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別紙1

戦略的国際科学技術協力推進事業(共同研究型)「日本-フランス共同研究」
平成22年度採択課題一覧

<総評> 研究主幹 米澤 明憲(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)

本事業では、現在日本とフランスでそれぞれに先端的な研究が展開されている「情報通信技術」において、両国の協力を緊密にすることによって、世界的な研究成果や革新的な技術を創出しうる課題を選定することを目的として、審査を行いました。

日仏合同評価委員会は、応募のあった30件を対象として両国合同書類選考会を実施し、その中から9件をヒアリング対象として選び、合同面接選考会を開催しました。

合同選考会では、研究内容の吟味のほかに、(1)現在世界的に競われている分野であって、経済的・社会的に大きなインパクトが期待できること、(2)双方の研究手法が補完的な関係にあり、日仏協力によって研究の進展が飛躍的に加速すると期待されるチーム構成であること―― の2点を加味して検討を行いました。

採択に至らなかった申請にも優れたものが多数ありましたが、以上のような過程を経て日仏審査委員の双方から高い評価が得られた、下表に掲載されている4件を最終的に採択するに至りました。

課題名 日本側
研究代表者
所属・役職 課題概要
フランス側
研究代表者
テラヘルツ帯プラズモニック・ナノICTデバイスを利用した無線通信 尾辻 泰一 東北大学電気通信研究所教授  本研究は、テラヘルツ波を利用した超広帯域ユビキタス無線通信のための革新的なプラズモニックナノデバイス技術の開発を目的とする。
 日本側は主にプラズモン共鳴型光源デバイスおよび変調器デバイスについて、フランス側は主にフォトダイオードによる光源デバイスおよび検出器デバイスについて、互いにノウハウを提供し、無線通信実証試験機を開発する。
 両国の研究チームが相互補完的に取り組むことで、次世代高精細テレビのデータ非圧縮伝送や遠隔医療操作などにおける大容量無線伝送技術の実用化に貢献することが期待される。
Wojciech Knap
(ウォイチェック・クナップ)
国立科学研究センター―モンペリエ第2大学 研究ディレクター
ポストペタスケールコンピューティングのためのフレームワークとプログラミング 佐藤 三久 筑波大学 大学院システム情報工学研究科・計算科学研究センター 教授  本研究は、ポストペタスケール※)の高性能コンピューティングのためのプログラミングモデルとプログラミング言語の確立を目的とする。
 日本側およびフランス側の持つ大規模並列プラットフォームを活用し、大規模システムに適応した実行時ソフトウエアをプログラミング言語に統合する。また、これらを用いたプログラミング環境で、新規の数値計算アルゴリズムやライブラリの開発・実証評価・改良について日仏双方の強みを組み合わせて実施する。
 両国の研究チームが相互補完的に取り組むことで、これからの計算科学分野のためのエクサスケールの高性能計算システムの実現に貢献することが期待される。
Serge Petiton
(セルジュ・ペテトン)
国立情報学自動制御研究所 サクレイ研究センター 教授
組込みシステムにおける暗号プロセッサの物理攻撃に対する安全性評価 本間 尚文 東北大学 大学院情報科学研究科 准教授  本研究は、物理攻撃の対象となる組込みシステムに実装された暗号モジュールの新たな安全性評価技術の確立を目的とする。
 日本側はボトムアップアプローチによる評価ボードや暗号回路の実装および実際の電力・電磁波波形の計測・評価を担当し、フランス側は主にトップダウンアプローチによるハイレベルなシミュレータと解析アルゴリズムの開発および評価を担当する。
 両国の研究チームが相互補完的に取り組むことで、暗号ソフトウェア・ハードウェアの設計初期段階における情報漏洩リスク評価手法の実現に貢献することが期待される。
Jean-Luc Danger
(ジャンリュック・ダンジェ)
国立パリ高等情報通信大学 通信電子学部 教授
新しい無線システムの使用形態で生じる電波への妊娠女性・胎児の曝露評価モデルの開発 渡邊 聡一 情報通信研究機構 EMCグループ 研究マネージャー  本研究は、新たな無線システムのさまざまな使用形態における胎児と妊娠女性の電波曝露モデルを開発し、同モデルによる評価・解析を実施することを目的とする。
 日本側の持つ人体モデル開発・計算技術を中心に胎児や子宮内組織の解剖学的変形を考慮した新しい変形ツールを開発するとともに、さまざまな条件における電波曝露量の高速数値計算を実施する。また、フランス側の統計処理ノウハウを活用して膨大な不確かさ要因を考慮した統計的評価手法を開発する。
 両国の研究チームが相互補完的に取り組むことで、電波曝露の適正な管理手法を実現し、将来の無線システムの健全な利用環境の構築に貢献することが期待される。
Joe Wiart
(ジョー・ウィアート)
フランステレコム・オレンジ研究所 ホイスト研究所 所長

※) スーパーコンピュータの処理速度を示す単位としては、1秒間に行える浮動小数点演算の回数を示すフロップス(FLOPS:FLoating point Operations Per Second)がありますが、現在の世界最速スーパーコンピュータの処理能力はペタフロップス(=10の15乗×フロップス)のスケールとなっており、本課題では、ペタスケールの次、すなわちポストペタスケールの課題として、エクサフロップス(=10の18乗×フロップス)級の処理能力実現に向けた取り組みを行います。なお、現在の一般的なパーソナルコンピューターの処理能力は、ギガフロップス(=10の9乗×フロップス)程度のスケールとなっています。