される。例えば、最近注目を集めている睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に呼吸が停止するために、深い睡眠を取ることができず、その結果として日中に強い眠気が現れる病気である。
注4) 睡眠ステージ
脳波は睡眠の深さにほぼ対応して特徴的な波形を示す。その特徴によってレム睡眠とノンレム睡眠に分けられる。レム睡眠とは、急速な眼球運動を伴う睡眠状態のことで、レム睡眠の時に夢を見ていると言われている。ノンレム睡眠はレム睡眠以外の睡眠状態で、睡眠の深さに応じてステージ1〜ステージ4に分類される。睡眠ステージの判定は国際判定基準マニュアルに準じて20秒または30秒の区間ごとに行う。1つの区間に複数のステージが混在する場合は、最も多くを占めるステージを採用する。

参考:<会社概要、ほか>

<お問い合わせ先>

スリープウェル株式会社
〒531-0072 大阪府大阪市北区豊崎3−20−9 三栄ビル7階7号室
吉田 政樹(ヨシダ マサキ)
Tel:06-6450-8787 Fax:06-6450-8784
E-mail:(平成22年5月末まで)
(同年6月以降)

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